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常習一罪ということ

2005-08-21 23:50:33 | Weblog
 常習一罪というものがある。常習累犯窃盗,常習強窃盗,常習賭博,常習暴行といったものであるが,これらは,何回やっても,1罪にすることで,実務は固まっている。だから文句を言っても仕方ないのだが,昔から,どうしてそうなの,という疑問が抜けきれない。

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 そもそも罪数は,構成要件に該当する行為の個数を基準にして決定されるというのが一般の原則である。しかし,常習一罪は,構成要件に該当する行為がいくつあっても1罪だというのである。

 私は刑事には疎いし,もう刑法の教科書も手元にないので,正確にどういう理由づけがされていたか忘れてしまったが,常習罪は,犯罪者としての人格の発現であるから,犯罪者人格の発現と認められる限り1罪であるとか,同じように,処罰の対象も,犯罪者人格に向けられるべきであるからとか,法定刑の加重の程度が著しいので,これは1罪として処罰する趣旨である,などという理由がついていたように思う。

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 確かに,単純窃盗罪が10年以下の懲役なのに対し,常習窃盗は3年以上の有期懲役(最高20年)だし,単純賭博が50万円以下の罰金または科料なのに対し,常習賭博は,3年以下の懲役(罰金にはならない)であるから,その差は大きいといえば大きい。

 しかし,犯罪者人格を処罰するのだという考え方は,他の罪について基本的に考えられている,「犯した罪に対して責任を取る」という考え方とは,大きく違っていて,一貫しない。また,そもそも人格を処罰する(人格が悪いから重い刑罰を与える)という考え方自体が,どうもしっくりこない。

 法定刑の加重の程度といっても,そこまで無茶苦茶な加重をしているとまではいえないだろう。併合罪にしても,上限が上がるだけで,単に量刑の幅が拡がるだけである。

 だから,常習一罪を肯定する理由づけは,いまいちに思える。

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 それよりも,手続面で見ると,まず,1罪1勾留の原則というものがある。1つの罪については,1回で,逮捕・勾留して最大23日で捜査を終え,起訴・不起訴を決定するというのが,現在の刑事訴訟法の原則である。これがないと,逮捕・勾留して取り調べたが,起訴に至らなかった,じゃあ,もう一度,ということになって,何のために捜査の時間制限をおいたか分からなくなる。だから,常習窃盗についても,1罪なら1回の逮捕・勾留で,前の確定判決以後のすべての窃盗行為についての捜査を遂げて,起訴・不起訴を決めるということになるのが原則ということになる。

 しかし,そんなことはおよそ不可能である。そこで,現実の捜査の現場では,ここは1罪1勾留の原則の例外だといって(事実が違うから?),事実ごとに逮捕・勾留を繰り返し,証拠が固まれば,起訴ではなく,訴因変更(事実の追加)で処分する,ということが行われているようである。

 こういうところで理屈をこねて,例外をどうにかこうにか説明するより,常習窃盗だって,窃盗1個ごとに1罪(2個以上あれば併合罪)とした方が,理論的には余程すっきりする。

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 実体面で見ても,前回の判決確定から(前刑の終了から?→どっちだったかな?)の,すべての常習性に基づく同種の犯罪行為は1罪とされるので,5万円の空き巣2回で起訴された常習累犯窃盗の被告人が,判決確定後に,実は1000万円盗った家があったなどということになると,その行為は処罰できないことになってしまう。これなら,被疑者としては,(早く娑婆に戻りたければ)発覚していない事実は黙っていた方が得だということになる。

 しかし,これを併合罪ということにすると,確定判決があっても,その前に行った犯罪行為は,確定判決後にも処罰することができる。この場合にも,法定刑の下限を割り込むことはできないから,また重い懲役に行かなければならなくなる。ということになると,後でばれるよりは,先にしゃべっておいた方が得だということになる。私としては,刑事政策的に,その方がよいのではないかと思うのだが。

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 実務が固まっている以上,何をいっても仕方がないし,特に調べものもせずにこのような文章を書くと,勉強不足がばれてしまうのだけれども,久しぶりに,そういえば昔そんなことを考えていたなぁなどということを思い出して書いてみた。


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