minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

エスター

2010年07月13日 | 映画鑑賞
☆最初の印象
 レンタルビデオショップで、何の気なしに借りた作品。
 大して期待していなかった。
 だって、ジャケットもそんなに気のきいたものじゃなかったし、タイトルも味もそっけもない「エスター」だし・・・。
 劇場公開作品なら映画館で観ないにしても、前評判とか一応チェックしているのに、この作品については、全く知らなかった。つまり、少なくとも、わたしの住んでる街では劇場公開されていないということ。
 でもね、わたしの住んでる街では、出来が良くても上映されない作品が結構あるんだ。
 これも、そのひとつだったんだね。

☆印象的なイントロ
 病院の受付シーン。
 出産のために、夫に付き添われ、病院までやってきた臨月の妊婦。
 彼女は、突然の下半身からの出血にパニックに陥ってしまう。大量の出血に、半狂乱になって叫ぶ妊婦。
 緊急手術が行われるが、残念ながら、赤ちゃんは助からない。死産だった。
 深い悲しみが彼女を襲う。彼女は心に大きな傷を負った。彼女は、どうやらそのせいで、一時期「アルコール依存症」になり、心療内科の治療も受けていたようなのだ。彼女の精神的な傷は、深く作品の中に影を落としていて、それが作品に奥行きと陰影を与えている。とても有効な伏線となっているのだ。

☆見どころ
 主演のエスター役「イザベル・ファーマン」とその妹マックス役の「アリアーナ・エンジニア」の演技が光っていた。
 イザベル・ファーマンは「子役」なのか、「そうでない」のか、迫真の演技だった。作品の序盤から彼女に対して感じる「違和感」は、物語が進むにつれてさらにその度合いを増していく。ジャケットの「この娘、どこかが変だ」というコピーの意味は、その驚愕のエンディングで明らかとなる。
 アリアーナ・エンジニアは、重度の聾唖者の役を完璧に演じていた。後で知ったのだが、彼女は本当に聴覚に障害を持っているそうで、だとすれば、幼いながらその障害を乗り越え、よくぞここまでと思わずにはいられない。
 イザベルの演技力とアリアーナの聴覚障害から生まれるリアリティ。このキャスティングの妙が作品をさらに輝かせていると思うのだ。

☆エスターの秘密
 DVDを観ながら感じたのが、次の4点。すごく奇妙に感じたのだけれど、エンディングに至って、これらすべてがピシッと解決し、辻褄が合った瞬間には、うぅーんと唸ってしまった。
(1)首と手首に巻きつけた黒いリボンの謎
 彼女は片時もこれらの黒いリボンを外そうとしない。学校の同級生が悪ふざけでリボンを外そうとしたら、彼女は半狂乱になって、泣き喚いた。
 そこまでリボンに固執するのはなぜなのか。また、極端に身体を見られるのを嫌う。バスルームに鍵をかけるほどなのである。それだけではない。歯医者にかかるのも拒絶する。不思議なことに、孤児院にもその種の記録が一切残っていないというのだ。
(2)ピアノ演奏の謎
 音楽家である養母にピアノレッスンを乞い、拙い演奏をみせておきながら、実は、難易度の高いチャイコフスキーのピアノ曲を完璧に弾きこなす技量を持つエスター。何故、ピアノが弾けないと嘘をついたのか、しかも、その後、いくらも経たずに簡単に嘘であることをばらしてしまったのは何故なのか。

(3)養父母に「いいつけ(密告)」をする謎
   養父母両方に、それぞれ陰で「いいつけ(密告)」をする。養父母に気に入られようとするためにしては、何かおかしい。
公園で養父と遊んでいた時に、同級生の母親が話しかけてきたことを浮気の予兆のごとく養母に密告する。
養母に腕を強く掴まれただけなのに、万力で腕の骨を折り、養母が不在の時に「腕が痛い」と養父に訴える。まるで、養父母の夫婦関係が破綻するのを狙っているような悪意を感じるのだ。
(4)錯乱と凶暴性
   「何かおかしい」と気付いた養母の提案で受診したカウンセラー後、にこやかにカウンセラー室から出てきたエスターが向かったのはトイレ。
その中で、それまでの言動とはあまりにかけ離れた「壁や便器を蹴り叩き備品を破壊する凶暴性」は一体どこから生まれてくるのか。
   義兄であるジミーがペンキ玉銃で鳩に重傷を負わせた時、何の躊躇いもなく、鳩を石で殴り殺した残忍さには恐怖を覚えたが、それが次第にエスカレートしていく。
   エスターにいじわるをした同級生の女の子を滑り台から突き落とし重傷を負わせ、孤児院でお世話になったシスター「アビゲイル」を撲殺、義兄である「ジミー」を焼き殺そうとした。
 もはや常軌を逸している。

