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枕詞「かげろふの―小野」

2015年02月15日 | 日本国語大辞典-か行

「かげろふの―小野」という用語を、以下の三つの辞典で調べてみました。
 A 『日本うたことば表現辞典10 枕詞編・上』遊子館、2007年、『日本うたことば表現辞典13 歌枕編・下』遊子館、2008年
 B 『角川古語大辞典 一巻』角川書店、1982年
 C 『時代別国語大辞典 室町時代篇 二』三省堂、1989年

 まずA『日本うたことば表現辞典10 枕詞編・上』の195~196ページに「かげろふの【陽炎の・蜉蝣の】」という項目はありましたが、解説本文中にも例歌にも「小野」にかかるという記載はありませんでした。
 次にA『日本うたことば表現辞典13 歌枕編・下』の492ページにあたると(当該ページは「大和国」)、「かげろふのをの【蜻蛉の小野】」で立項。以下が説明文。

 所在未詳。奈良県高市市とする説がある。景物は「若草・菫草・雪」など。「かげろふ」に「陽炎」を掛ける。「かげろふの」は「をの」「ほのか」にかかる枕詞。『八雲御抄』に「大和 かげろふのを野(みよしの也。かるかや。)」とある。

 さらにB『角川古語大辞典 一巻』にあたってみると、「かげろふの」という枕詞の項には「小野」の記載はありませんでしたが、736ページには「かげろふのをの」という項目が立項。以下が説明文。

所名。秋津野(あきづの)①に同じ。「立ち去る姿はかげろふの小野の浅茅と形は消えて」(謡‐生田敦盛)「かげろふの小野。猿引坂、琴堂」(風俗文選・吉野賦)

 C『時代別国語大辞典 室町時代篇 二』が枕詞としての記載がはっきりありました。156ページ「陽炎の」の項目の説明文は以下のとおり。

枕詞。 ①陽炎の立つ小野の縁で「小野」にかかる。「蜻蛉カゲロフノ小野ヲノ 大倭」(広本節用)「かけろふの小野 睗矣カケロウ小野ト書、大和ナリ」(伊呂波拾要抄)「いくとせへてかかげろふの小野 年よりぬる物はかげのごとくになるを、かげろふとつづけたる也。かげろふの小野は、大和名所也。小野小町を又云かけたる也」(謡抄 関寺小町)②「石(いし・いは)」にかかる。「粟津の森やかげろふの、石山寺をふしおがみ」(光悦本謡=田村)「夜ごゑもいとど神さびて、月かげろふの石清水の、あさからぬ誓かな」(謡=放生川)

 以上の辞典例にあたってみて、謡曲用例も探してみようと思いました。ふつう「枕詞」と言えば、和歌の用法と思っていましたが、歌謡も含むんですね。
 前日の記事中で集めた和歌例から、「かげろふの+小野」という用語は「1300年代頃に流行った用法らしい」ことが分かりましたが、上記B・C辞典中の謡曲用例を見ると、その後の室町時代には「かげろふの+小野」という表現は、熟した使い方がされたと言えると思います。春という季節はもはや関係なく使用してるし、掛詞との併用が顕著だから。
 [枕詞]となるためには、ある特定の語に付く、というだけでなく、どの季節でも関係なく使用できて、掛詞とも併用する、というぐらいの条件がありそう。