私が勝手に、「リチャード・クー経済学」 と命名しました。
リチャード・クー&村山昇作 『世界同時バランスシート不況』 ( p.168 )
財政出動はバランスシート不況のときにだけ効果的であって、それ以外のときには逆効果になる。高金利やインフレ、資源配分の歪み等をもたらすからである。ケインズの処方箋は、当時の状況には適切だったが、その根拠が的外れだったために、いまでは、財政出動を否定する考えかたが支配的になってしまった。
いまこそ、財政出動をすべき時である。そのために、バランスシート不況の概念を広めなければならない。これは、バランスシート不況を身をもって経験した 「日本の使命」 である。麻生総理はその使命を果たすために、大きな貢献をした。プッシュ大統領のほか、G20参加国すべてが財政出動に合意したのである。オバマ政権に対しても、麻生総理は説明を行っている。ローレンス・サマーズNEC委員長はバランスシート不況概念の支持者である、と書かれています。
バランスシート不況においては、財政出動が必要不可欠である。これが著者 ( リチャード・クー ) の主張です。
著者によれば、
ということになります。
私としては、著者の論には 「圧倒的な説得力」 があると思います。
しかし、際限なく財政出動を続けてよいのか、いつまで財政出動を続ければよいのか、出口が見えないだけに、ためらいを感じるのも、たしかです。政治的にも、( 民主主義の国では ) 財政出動を続けるのは大変だと思います。
また、昨今の ( 経済 ) グローバル化を考えれば、日本 ( などの先進国 ) でデフレが続くのは必然であり、かならずしもバランスシート不況だけが原因とはいえないのではないか、とも考えられます。この観点からは、財政出動はいたずらに赤字 ( 国債発行残高 ) を増やすだけで、好ましくない、必要なのは構造改革である、と考えることになると思います。
したがって、私は、著者の論に全面的には賛成しないものの、現状を理解し、打開するために、無視してはならない論だと思います。
今後、オバマ政権はどう動くのか。どんな対策を打つのか。それについては、「オバマ政権の財政政策」 を参考にしてください。ここで数字のみ、転記すると、
「オバマ大統領がすでに署名した American Recovery and Reinvestment Act of 2009 では、1年目に1849億ドル、2年目に3994億ドルの財政支出が見込まれて」 いる
とのことです。また、「オバマ政権の金融政策」 も、あわせてご参照ください。
さて、上記引用で、麻生総理 ( 当時 ) の活躍が描かれています。これについては、著者の立論 ( いまはバランスシート不況であり、いまこそ財政出動すべき ) に賛成するのか、否定・反対するのかによって、評価は変わってくるとは思いますが、
麻生前総理・自民党には、一定の評価をすべき
ではないかと思います。私は以前、麻生総理 ( 当時 ) について、「有権者も問われている - 麻生総理 「そりゃ金がねえなら結婚しない方がいい」」 に、
と書きましたが、総理としての責任感が 「感じられない」 というのは私の錯覚で、本当は 「対策を打ちつつある安心感」 だったのかもしれません。
公正を期すために、明記したうえで、読者の判断に委ねたいと思います。
■追記
箇条書き部分の、ケインズ理論が大恐慌当時、「たまたま」 効果をあげた、という記述を訂正しました ( 「たまたま」 を削りました ) 。リチャード・クーの理論によれば、ケインズ理論は適用範囲が広すぎるのが問題である、ということになるはずだからです。
リチャード・クー&村山昇作 『世界同時バランスシート不況』 ( p.168 )
これまでの経済学には、残念ながらバランスシート不況という考え方は全く存在しなかった。ケインズも処方箋としては正しいことを言ったが、なぜ財政出動なのかという説明は全くの的はずれだった。
財政出動というのはバランスシート不況のときにだけ効果を持つものであって、それ以外のときはむしろ逆効果になってしまうのである。ケインズはそのことに気付かなかったために、ケインズが神様あつかいになった戦後二〇年は多くの国々でバランスシート不況でないときも財政が乱用されてしまった。しかしバランスシート不況以外での財政出動は高金利やインフレ、そして資源配分の歪み等の逆効果をもたらし、その結果、財政出動自体が全面否定されるようなことになってしまったのである。一九七〇年代に 「ケインズは死んだ」 などと言われたのは、まさにそこからきている。だが、この十数年にわたる日本の経験で、財政出動という対応はバランスシート不況のときにのみ効果的であり、またバランスシート不況のときには不可欠であるということが立証されたのである。…(中略)… この日本の経験を世界に伝えていくことは非常に重要である。
(中略)
そしてこの 「日本の使命」 を身をもって実践しているのが、総理大臣麻生太郎氏である。麻生氏は〇八年十一月にワシントンで緊急に開催されたG20 ( 金融サミット ) で日本の経験を説明し、大いに注政を浴びた。その結果、小さな政府志向で財政出動に否定的だったアメリカのブッシュ大統領までが、G20の声明文にあるように財政出動に合意したのである。ここで会議に参加した全二〇か国が財政出動に合意したことが昨今の景気の安定をもたらしたことはまぎれもない事実であり、その意味で日本の麻生総理の貢献はたいへん大きかったと言えよう。
麻生氏は元々が経営者だから一〇年以上前からバランスシート不況の理解は完璧であり、英語も堪能なことから日本の経験を海外に伝えるにはベストの存在である。
また同氏は小泉政権内では、同政権が不況対策で間違った方向へ暴走することに絶えずブレーキをかけてきた一人であった。例えば同政権内の竹中平蔵氏は、バランスシート不況下では金融政策が無力化されることを全く理解せず、自分たちの言うことを聞かない日銀の独立性は問題ではないかとまで言い出したが、その日銀叩きにブレーキをかけたのが麻生氏だった。
