その夜は、嫌なことを忘れたくて、したたかに飲んだ。
夕方の6時くらいから飲み始めて、明け方の4時過ぎまで飲んだ。
それも、安物の焼酎1升瓶を1本空けてしまっただけでは収まらず、さらに次の1升瓶を半分ほど飲んだところで、店のマスターが「もういいかげんで帰ってくれ」と言うまで飲み続けたのだ。
わたしは、どうやって自分の部屋に帰ったのかも、覚えていない。
目覚めると、既に、陽は高く昇っており、慌 . . . 本文を読む
喫茶店を出たわたしと里美は、件の居酒屋がオープンする6時まで、まだ少し時間があるので、街中をブラブラすることにした。
特に目的もないのに、デパートや商店街に足を運んで、あれこれと観て回るのは、我々女性の楽しみのひとつなのだ。
例え何も買わないとしても・・・わたしの場合、それはいつものことで、その理由はお金がないという単純な理由からだったが・・・こんな新しいデザインのバッグや服があるとか、あそこに新 . . . 本文を読む
「ねえ、美奈。起きなよ。遅刻するよ」
里美の声が降ってくる。
「あんなに飲むからだよ。大丈夫?」
「なによぉ。そんなこと、よく言うわね。1人ではろくに歩くこともできなかったくせにぃ・・・・・・」
わたしは里美にそう言うと、のろのろとベッドから起きあがった。
「やだ。美奈、いつも裸で寝ているの?」
里美が素っ頓狂な声をあげた。
「えっ」
わたしは慌てて、身体をシーツで隠した。
そうだった。昨夜は、里 . . . 本文を読む
メインストリートの一画にあるその店は、白いモルタル塗りの外壁をびっしりと蔦が覆っており、周囲の建物とは一線を画するような存在感があった。そして、大きな木の看板に「上彩堂」と見事な達筆で店の名が記されていた。
「さあ、ここよ。入りましょう。少し変った人だけれど、きっと美奈の力になってくれるわ」
「うん。ありがとう」
わたしは、意を決して、店の扉を開けた。
薄暗い店の中は所狭しと骨董品が置かれており、 . . . 本文を読む
俊夫は勉強机に向かって座ってはいたが、何をするでもなく、窓の外の白い雲を見ていた。あの日、美奈という不思議な女性に出会ってから、何も手に付かず、こうしてぼんやりしていることが多くなった。恋人の真理とは、待ち合わせをすっぽかしたことが原因で気まずくなり、以来連絡を取っていない。
「俊夫ーっ。真理ちゃんから電話よーっ」
階下から母親の呼ぶ声がする。携帯の電源を切っていたから、固定電話に電話してきたのだ . . . 本文を読む
里美のおじさんの上原耕太郎が予約してくれたホテルは、JR京都駅からタクシーで5分ほどの距離にある某航空会社系列ホテルだった。
「美奈さんが泊まるのなら、僕の大学時代の友達が支配人をしているホテルを予約してあげるよ」
そう言って、耕太郎は、その場で電話をかけて京都プリンセスホテルに部屋をリザーブしてくれたのだった。里美から聞いて驚いたのだが、耕太郎は京都大学を主席で卒業し、日本考古学界では将来を . . . 本文を読む
「助けに行きましょう」
わたしはベッドから起き上がって、実昭に言った。
「今からか」
「ええ。早いほうがいいわ」
「ううむ。しかし・・・・・・」
「どうしたのよ。あんた、自分の身体を取り戻したいのでしょう? そのために、長い間、日本中を探し回っていたのでしょう? だったら、躊躇うことはないじゃないの」
「相手は強大だ。へたをすると、命を落とすかもしれない」
「いいのよ。どうせ、わたしは一度は死んだ . . . 本文を読む