雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

痛い痛いと叫ぶ声 ・ 今昔物語 ( 17 - 35 )

2024-07-31 07:59:38 | 今昔物語拾い読み ・ その4

     『 痛い痛いと叫ぶ声 ・ 今昔物語 ( 17 - 35 ) 』


今は昔、
聖武天皇の御代、奈良に京(都)があった時、勅命があって、夜に京中を巡って巡察することがあった。

ある時のこと、その夜の巡察の役人が真夜中の頃に、葛木の尼寺(葛城寺らしい。780 年に焼失。)の辺りを通っていると、その前の蓼原の中で、人の泣き叫ぶ声が聞こえた。
その声は、「ああ、痛い、痛い」と叫んでいた。
巡察の役人はその声を聞くと、その場所に駆けつけた。見ると、蓼原の中に人がいた。役人は怪しく思って、その者を捕らえて尋問すると、何と、盗人であった。
その寺の弥勒菩薩の銅の像を盗み取って、潰そうとしていたのである。
巡察の役人は、ただちにその盗人を捕縛して、役所に渡して投獄した。
天皇に事の次第を奏上して、仏像を取り戻して、もとのように寺に安置し奉った。

これを思うに、菩薩には人間のように血肉をお持ちではない。いわんや痛みを感じられることなどない。
それなのに、「痛い、痛い」とお叫びになったのは、ただ凡夫のためにお示し下さったのである。そして、「盗人に、これ以上、仏像を破壊するという重い罪を犯させまい」とお思いになったからである。
当時、人々は皆この事を聞いて、「不思議な事だ」と言って感激し尊んだ、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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