夕方6時 退院前の説明を聞きに病院へ行く
見舞い客用のデイルームで 待っていると
「どうしてなんだ…」 つぶやく声
「え」
「いえね 四人めなんですよ…妻や子供がみんな」
訥々と話が続く
その方は齢80才
30代で妻を亡くし 男手ひとつで 3人の子供を育て
ようやく一息ついたところで 長男が大腸がんに倒れる
悲しむ暇もなく長女も幼子を残して子宮がんに
そして今度は いよいよ次男に肺ガンが見つかり
片肺を摘出手術中とのこと
症状を聞くと あまり思わしくない
掛ける言葉が見つからない
見つからない言葉を探しあぐねて
「頑張ったんですね」
と禁句が口をつく
「そうなんですよ 本当に本当に頑張ったんですよ」
とすがりつくような声
たったひとりの身内であるお孫さんの付き添いもなく
一人ぼっちの その背中はあまりに小さくて
「私 手術が終わる迄 いますから」 と云うと
呪文のように続く『どうしてなんだ・・』の合間に
「ありがとう」 が吐息に混じる
ふと 先日テレビで見た 金賢姫さんを思い出し
「抱いてもいいですか」 と
背中からギュッと抱きしめたくなった
親不孝な子供たちの代わりに
「頑張ってくれて ありがとう」 と
抱きしめたくて 涙がこぼれた
翌日 夫は無事に退院した