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『ロストケア』

2023年03月28日 | 映画(ら行)
『ロストケア』
監督:前田哲
出演:松山ケンイチ,長澤まさみ,鈴鹿央士,坂井真紀,戸田菜穂,峯村リエ,加藤菜津,
   やす(ずん),岩谷健司,井上肇,綾戸智恵,梶原善,藤田弓子,柄本明他
 
109シネマズ箕面にて、仕事帰りに2本ハシゴの1本目。
この日が封切り日でした。
 
原作は葉真中顕の同名ベストセラー小説。
買うタイミングを逸したまま今まで来て、積読の山の中にもありません。
今さらだけど、読もうかなと思ってはいます。
 
『月はどっちに出ている』(1993)や『Shall we ダンス?』(1996)の助監督を経て、
いまやすっかりメジャー監督になった前田哲
しかし本作を観て気づいたのですが、私は同監督のシリアスなテーマの作品よりも、
『極道めし』(2011)や『老後の資金がありません!』(2020)のような作品のほうが好きみたい。
刑務所の中の食事や財産の話もシリアスといえばシリアスか。
 
訪問介護センターに勤める斯波宗典(松山ケンイチ)は、
介護家族からも同僚たちからも信頼と尊敬を集めている献身的な介護士
 
センターの所長・団元晴(井上肇)の遺体がある家庭で見つかる。
それは斯波たちが訪問介護に訪れていた家庭で、
団は夜中に物盗り目的で侵入し、誤って階段から転落死したと推測されたが、
階下で眠っていた老人も息を引き取っており、こちらは自然死と判断される。
 
団の事件を担当することになった検事の大友秀美(長澤まさみ)は、
アシスタントの椎名幸太(鈴鹿央士)と共に調べるうち、
事件当夜に現場付近を斯波が通っていたことを突き止める。
 
老人の様子が心配で見に行っただけだという斯波だったが、
さらに調べてみると、このセンターで看ている老人だけ死亡率が異様に高いこと、
また、老人の死亡が斯波の仕事休みの日に集中していることに気づき……。
 
戸田菜穂坂井真紀演じる女性たちは、夫の仕事を手伝っていたり、シングルマザーだったりして、
それだけでもじゅうぶん大変なのに、認知症の親の面倒もみなければなりません。
肉体的にも精神的にも追い込まれ、いっぱいいっぱいどころかそれ以上。
介護に関わる近親者が対象者を殺めることも多いのだという事実に驚愕してしまうけれど、
そりゃ「死んでくれたら楽なのに」と思っても不思議はない。
 
斯波は父親(柄本明)をずっと介護していましたが、仕事をしながらでは介護できなくなる。
仕事を辞めて看はじめても、父親の認知症の進行はもちろん止められない。
そのうち金が底を突き、まともに3食の食事すら摂れなくなります。
意を決して生活保護の受給申請に行くと、「お父様は働けなくてもアナタは働けるでしょ。
アナタが頑張って」とすげなく追い返される。
 
「僕はもう何を頑張ればいいのかわからなくなりました」。
斯波役の松山ケンイチのこのときの表情には胸を押しつぶされそうになります。
 
正義を振りかざして斯波を断罪しようとする大友。
社会的ステータスも高く、安定した収入がある彼女のことを斯波は揶揄します。
それに猛反発する大友は、実は父を孤独死させ、母(藤田弓子)も施設で認知症を発症。
人のことを責めながら、自分の罪悪感を払拭しようとしているわけで。
 
同監督の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)とか本作とか、
重すぎるテーマのときに、どうも役者に頑張ってしゃべらせすぎる印象があります。
長澤まさみは言うまでもなく良い役者ですが、これほど声高に台詞を叫ばれるとちょっと興ざめ。
ここが泣きどころで感動のしどころですよと押しつけられているように思えて。
 
ということで、全面的に良い作品だったとは私には感じられないのですが、
『グッド・ナース』(2022)の看護師のようなシリアルキラーとは明らかに違い、
斯波の言葉には耳を傾けたくなります。そしてこの国の福祉事情が変わると思いたい。

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