雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

読誦一筋の夫人 ・ 今昔物語 ( 7 - 43 )

2022-08-20 08:19:39 | 今昔物語拾い読み ・ その2

       『 読誦一筋の夫人 ・ 今昔物語 ( 7 - 43) 』


今は昔、
震旦に陳公の夫人(チンコウのブニン・伝不詳)がいた。豆盧の氏(ズルノウジ・六世紀中頃、北周明帝に仕えた一族の末裔。)で、芮公寛(ゼイコウカン・唐の大宗時代に左衛大将軍。
)の姉である。
その人は、心の中で福を願い、常に金剛般若経を読誦していた。

そのように読誦して長い年月が過ぎたが、ある日の日暮れ方になって経を読んでいた。
まだ経典の一枚ほども読み終わらないうちに、夫人は、にわかに頭が痛み出し、とても堪えられなくなった。両手両足が役立たなくなり、倒れ込んでますます苦しんだ。
夫人は心の中で、「わたしは、にわかに重い病にかかったようだ。もしこのまま死ねば、遂にこの経を読み終えることが出来ない」と思って、起き上がって経を読もうとしたが、前にある灯はすでに消えていた。

そこで夫人は、自ら起って灯に火を灯すことは無理なので、従者の女を呼んで火を灯すよう命じたが、しばらくしてその命じた女が戻ってきて、「家の中には元になる火がありません」と言う。それを聞いて夫人は、なお、他の人の家に行かせて火を求めさせたが、やはり、火はなかった。
夫人はたいそう残念に思い嘆いていたが、ふと外を見ると、庭の中に灯が見えた。そして、その灯は、庭から前の階段を上ってまっすぐ寝ている床の前まで来た。その灯は、床から三尺ばかり浮いていた。灯を持っている人の姿は見えないが、真昼のように明るい。
夫人はこれを見て驚き、たいそう喜んだ。
頭の痛みもなくなった。そこで、経を取って読誦を始めたが、しばらく経って、家の人が火が消えたことを聞いて、きりもみして火をおこし、その火をお堂に持ってきたが、庭の中に現れた灯は、たちまち見えなくなってしまった。
夫人は経を読み終わり、「不思議なことだ」と心の中で思った。

その後、毎日読誦すること五遍に及んだ。
あるとき、夫人の弟の芮公が病を得て、まさに死にそうになった。夫人は、芮公の所に見舞いに行くと、芮公は夫人に、「私は、夫人の読経の験力によって、寿命が百歳あり、今まさに死んで善所(極楽)に生まれます」と話した。
夫人の年が八十歳の時に    ( 以下 欠文 )

     ☆   ☆   ☆ 

* どうも、中途半端な所で欠文になっていますが、当初から、ここで打ち切られていたようです。その理由は、弟が百歳で死のうとしていて、姉の夫人が八十歳ではつじつまが合わないので、中断させたままになったようです。
この物語の原典は、夫人を「姉(イモウト)」と読ませているらしくて、妹の方が正しいのかも知れません。

     ☆   ☆   ☆  


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