☆「子を守ろうとする母親ケイトの愛情」VS「エスターの邪悪な欲望」
 すべてはここに行きつく。彼女たちは、それぞれ女の本能の両極を象徴しているのだ。
 女の本能とは何か。
 思うに、ひとつは「より優秀な子孫」を残すことである。より魅力的な男をみつけ出し、セックスし、懐妊し、出生する「種の本能」と言ってもよい、本源的な欲求である。
 作品の中で、ケイトとピーターがキッチンでセックスしているのをエスターに見られてしまうシーンがあるが、あれは、このようなテーマが隠されているので、必要不可欠なシーンであったのだ。二人を見つめるエスターの冷たい視線は、この作品の本質に迫るものなのだが、この時点では、わたしはまだ理解できていなかった。
 もうひとつは、そうやって授かった子孫を愛しみ、守り、育てるという本能である。「母性」と言ってもよい。
 母性というのは厄介だ。持って生まれた本能のようなのだが、「種の本能」と比べると、最近は「弱体化」しているようなのだ。
 男に捨てられ生活に困った母親が、新しい男のために実の子を虐待する。テレビドラマ「マザー」の設定ではあるが、現実の方が先行している。痛ましいことだ。
 「母性」VS「種の本能」なんて、なんだかすごい展開になってしまった。
 エスターが化粧をして、ピーターにすり寄るシーンには、びっくりしてしまった。エスターの顔が、それなりに老けて見えたし、不気味な雰囲気にたじろいた。エスターは、ピーターを父親としてではなく、男として求めていたのだ。しかし、驚愕の真実は、さらに、この後に控えている。ネタばれしたいけど、それが、わたしの欠点なので、今回は観てのお楽しみとして、我慢します。
 とてもおもしろかったです。
 評価のハートは、最高の3つ!!!
 久しぶりのプレビューなので、ちょっと不安です。


最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです。 (えい)
2010-07-13 21:45:10
ほんとうにお久しぶりです。
お体の調子をくずされていると伺っていたのですが
もう大丈夫なのでしょう。

minaさんがお休みされている間、
常連映画ブロガーさんの顔ぶれも
すっかり変わってしまいました。
TBをいただき、とても懐かしくまた嬉しい気もちでいっぱいです。
minaさんらしい、
気配りにとんだレビュー。
これからもよろしくお願いいたします。
返信する
えいさんへ (mina)
2010-07-13 22:27:48
お返事、ありがとうございます。
えいさんのブログは、あいかわらずで、本当にうれしく思います。
残っている方は、えいさんもそうですが、みなさんビッグブロガーになられているので、本当にこうしてUPするのが恥ずかしく、ましてTBなんて、決死の思いでしました。体調は今ひとつですが、たまにUPしたいと思いますので、よろしくお願いします。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2010-07-14 21:22:24
お久しぶりです。
再開されていたんですね。
またよろしくお願いします。
この映画、東京でも非常に地味な扱いでの公開でしたが、なかなかどうして優れたプロットの作品でしたね。
怖くて、そして切ない余韻が印象的でした。
返信する
ノラネコさんへ (mina)
2010-07-16 23:08:30
コメント、TBありがとうございました。
再開というにはほど遠いですが、体調の良い時に、気晴らしにちょこっと書いてます。
お酒も満足に飲めないし、文章もちょっと長くなると、息切れしてしまうから、ちゃんとしたものが書けません。
ノラネコさんのように、好きなだけ飲んで観て書きまくりたいです。
お酒の記事、楽しく読ませていただいてます。
返信する
その後 (ken-m)
2011-12-02 19:33:15
元気でいるんだろうか…。
返信する
色々と大変ですね (柏木 妖)
2012-01-02 22:49:22
 読ませて頂きました。
面白いブログですね^^
それはとにかく、体調が心配です。
どうぞ無理しないでくださいね。
返信する
どこにいる? (Unknown)
2012-01-12 20:30:33
そして、何をしてるの?
返信する
生きてますか? (ken)
2012-01-19 05:06:37
大丈夫ですかあー。安否はどうですか? 例え貧乏でも元気だといいんだけど。
返信する
安否? (ken)
2012-03-06 18:29:59
結局、あれからどうされたんでしょうか? ご自身、身の回り。生活環境が大幅に変わったのでしょうか? お元気でいらっしゃるものと信じていますが、向後将来の人生に於いて幸多かれと願っております。頑張ってください。
返信する
お元気ですか? (さくさく)
2012-05-17 17:39:06
お久しぶりです

お元気ですか?

便りのないのは、よい証拠?だと思っています

お体に気をつけて、日々生きていきましょう!

でゎでゎ~~~

返信する

コメントを投稿