スチームボーイ

科学の象徴として登場する「スチーム城」が「天空の城ラピュタ」とだぶってしまうのは、わたしだけではないはずだ。
ともに日本のアニメを代表する名作と言いたい。
両作品とも機械文明の危うさに警鐘を鳴らし、人間回帰を訴えているような気がする。
だが、ここで根底を流れる思想を論ずるよりも、わたしはこの作品の美しさについて述べたい。
この作品でとにかく目を奪われるのは、その映像美だからだ。
画面一杯に張り巡らされたパイプラインとバルブ類。びっしりと密集したコードが複雑に絡み合いうねうねと地を這っている。幾重にも噛み合ったギアは精密に描き込まれ、メカニズム群は生命を吹き込まれたかのように力強く駆動する。
この圧倒的な造形美に加えて、背景と一言で切り捨ててしまうにはあまりにも美しすぎるロンドンの町並みの画像。その描写力は、もはやアニメの領域を超え、アートとしての風格さえ漂っている。重量感のあるスチーム城は勿論のこと、画面の中をよぎる蒸気や高気圧に晒されて発生する超低温の空気ですら、まるでこの肌に触れたのではないかと錯覚するほどの存在感だ。
こうして、全く妥協のない、息をするのが切なくなるほどの高いクオリティで描かれた画像は、作品の最後まで途切れることなく続くのだ。
わたしは、食い入るように、舐めるように、その流麗な画面を見詰め続けた。
いつまでもその世界の中に埋もれていたいと願った。
エンドクレジットがスクロールし始めて、その想いは一層強くなった。
この作品にエンドマークが出るのが惜しいと思ったほどだ。
日本のアニメが世界最高水準にあることを立証してみせた価値ある作品のひとつと確信する。



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