minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

魍魎の匣

2007年12月24日 | 映画鑑賞
 街はクリスマスだというのに、1人で映画「魍魎の匣」を観に行った。当然と言えば当然だけれど、館内はカップルばかりだった。どの娘も精一杯オシャレしていて、微笑ましかった。

 わたし?

 わたしは、ジャージを引っ掛けて行った。オシャレしたって、疲れるだけだ。
 
 「魍魎の匣」では、「関口 巽」役が「椎名 桔平」に変っていた。

 「姑獲鳥の夏」の時は、「永瀬 正敏」が頼りない駆け出しの小説家として「関口」を好演していたけれど、今回は関口もすっかり売れっ子作家に成長していたから、ちょっと憎たらしい「椎名 桔平」が似合っているのかもしれない。

 それにしても、1950年代の日本を表現するのに、上海ロケとは驚いてしまった。今の上海には、当時の日本の面影が残っているとでも言うのだろうか。わたしには一目で中国の風景だと判ってしまい、違和感が残った。かろうじて、主役の「堤 真一」が「ALWAYS 三丁目の夕日」に出ていたから、あのCGが印象に残っていて、無理矢理、当時の日本のイメージを被せたけれど、そうでなかったら物語に入っていけなかった。

 ストーリーとしては、原作を読んでいなかったので、その分、先入観なく鑑賞できたのは大変良かった。もし読んでいたら、決して映画館に足を運ばなかっただろう。

 前回の「姑獲鳥の夏」で懲りていたはずだった。

 推理小説でもスリラーでもない、一種独特の呆然小説とでも言おうか。今回はSF的要素を導入して、トリックもない、ただのサスペンスものを長大な尺の入れ物にぶちまけているだけだ。しかし、それを最後まで引っ張って観続けさせる技術は大したものだ。「久保 竣公」が人造人間になって呻くシーンは「キャシャーン」誕生のシーンとよく似ている。「キャシャーン」と「魍魎の匣」の映画作品として目指すものが全く違うことを考えれば、原作の「魍魎の匣」自体を「呆然小説」と感じてしまうのも当然だろう。これはけなしているのではなく、感心しているのだ。こんな発想は、恐らく「京極 夏彦」以外にはできないし書けない。

 「姑獲鳥の夏」の「都合の悪いことは見えない」という掟破りのトリック(まさに推理小説の自殺だ。こんなのよく採用されたなと思う)に続き、バラバラ殺人事件の被害者はマッド科学者の人体実験の悲惨な犠牲者だったという「身も蓋もない」展開。これこそが「京極 夏彦」の真骨頂なのだ。

 観終わって(しようもないホラ話に乗せられて)またヤられてしまったと苦笑いをする、わたしは彼の作品については、そういう楽しみ方をしている。映画を観て結末を知ってしまい、あの電話帳のように分厚い単行本(ちゃんと初版本を買って持っているのだ)を読み通す自信も興味もなくなってしまったが、もともとコナンや金田一のような華麗な推理を京極堂に求めても仕方がない。それでは、テーマは何だったのか。

 作中で京極堂が、魍魎とは影の周りにできるぼんやりした部分だと言っていたが、このぼんやりとした部分こそが人間を人間たらしめている所以なのであって、善悪、正誤だけで割り切れない人間の不条理さの象徴なのだ。タイトルにもなっている「魍魎の匣」とは人間の魔性を封じ込めた容器を表わし、結局のところ、人間そのものではないかと思ってしまう。誰でも持っている狂気が顕在化した時、恐ろしいことが起こる。「柚木 陽子」にしても、美馬坂博士にしても、久保にしても、開けてはならない匣を開けてしまい、その禁断の魔性に魅入られてしまったのだ。人間の心の闇こそが、もっともやっかいで恐ろしいものだというのが、この作品のテーマではなかろうか。そう考えた時、愛する美馬坂博士を失い、愛娘を失い、失意のどん底にいるはずの柚木陽子が、「楊貴妃」役で銀幕に復帰し、艶然とした微笑を振りまくシーンが恐ろしく思えてきた。

 ところで、京極堂は最初から美馬坂博士と柚木陽子、その娘の柚木加菜子との只ならぬ関係を知っていたらしいのだが、それならば、あんな回りくどいことをしなくても、結果は判っていたと思うのだ。そんなことを言っていたら、小説にも映画にもならないってことは重々承知しているんだけれど、あまりにも白々しくて。


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9 コメント

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めりくり~♪ (さくさく)
2007-12-24 23:24:42
こんばんゎ~
クリスマスイブの今日、あたしは外に出かけるのもおっくうでした・・・
部屋の掃除や雑用なので気晴らしして
DVDずっと見てました
映画ぢゃないですが・・・・・
あ~ぁ今年も寒い年末デス(笑
でゎ~
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さくちゃんへ (mina)
2007-12-25 00:20:05
めりくり~!
寒いクリスマスですね~。
♪幸せを数えたら片手にさえ余るぅ~♪
どうせそうですよーだ。
♪さ~ちこぉ、ひぃぃぃぃ
猫姫さまとカラオケ決戦したいですぅ。
絶対勝つもんね。
さくちゃんもカラオケする?
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良いお年を~! (猫姫少佐現品限り)
2007-12-31 17:36:57
ここにごめんね。

