雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

本物とは何か ・ 小さな小さな物語 ( 722 )

2015-09-24 14:55:03 | 小さな小さな物語 第十三部
「本物とは何なんですか?」
と、戦地帰りの青年が、主人公に尋ねるシーンが実に印象的でした。
NHKの朝の連続ドラマの一シーンなのですが、もう少し詳しく場面の説明をした方が分かりやすいと思うのですが、無断で作品の内容を書いて良いのかどうか自信が無いので割愛させていただきます。
ただ、非常に印象的なセリフで、おそらく、このドラマ全体を通してでも重要な意味を持つ青年の必死の訴えだったように思いました。

ドラマでのことはともかく、確かに、「本物とは何か」ということは、難しいテーマのように思われます。
そもそも「本物」というものの正体も、そうそう簡単に説明できないような性格を持っているように思われます。そこで、例によって広辞苑の力を借りてみますと、「本物」とは、「①にせものでないこと。 ②その名に価する本当のもの。 ③もときん。元金。」と説明されています。
つまり、①の意味としては、うがった見方をすれば、「にせもの」でなければ本物だということになり、かなりあやふやな本物も存在するという感じがしないでもないような気がします。 ②の意味は、例えば名人芸などといったものを指すのでしょうが、この場合も評価する人によって差異があり、絶対的な標準を定めることを前提にしていないような気がします。 ③となれば、これは少し難しいような気がします。単純に考えれば、預金などでいう「元金」を指していると考えられ、「いついつになれば利息が付いていくらになる」といった場合の、水増し分を除いたものを指すのだと思うのです。

たかだか「本物」という言葉の意味だけでムキになることもないのですが、最初に述べたドラマの中の「本物とは何なんですか?」という台詞のインパクトがあまりに強かったため考えてしまったわけです。
ふつう私たちが「本物」という言葉を使う場合、それほど厳格な意味で使うことの方が少なくて、「にせものでないこと」という説明にあるように、明らかな偽物以外は「本物」の許容範囲にしているのではないでしょうか。
また、カラオケや素人芸のモノマネなどに対して、「うまいなぁ、あれは本物だよ」などと簡単に言葉にすることがありますが、何もその人を名人上手として評価しているわけでもなく、かなりのお世辞も含んだ社交辞令のようなもので、言う方も聞く方もそのようなことは承知の上で、それだからこそギスギスとなりがちな世間がうまく回っているのかもしれません。

私たちの先人たちは、偽物は偽物として糾弾するとしても、「本物」というものに相当の許容範囲を与えることで、世間の付き合いの潤滑油としていたように思うのです。学問や技芸、あるいは容姿などもそうですし、宗教や哲学に対しても相当広い許容範囲を持っているのが私たちの社会の基本だったような気がします。そして、それは、美徳とも表現したいような誇りだと思うのです。
ただ、まことに残念なことに、このような私たちの社会をあざ笑うかのように、「振り込め詐欺」的な犯罪が後を絶たないのは、何とも辛いことです。

( 2015.03.22 )

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