83歳の独居老人が死んだ
煙にまみれ 火に焼かれて死んだ
電気とガスを止められ
煮炊きをしていたかまどの火が燃え移り
自力で消そうとして 力尽きた
壊れかけた自転車に 寄りかかるようにしながらの
買い物姿を時折り見かけてはいた
通りがかりに目にする平屋の小さな家
少しづつ荒れてゆく様が痛ましくて
この頃は見ないようにしていた
・・・なにか私に出来たのかもしれない
独り暮らしとは知らなかったけれど
まさか電気もガスもなかったとは知らなかったけれど
かまどは目にしていたから 想像は出来た筈
ここまで・・と絶句するほどに 何もかも燃えてしまったのに
奇跡のように 延焼が無い
案じて声をかける人に 口癖だったという
「余計な御世話だ」
他人様に世話になるのを良しとしない人柄故に
全力で隣家を守ったに違いない
小さな花束を持って 悼みに屈む私の眼に
紅色のおしろい花が数輪
焼け跡に 唯一の色を残してくれていた