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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

信濃蒲公英に吸蜜するシェルランプの翅を持つウスバシロチョウ(妻女山里山通信)

2014-05-13 | アウトドア・ネイチャーフォト
 今年のウスバシロチョウ(薄羽白蝶)の初見は、5月6日でした。ただこの頃は、まだ吸蜜(きゅうみつ)できる花がほとんど咲いていません。花を求めても留まれず、ただひたすら舞い続けている状態なので撮影ができません。幼虫の食草であるムラサキケマンは咲いているのですが、この花では吸蜜しないのです。一度ムラサキケマンに留まって吸蜜しようとする一頭がいましたが、やはり無理でした。わずかに咲くミツバツチグリや咲き始めのタンポポが命の糧となります。ヒメオドリコソウでも吸蜜していましたが、いかんせんどうにも花が小さく蜜も少ないようです。

 グングン伸び始めたヤエムグラ(八重葎)に留まって休んでいる一頭を見つけました。花が少なく飛びつかれたのでしょうか。ウスバシロチョウは、シロチョウ科ではなくアゲハチョウ科なので、ウスバアゲハ(薄羽揚羽)とも呼ばれます。ヤエムグラは、種がひっつき虫として有名ですが、茎にも刺があって撮影しているとよく服に絡みつきます。

 結局、この個体はかなり長い時間留まって休んでいました。幸運な一頭は、シナノタンポポ(信濃蒲公英)を見つけました。吸蜜は激しく小刻みに頭を口吻ごと前後し行います。ひとつの蜜腺の蜜の量が少ないのか、花の上をあちこち歩き回っています。

 車が通る林道脇の蒲公英は、純粋なシナノタンポポではなく、セイヨウタンポポとの交雑種の様です。花の下の総苞外片が、シナノタンポポは密着しているのですが、交雑種は斜め下へ反り返っています。氷河期の生き残りと言われるウスバシロチョウは、ご覧のとおりかなり体が毛むくじゃらです。翅は鱗粉が少なく、シェルランプのシェードの様に少し透き通っています。重なった向こう側の翅や、背後にある花が透けて見えるなんとも美しい蝶です。

 陣場平の緑も日に日に濃くなってきました。この風景の中に十数頭のウスバシロチョウが舞っています。ウスバシロチョウは、本当に太陽が好きで、日が昇ると盛んに飛び始めます。逆に曇り空で湿度が高い日は、頻繁に留まる様になります。翅が重くなるのでしょうか。翅を羽ばたかせる角度が狭いため、優雅に舞うというよりパタパタ舞うという感じで飛びますが、樹冠まで登るとす~っと滑空して下りてきます。その姿はとても優雅です。しかし、ヤエムグラに留まったメスに、背後からオスがいきなり乗りかかりました。結構乱暴な求愛行動です。結局メスに激しく暴れられて逃げられてしまいました。メスが気に入ると交尾に入りますが、メスは気に入った場所を求めて、交尾したままオスを引きずって行くことがあります。

 北向きの半日陰に群生するイカリソウ(碇草・錨草)。淫羊霍(いんようかく)という生薬で強壮剤として用いられます。真ん中のカキドウシ(垣通、籬通)の別名は、カントリソウ(癇取草)、レンセンソウ(連銭草)で、子供の夜泣きや疳(かん)の虫に用いられた民間薬です。消炎薬として黄疸、胆道結石、腎臓結石、膀胱結石などに、糖尿病の血糖値を下げる効果もあるそうです。右のハルザキヤマガラシ(セイヨウヤマガラシ)は、要注意外来生物です。明治の末期に帰化。日本の亜高山~高山に自生するヤマガラシとは同属です。 花柱が雄しべと同じ長さなのがセイヨウヤマガラシの特徴。林道脇やスキー場など、どこでも目にする帰化植物です。

 椎茸のホダ木の灌水と山の除草を終えて妻女山展望台に登ると、中央に爺ヶ岳、左に蓮華岳と右奥に針ノ木岳、右に鹿島槍ヶ岳が綺麗に見えました。周囲の里山の緑も濃くなってきました。さらに右には白馬三山も見えるのですが、やはり北にあるので残雪の量が全く違います。善光寺平広しといえども、北アルプス、戸隠連峰、四阿山と根子岳が望めるのは、妻女山(旧赤坂山)ぐらいなのです。ここは夕日の名所でもあります。
 梅雨入りまで、デスクワークに、山仕事に畑仕事と目の回るような忙しい日々の到来です。山仕事をしていると、大きなオオスズメバチの女王が、営巣地を求めてやってきました。秋と違って攻撃性は少ないとはいえ、やはり緊張します。クマバチが盛んに縄張りでホバリングしています。ブーンという大きな羽音に驚かされますが、これはオスで針を持っていないので刺しません。ただ、オス同士の空中戦はかなり強烈です。メスを待って何時間もホバリングする驚異的な体力を持っています。
 このクマバチは、長いこと航空力学的には飛べないと言われてきた不本意な過去があります。大きな体に比べて翅が小さ過ぎるというのです。理論的に飛べるはずがないと。そんな事いわれても目の前のクマバチは実際に飛んでいるわけですから迷惑な話です。ほっといてくれよと言うでしょう。レイノルズ数(空気の粘度)の法則でやっと、こんな大きな体に小さな翅でも飛べることが証明されたのです。人間にとって空気はサラサラですが、小さなクマバチにとっては結構粘度のある物質なわけで、ちょうど人間が水中を泳ぐ感じなのかもしれません。
 明日の長野市の最高気温の予想は、なんと30度! 最低が13度ですから、この気温差は要注意です。

★妻女山山系の自然については、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。蝶の写真はこちらにたくさんあります。
 
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