K君は三十二歳の青年。
家族は両親と祖父母の五人。
兄弟はいない。
父親は単身赴任で不在。
母は病弱で寝たり起きたりが日常。
ほとんど祖母の手で育てられた。
引っ込み思案な性格故か
小中高の学生生活を鬱々と過ごし
高校を卒業する頃には人との係わりの煩わしさが
限界を超えるほどの辛さになり
以後引きこもるようになった。
それからの十数年を
彼がどう過ごしていたかは定かでない。
この八月、彼は思いを胸に抱き、外に出た。
ハローワークに行き職業訓練校に入校した。
ヘルパー二級の資格を得るために。
ハローワーク経由の講習は半端ではない。
三ヶ月間、月~金曜日の終日を学び
帰宅すると毎日復習をしてレポートを書き提出。
実習も全員が確実に習得するまで繰り返し
アイデア介護用品を制作出品
グループ毎に介護壁新聞の発行等々。
彼は頑張った。
仲間の訓練生は云う。
・・自己紹介も殆ど聞き取れなかった
・・話しかけても話しかけても言葉が返ってこない。
・・でも云われたことはキチンと取り組んでたよ。
・・何かの拍子にふとこぼれた「笑顔」が
たった一度だけ見た笑顔が心に残る・・。
最終日。
修了式の後、一人づつ言葉を置く。
彼はしばらく黙した後、ひっそりと
「僕は明日からまた一人です」
と云った。
そうか。
K君、一人じゃなかったんだね。
孤立してたんじゃなかったんだね。
それなら大丈夫。