モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

おしぼりうどんの季節

2006-11-23 | 男の料理・グルメ
信州から辛い地大根が届いたので、早速おしぼりうどんを作りました。
辛味大根は、信州坂城の「ねずみ大根」が有名ですが、これだけではなく全国に色々な種類があります。普通は薬味として蕎麦やうどん、魚介料理や和風の肉料理などに使われますが、信州の旧埴科郡と旧更級郡を中心とした極狭い地域では、これを摺りおろした汁に味噌を溶いてうどん汁としていただきます。もちろん蕎麦つゆとしても最高です。

普通はおしぼりうどんではなく、ただ「おしぼり」と言います。「今晩おしぼりにするだねえ」とか言うわけです。今はジューサーにかけますが、その昔は、下ろし金で摺りおろして手ぬぐいに包んで手で絞ったために「おしぼりうどん」と呼ばれるようになったわけです。寒い冬の夜に、大勢の家族の分を絞るのは大変なことだったと母は言います。おしぼりは、母や祖母の愛情がこもる数百年の歴史がある故郷の伝統食なのです。芭蕉も「身にしみて 大根からし 秋の風」と詠んでいます。

冷たい付け汁に釜揚げうどんをつけていただきます。味噌はもちろん信州味噌ですが、薬味には、刻みネギが一般的で、好みで花鰹や刻み海苔、摺りゴマなどを入れます。味噌をしょう油にしてネギをたっぷりと入れるとむせるほど辛くなります。これでなければと言い張る年寄りもいますが、普通の人が食べたら間違いなくむせてブハッと吐き出します。よく摺りおろしたペースト状の胡桃を入れると濃厚なおしぼりになります。

辛味大根は、辛味成分のイソチオシアネートを多く含んでいます。栄養価も高く、カリウムやビタミンAやカロテンを豊富に含んでいるのです。ジアスターゼも豊富ですから、消化剤を一緒に飲んでいるようなものと良く言われます。そんなわけでお酒を飲んだあとの締めにも最適なんです。地元の人はこの味を「あまもっくら」と表現します。初めての方は、大根の辛さに驚愕するでしょうが、同時に芳醇な香りと旨味、甘さに驚かれることでしょう。

本来家庭食なので、昔はこんなものを出す店は無かったのですが、最近は伝統食を作らない家庭も増え、供する店も増えました。千曲川随一の歓楽街、善光寺精進落としの湯・戸倉上山田温泉には、おしぼりを食べさせる店が何軒もあります。もちろん近隣の坂城、屋代、稲荷山、篠ノ井、松代などにも食べさせてくれる店があり、地元の人だけでなく、遠方からの観光客にも喜ばれているようです。

写真のものはネズミ大根ではなく、松代で作られている信州地大根(灰原辛味大根系か・写真左下)ですが、相当の辛味をもっています。また甘みや旨味があり、タクアン漬けやたまり漬けや煮もの、炒めものにも最適です。これで作った天日干しの切り干し大根は絶品です。あまり辛いのが得意でない人は、これに青大根、別名中国ダイコン(江都青長・写真右下)という中身も緑の生食用大根の汁を混ぜていただきます。子供は、後者のみでおしぼりにします。

信州には、在来種の地野菜がたくさんあります。大根でも長野市のたたら大根と灰原辛味大根、戸隠の戸隠地大根、坂城町のねずみ大根(中之条大根・なかんじょだいこん)、上田市の山口大根、下條村の親田辛味大根などです。地大根とは元々辛いものなのです。青首大根ではおしぼりはできませんし美味しくありません。スーパーと種屋が日本の野菜を不味くしたというのが父の口癖です。ここは伝統野菜の復活を切に願うものであります。

うどんですが、もちろん手打ちです。今回は、オレゴンとゆめせいき、伊賀筑後オレゴン(通称イガチクという幻の小麦粉)をブレンドしました。おしぼりの時は、汁とからみがいいようにあまりコシを強くしないように打ちます。

おしぼりうどん
は、最後に汁も全部飲みきってしまいます。心も体もぬくぬくと温まる料理なのです。レシピは、MORI MORI RECIPEの日本料理にあります。幻のイガチクうどんも。ぜひご覧ください。
コメント (5)
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