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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 藤花の宴

2013年03月22日 | 日本古典文学-春

飛香舎にて藤花宴侍けるに 延喜御歌
かくてこそみまくほしけれ万代をかけて忍へる藤なみの花
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
延喜御時、飛香舎にて、藤花宴侍ける時に 小野宮太政大臣
うすくこくみたれてさける藤の花ひとしき色はあらしとそ思
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
延喜御時、藤壷の藤花の宴せさせ給けるに、殿上のおのことも歌つかうまつりけるに 皇太后宮権太夫国章
ふちの花みやのうちにはむらさきの雲かとのみそあやまたれける
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
延喜御時、飛香舎藤宴によめる 藤原敏行朝臣
藤の花風おさまれはむらさきの雲たちさらぬ所とそみる
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月中の十日ばかりに、藤井の宮に、藤の花の賀したまふ。(略)
 〔絵指示〕藤井の宮。大いなる巌のほとりに五葉百樹ばかり、あるは川にのぞきて立てるに、おもしろき藤木ごとにかかりて、ただ今盛りなり。木の下の砂子を敷きたるごと麗し。木の根、しるく見えず。池の広きこと、とをうみに劣らで、水の清きこと鏡の面に劣らず。巌の立てる姿、植ゑたるもののごとくして、苔生ひたること繁く青し。その池の上に、うるはしう高き檜皮のおとど三つ立てり。巡りに藤かかれる五葉、巡りて立てり。
 そのおとどに、藤の花の絵描きたる御屏風ども立て渡し、いひ知らず清らなるおもしろき褥、上莚敷き並べて、君だち着き並みたまへり。おとどの柱の隅、藤の花かざし渡したり。御前ごとに折敷ども参り渡したり。藤の花松の枝、沈の枝に咲かせて、金銀瑠璃の鶯に食はせて、歌の題書きて種松参らす。君だち御覧じて、土器とりて、大和歌詠みたまへり
(宇津保物語~新編日本古典文学全集)

やよひの下の十日はかりに、三条右大臣、兼輔朝臣の家にまかりわたりて侍けるに、藤のはなさけるやとり水のほとりにて、かれこれおほみきたうへけるつゐてに 三条右大臣
かきりなき名におふ藤の花なれはそこゐもしらぬ色のふかさか
 兼輔朝臣
いろふかく匂ひし事は藤なみの立もかへらて君とまれとか
 貫之
さほさせとふかさもしらぬ藤なれは色をも人もしらしとそ思
ことふえなとしてあそひ、ものかたりなとし侍けるほとに、夜ふけにけれは、まかりとまりて、又のあしたに 三条右大臣
きのふ見し花のかほとてけさみれはねてこそ更に色まさりけれ
 兼輔朝臣
一夜のみねてしかへらは藤の花心とけたる色みせんやは
 貫之
あさほらけした行水はあさけれとふかくそ花の色はみえける
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

弥生の頃、「松陰の家の藤を御覧に御行幸(おほんみゆき)あるべし」と、かねて仰せ言ありければ、御設けし給へり。この源中納言は、五条わたり賀茂川の辺(ほと)りに、家造りして住み給へり。池をいと大きに掘らせて、川を堰き入れさせ、汀のかたに松を多く植ゑならべて、その陰を、おもしろく造りなし給ひければ、世の人、「松陰の中納言」と、言ひあへり。その松に藤のしなひの、世にためしなう長う咲きかかり、色ことなるがありけり。
 まだ、夜こめての行幸(みゆき)にてはありけれども、五条辺(あた)りにては東の山の端よりさし出づる日影の、玉の御輿に光をそへ、音楽の音(おと)は賀茂川の川風に誘はれて、思はぬかたまで聞こゆなるも、いといかめし。設けのために造り給ふ御殿は、いと高ければ、山々の霞の細う棚引ける、上より散れる花の雪かとおぼめくに、雁が音(ね)のうちつらねて、越路おぼえて行くなるも、いと小さう見ゆるものから、声のまたさなからぬこそ、数のほども思ひ知らるれ。ふもとの小田をかへす賤(しず)の男(を)の、とりどりなるを、御覧じはじめさせ給ひて、いとめづらかに思しやらせ給へり。
藤の陰には、いと大きなる石の、上は平らなるが、もとは島先へつい出だされて、波はひまなくうち寄するに、松の枝は日影をもらさぬまでにさしかはし、御簾をかけたらんやうに藤の咲きかかりたる所に、畳・褥をかさねて、仮の御座(おまし)をかまへ給へり。それに移らせ給ひて、花のしなひのびたるばかりに下がりて、波にうつろへる影を御覧じ給ひて、
 さざ波にうつろふ藤の影見れば枝にしられぬ春風ぞふく
(略)
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)

三月つごもりがたにふぢつほのふぢのはな。えもいはずおもしろくへいにさきかゝりてみるは。みづをやりみづにほりわけてながせ給へるに。さきかゝりたるいとおかし。このはなのえんせさせ給。かんだちめてんじやう人まいりて。御あそびあり。すけみちのべんびはさゑもんのすけのりすゑ。わごんなどひきあはせ給。大夫権大夫などものずむじうたうたひなどあそび給。にようばう
  むらさきのくもたちまがふふぢのはないかにおらましいろもわかれず
  なつにたにちきりをかけぬ花ならばいかにかせましはるのくるゝを。にようばうてんじやう人などおほかれどとゞめつ。
(栄花物語~国文学研究資料館HPより)

四月の朔日ごろ、御前の藤の花、いとおもしろう咲き乱れて、世の常の色ならず、ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに、遊びなどしたまひて、暮れ行くほどの、いとど色まされるに、頭中将して、御消息あり。
 「一日の花の影の対面の、飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば、立ち寄りたまひなむや」
 とあり。(略)
  月はさし出でぬれど、花の色さだかにも見えぬほどなるを、もてあそぶに心を寄せて、大酒参り、御遊びなどしたまふ。(略)
  七日の夕月夜、影ほのかなるに、池の鏡のどかに澄みわたれり。げに、まだほのかなる梢どもの、さうざうしきころなるに、いたうけしきばみ横たはれる松の、木高きほどにはあらぬに、かかれる花のさま、世の常ならずおもしろし。
(源氏物語・~バージニア大学HPより)

(応和元年閏三月)十一日甲戌。於釣台有藤花宴。船楽。
(日本紀略~「新訂増補 国史大系11」)