もう大晦日、お忙しそうですね。
今年はご無沙汰ばかりでごめんなさいでした。
来年も、よろしくお願いしますね!
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あけおめデス~♪ (さくさく)
2008-01-01 20:31:26
minaさん あけおめ~
今年はお互い体調戻して、健康な一年にしたいですね
でゎ~
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猫姫さまへ (mina)
2008-01-02 21:16:30
あけおめ~!
年賀状もありがとうございました。
わたしは、お正月休みは、映画館に行ったり、DVD観たり、リラックスして過ごしています。
猫姫さまは、いかがお過ごしですか?
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さくちゃんへ (mina)
2008-01-02 21:19:26
明けましておめでとうございます。
今年は身体を治して、美味しいものも一杯食べて、映画もたくさん観て、元気になりたいです。
さくちゃんも頑張ろうね。
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mina様のレビューどおり映画でした (Ken)
2008-12-05 03:24:49
お久しぶりです。お元気でやっておられるでしょうか。体調の方は如何でしょうか。お元気であられることを願っておりますが。
今頃DVDで「魍魎の匣」を見ました。
mina様の酷評ですが、この映画、mina様にはさぞ陳腐に感じられたものと窺います。
あのぶ厚い一冊、膨大な量の活字群を2時間少しの映画に納めると、ただ急ぎストーリーを追うばかりで、見る側もちょっとぼんやり見ていれば、もう訳の解らないお話に映るものと思います。
mina様の酷評から、多分、途中で見るの止めて退席でもしようか、と思われたのではないかと感じられましたが、その気分で観賞されて、よくこのスピード説明映画の内容を捉えられているものだ、と感心してしまいます。
ここのレビュー文を読むと、今さらながら、mina様の文の無駄が無く整然と評した内容に、感心させられます。やはり文章がうまいですねえ。
私にはminaさんの文は、小説よりも評論文の方が相当うまいと思われますが、評論文は無駄が無く整然としていて本当に良いですね。優れた文を書かれると思っています。
京極夏彦の小説は、冗長で解説文が多く長く、場面がいろいろと拡がり過ぎ、とにかく話がやたら長たらしいけれども、文壇においていろいろな賞を獲得しているのだから、一応のそれなり高度な評価はされている訳で、これはこれで独自の、時代主義的な一つの世界を構築しているのでしょう。大衆小説の範疇で。
京極夏彦のあの世界は、江戸川乱歩が活躍した時代の幻想的怪奇趣味の探偵小説にかなり影響されているんでしょうね。乱歩以外にもあの時代の大衆作家たちの、エログロも含めた探偵小説群に。
小説なら読んでいて許せるけれども、リアルな映像にしてしまうと陳腐に映り、「鉄人28号」映画の世界ではないか、とでも思う程です。クライマックスもB級以下のC級SFのラストでも見せられるようでひどいものでした。メイン重要キャストの博士の発明も、小さな脳(顔)に巨大ビルの身体の生命を維持するだけの装置の動けないロボットでは、SFにしてもメイン科学者が馬鹿そのものでしかないし。
やたら場面を切ってすぐに場面展開してストーリーのふしぶしをはしょり過ぎでしたね。やはりあのぶ厚いSF調怪奇味ミステリ風冗長大長編小説を2時間ちょっとの映像でやるのは相当無理がありましたね。ただ急ぎストーリーを映像で追っただけです。京極堂の籠もった声での長い長いセリフで解説を聞かないと細部は解らないし。オンバコ様の解説部分は余程神経を集中して話を聞いてないとさっぱり解りませんね。
ここのmina様のレビュー文を読んで、ただただその通りだと頷くばかりでした。
小説を読むと大衆小説のストーリーを追うのにいらないのではないか、と思えるいろいろな長長しい説明文群ですけど、京極夏彦は民俗学的な知識は本当によく勉強してるみたいですね。古代宗教の知識の詳細も含めて。
背景も中国の田舎だろうと解りますね。本当に感心してしまう、minaさんのレビュー内容そのものの映画でした。
ただ、大格差社会中国は、上海のような地域でもちょっとでも奥へ入ればあんな日本の昭和2、30年代のような道路の舗装も無いひどい田舎なんですね。あれだけ大都市として宣伝されている上海の実像にびっくりしました。
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Ken様へ (mina)
2008-12-08 06:38:23
長くお休みをしています。
去年の病気がまだ完治せず、思うように活動できていません。
人間ドックでも、精密検査を受けるように指示が出てしまいました。
治るまでは辛抱の時期と諦め、おとなしくしていることにします。
それでも、DVDはよく観てるんですよ。
それでは、また・・・・・・。
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健康取り戻し第一で! (Ken)
2008-12-10 07:11:55
返事のコメントがあって嬉しく思っています。まだまだ病気の影が抜けずに苦労されているようですね。なかなか大好きなお酒も楽しめなくて辛いでしょうね。早く健康を取り戻してまたネットに実生活に活躍してください。
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