あれは何だろう。
その日は珍しく仕事が早く片付いたので、まだ陽があるうちに帰宅しようとしていた途上のことだった。1人暮らしのアパートまで数百メートルというところで、道端に奇妙なものが落ちているのに気づいたのだ。僕、高橋一郎は立ち止まって、草叢の中をしげしげと覗き込んだ。
それは、鈍い銀色の光沢を持つ直径5センチほどのボールだった。パチンコ玉を大きくしたようなものだと思ってくれてよい。
周囲 . . . 本文を読む
やっと勤務先の会社に着いたものの、誰もぼくのことに気付いてくれなかった。同僚や上司たちは、みんな忙しそうに立ち動いていて、誰のディスクの上も書類がうず高く積み上げられていた。僕のディスクの上だけきれいに片付いているのが妙に目立っている。
「みんな、僕はここにいるんだ。気付いてくれよ」
僕は叫んだ。だが、誰も何の反応も示してくれなかった。
僕は、放心状態となって、自分のディスクに座った。誰にも . . . 本文を読む
その時である。
玄関のドアが開き、そこには真理が立っていた。
僕はうれしくて真理に飛びついた。
「どこに行っていたんだよ。凄く心配したんだぜ」
「ごめんなさい。わたし・・・・・・」
真理は泣き出してしまった。玄関先でしゃがみこんで泣き続けている彼女を、僕は抱きかかえて立ち上がらせ、居間のソファに座らせた。
「どうしたというんだ。何があったのか、僕にも判るように説明しておくれよ」
「何を話し . . . 本文を読む