今回の日本の不況の原因が海外にあり、その海外は一五年前の日本と同じバランスシート不況に陥っていることを考えると、日本にとって最も有効な 「景気対策」 は日本の教訓を正しく海外に伝え、バランスシート不況に陥っている海外が、その教訓を活かして正しい経済政策をとってくれることであろう。海外が日本の教訓を活かして回復に向かえば、日本の生産や輸出も回復に向かうことになるからだ。
逆に、もしも昨年十一月のワシントンでのG20で、麻生氏があそこまで強くバランスシート不況下での財政出動の必要性を説明せず、G20全体で財政出動に向かうことが合意されなかったら、いまごろ日本の輸出や生産は現状よりもさらに落ちていた可能性がある。
またアメリカでは今年一月にブッシュ政権からオバマ政権に代ったが、そのオバマ大統領が大統領就任後の最初に会談する外国首脳として、麻生首相が招かれた。そのときも麻生首相は日本が経験したバランスシート不況の教訓をアメリカに伝えようとかなりの時間を使って説明した。このときオバマの横に座っていたローレンス・サマーズNEC委員長 …(中略)… は私が昨年春に出版した 『The Holy Grail of Macroeconomics』 の推薦文を書いてくれたが、…(中略)… その推薦文のなかでサマーズは 「合意するかどうかは別としていまのアメリカの事態を分析しようとする者は必ずクーの主張を考慮しなければならない」 と書いているが、今回の不況でアメリカ国内で誰よりも早く財政出動の必要性を言い出したのも彼であった。
しかし政権内にはまだ財政出動の必要性を理解していない人たちがたくさんいる。
財政出動はバランスシート不況のときにだけ効果的であって、それ以外のときには逆効果になる。高金利やインフレ、資源配分の歪み等をもたらすからである。ケインズの処方箋は、当時の状況には適切だったが、その根拠が的外れだったために、いまでは、財政出動を否定する考えかたが支配的になってしまった。
いまこそ、財政出動をすべき時である。そのために、バランスシート不況の概念を広めなければならない。これは、バランスシート不況を身をもって経験した 「日本の使命」 である。麻生総理はその使命を果たすために、大きな貢献をした。プッシュ大統領のほか、G20参加国すべてが財政出動に合意したのである。オバマ政権に対しても、麻生総理は説明を行っている。ローレンス・サマーズNEC委員長はバランスシート不況概念の支持者である、と書かれています。
バランスシート不況においては、財政出動が必要不可欠である。これが著者 ( リチャード・クー ) の主張です。
著者によれば、
- ケインズの理論は的外れである。
- 当時の状況には適切な政策だったために、ケインズ理論は支持者を獲得して信頼を得たが、
- その後、不適切な状況下で乱用されたために、支持者を失ってしまった、
ということになります。
私としては、著者の論には 「圧倒的な説得力」 があると思います。
しかし、際限なく財政出動を続けてよいのか、いつまで財政出動を続ければよいのか、出口が見えないだけに、ためらいを感じるのも、たしかです。政治的にも、( 民主主義の国では ) 財政出動を続けるのは大変だと思います。
また、昨今の ( 経済 ) グローバル化を考えれば、日本 ( などの先進国 ) でデフレが続くのは必然であり、かならずしもバランスシート不況だけが原因とはいえないのではないか、とも考えられます。この観点からは、財政出動はいたずらに赤字 ( 国債発行残高 ) を増やすだけで、好ましくない、必要なのは構造改革である、と考えることになると思います。
したがって、私は、著者の論に全面的には賛成しないものの、現状を理解し、打開するために、無視してはならない論だと思います。
今後、オバマ政権はどう動くのか。どんな対策を打つのか。それについては、「オバマ政権の財政政策」 を参考にしてください。ここで数字のみ、転記すると、
「オバマ大統領がすでに署名した American Recovery and Reinvestment Act of 2009 では、1年目に1849億ドル、2年目に3994億ドルの財政支出が見込まれて」 いる
とのことです。また、「オバマ政権の金融政策」 も、あわせてご参照ください。
さて、上記引用で、麻生総理 ( 当時 ) の活躍が描かれています。これについては、著者の立論 ( いまはバランスシート不況であり、いまこそ財政出動すべき ) に賛成するのか、否定・反対するのかによって、評価は変わってくるとは思いますが、
麻生前総理・自民党には、一定の評価をすべき
ではないかと思います。私は以前、麻生総理 ( 当時 ) について、「有権者も問われている - 麻生総理 「そりゃ金がねえなら結婚しない方がいい」」 に、
総理としての責任感が感じられない、
(中略)
ところで、
総理としての責任感が「感じられない」 というのは、責任感が 「ない」 とは、異なります。
本当に責任感がなくて他人事なのか、あるいは、対策を打ちつつある安心感からなのか、はたまた、苦悩し続けているけれども表に出さない人柄なのか、それは、有権者ひとりひとりが判断しなければなりません。有権者の側も、総理の発言 ( 動画 ) をどう解釈するかが問われています。
と書きましたが、総理としての責任感が 「感じられない」 というのは私の錯覚で、本当は 「対策を打ちつつある安心感」 だったのかもしれません。
公正を期すために、明記したうえで、読者の判断に委ねたいと思います。
■追記
箇条書き部分の、ケインズ理論が大恐慌当時、「たまたま」 効果をあげた、という記述を訂正しました ( 「たまたま」 を削りました ) 。リチャード・クーの理論によれば、ケインズ理論は適用範囲が広すぎるのが問題である、ということになるはずだからです。