とりあえず法律・・・・かな?

役に立たない法律のお話をしましょう

医療過誤訴訟に27か月,専門性が壁との新聞記事

2005-07-18 23:59:45 | Weblog
 16日(土)の日経新聞に,裁判迅速化を検証する最高裁の検討会の初の報告書が出されたとの記事があり,その中で,改善が遅れているのは医療関係訴訟で,平均27.1か月と専門訴訟で最長とされている。

 記事では,「鑑定などに時間がかかるため」としているが,報告書からの引用として,専門部の設置や精通した弁護士の増加により新たに提起された事件での審理期間は改善されつつある,ということのようである。

 確かに医療過誤訴訟は,訴訟の中でも厄介な訴訟であることは間違いない。その最大の原因は,医療ということが,一般の裁判官や弁護士には全く専門外であって,それを理解することが極めて難しいということにある。

 実際問題,ここのところが医療訴訟だけではなく,専門訴訟の最大の問題点といわなければならないところで,下手をすると,原告の弁護士も被告の弁護士も,自分に味方してくれる医者の言うことを右から左に書面にして出すだけ,裁判所も十分理解しないまま,分かり易いところに飛びついて判断するということにもなりかねない。多分,本当の専門家から見ると,おかしな判断をしている医療過誤の判例は多数あるものと思われる。

 勿論,最近は,専門委員という中立の立場の医者を裁判に入れて,基本的な事項の理解を深めたり,争点整理のアドバイスをするということも行われている。しかし,それでもやっぱり難しいものは難しいというほかない。

 よくあるケースで,手術後に合併症を発症して死亡したという事例をとっても,手術中にまずいこと(医者としてしてはならないこと)があったのか,術後管理が悪かったのか,発症してからの対応がまずかったのか,検討しなければならない点は幾つもある。手術の手技だけをとっても,その病気にはAという術式とBという術式があり,Aを選択したためにある合併症が生じたが,Bを選択すればそのようなことはなかったであろうということもある。ならば,Aを選択したことが誤りかというと,そう簡単にいうこともできない。実は,Bを選択すると,別の合併症の危険が高まるということもある。では,それでいいかというと,まだまだそうもいかない。その患者の検査データを見ると,どうもBの術式を選択したほうがよさそうということもある。それでもAを選択することが医者の裁量の範囲として許されるかどうか,などということになってくると,専門家の医者であっても意見が分かれるということになるだろう。

 このように医療過誤訴訟は奥が深い。

 しかし,今提示されている審理モデルによると,そのような主張の交換は,3~4回で終わることが予定され,それで争点を確定して集中証拠調べ(証人尋問)に突入するということのようである。そのモデルが必ず強行されるということではないにしても,それが標準だということになれば,そのような回数で,裁判所に本当の争点を認識してもらうというのはかなり難しい作業だということになる。どうしてもある程度の主張の交換の回数は必要となる。主張の交換を徹底すれば,必ずしも証人尋問をしなくても,大体勝ち負けが見えてくるということもあるが・・・

 また,もうひとつの問題として,期日の間隔が1か月前後かかっていることを非難されることも多い。しかし,弁護士が1通の主張書面を書くのに1週間でできるかというとこれもまた難しい。医者の話を聞いて,言い分を理解し,裏付けとなる文献などを探させるという作業だけでも1週間とか2週間はあっという間にすぎてしまう。勿論,どっちの弁護士も他の仕事を抱えながらやらなければならない作業である。裁判所にしても,1回の期日で提出された書面を全部読みこなして理解するには,それなりの日数が必要になる。

 3つ目の問題点は,鑑定である。通常は,証拠調べをして事実を確定した後,専門家に鑑定を依頼することになるが(鑑定なしで済ませられれば,それに越したことはないが。),この専門家を選ぶことにもずいぶんな時間がかかることがある。医者だって,裁判にかかわりたくないというのが本音であろうし,余り積極的に出てくる学者の先生がいると,かえって怪しかったりもする。しかも,頼んでから鑑定書ができるまでに何か月もかかる(その昔は年単位ということもあった。)こともある。まあしかし,このあたりは,他人の問題ともいえる。

 4つ目の問題点が和解ということになる。和解交渉は,証人尋問の前とか,後とか,鑑定ができてからとか,いろいろの場合があるが,一つの案ができても,当事者に即断即決を強いることは(それがいいときもあるが普通は)難しいことである。まして,保険会社が一枚噛んでいるなどということになると,もっともっと難しいことになる。

 そんなことで,医療過誤訴訟はやはり時間がかかる。今は,裁判の質を余り問われずに,迅速化することに力点が置かれているが,迅速化しても質が低下したなどということになるのは,司法として大変まずいことではないかと思う。いずれ,その問題が噴出してくると思われる。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
医療側からの意見 (Cun)
2005-07-19 13:50:45
こんにちは。2回目のコメントで。。。



>手術後に合併症を発症して死亡したという事例



>①手術中にまずいこと

>②術後管理が悪かったのか,

>③発症してからの対応がまずかったのか



私もこの記事読みました。そして友人の義理の父の医療過誤による死亡にもかかわったことがあります。



私は法律側の人間ではないので用語に乱れが生じると思いますが基本的に医療は「準委任契約」なので①②③においてたとえ①②で問題が起こった様に見えても医学的にはある程度の確率でおこりえるとされています。

たとえば、全身麻酔の手術の際は1/1000の確率で重篤な合併症か死亡が訪れます。これは術前に説明しないと⑤説明義務違反(通常200-500万円の賠償)になりますが。



ですから通常「医療事故」といえば「③発症してからの対応がまずかったのか」に争点が置かれます。また「⑥発症の危険性が予見できたにもかかわらずもし発症した場合でも対応できる十分な医療体制を整えていなかった」場合も「医療事故」とみなせます。

このケースでは通常賠償金2000-5000万円といわれていますが。(勤務医が入っている医師賠償責任保険は通常1億円までカバーなのでそれ以上求めても余り意味なくて。。。)



あと発症してからの対応にまずく死亡したケースでも「⑦悪質な事実の隠蔽」が行われることも多く(カルテ改ざんなど)これも医療事故の争点となります。



結局は③⑥⑦が争点になるものと私は思います。

ケースとしては⑤が多いのですが。



ただ「医療は法律でどこまで割り切れるか」という問題も存在するなあというのが私の実感です。





返信する

コメントを投稿