言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

中国の政策スタンス

2009-11-21 | 日記
REUTERS」 の 「中国が為替政策に関する文言変更、資本フローなどを反映へ」 ( 2009年11月12日 00:18 JST )

 [北京 11日 ロイター] 中国人民銀行(中央銀行)は11日発表した貨幣政策報告のなかで、資本フローの変化や主要通貨の変動に基づいて人民元為替相場メカニズムを改善する方針を示し、2008年半ばから続く実質的なドルペッグ制を変更する可能性を示唆した。

 人民銀行は2005年7月に人民元を切り上げて以来、貨幣政策報告で、人民元相場については「妥当で均衡の取れた水準で基本的な安定を維持する」との考えを繰り返し表明してきたが、今回の報告にはそのような表現がなく、人民元の相場形成に関する基準が変更された可能性がある。

 新たな表現は「主体性、コントロール可能性、および漸進主義の原則に従い、国際的な資本フローや主要通貨の変動を考慮して人民元相場の形成メカニズムを改善する」とした。

 来週には米国のオバマ大統領が中国を訪問する予定で、ドル安を背景に、世界各国から中国に対して人民元の柔軟性拡大を求める圧力が高まっている。

 報告はさらに、緩和的な金融政策スタンスを維持する方針をあらためて表明するとともに、銀行システムの十分な流動性を維持する考えを示した。

 中国政府への助言も行っている対外経済貿易大学(北京)のDing Zhijie教授は表現の変更について、中国政府が08年半ば以来維持してきた事実上のドルペッグ制をやめる用意があることを示しているとの見方を示した。

 「昨年の為替相場政策は、非常時のための臨時の政策とみなすことができる。その政策を終了させる時期だ」

 教授はまた、為替相場の柔軟性を高めるため、中国人民銀行が引き続き人民元の改革を行うとの見通しを示し「国際的な圧力や経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を考慮すれば、短期的には人民元が上昇することを意味する」と語った。

 05年の為替制度改革で中国当局は人民元相場を通過バスケットに基づいて決定する方法に変更、人民元は08年半ばまでに約19%上昇した。しかし世界的な金融危機の影響が中国経済にも及ぶ中、その後は狭いレンジでの動きが続いている。

 政府系シンクタンク、国家信息中心の上級研究員Niu Li氏は貨幣政策報告の表現変更について、為替制度の大幅な変更を意味しないとの見方を示した。

 「今回(の報告で)やや目新しいことは、いくつか考慮すべき点のうち、国際的な資本フローと主要通貨の変動の2つを特定したことだ」と指摘。「つまりこれは極めて重大な政策の変更ではなく、政策上の検討事項を強調している」と語った。


 中国人民銀行 (中央銀行) が、貨幣政策報告のなかで、従来の 「妥当で均衡の取れた水準で基本的な安定を維持する」 という表現を削り、「主体性、コントロール可能性、および漸進主義の原則に従い、国際的な資本フローや主要通貨の変動を考慮して人民元相場の形成メカニズムを改善する」 に変えたことをもって、「2008年半ばから続く実質的なドルペッグ制を変更する可能性を示唆した」 と報じられています。



 新たな表現に含まれている、「主体性、コントロール可能性、および漸進主義の原則」 が、重要だと思います。

 報道では、「つまりこれは極めて重大な政策の変更ではなく、政策上の検討事項を強調している」という見解も示されてはいますが、

 わざわざ、「主体性、コントロール可能性、および漸進主義の原則」 を明記した、ということは、「2008年半ばから続く実質的なドルペッグ制を変更する可能性を示唆した」 と捉えるのが、自然だろうと思います。



 もっとも、「実質的なドルペッグ制」 を変更したければ、さっさと変更すればよいわけで、それをせず、わざわざ 「示唆した」 のは、

   米国の金融緩和政策 ( ドル安政策 ) に対して、変更を促しつつ、
   場合によっては、「実質的なドルペッグ制」 をやめる ( かもしれない ) 、という趣旨

ではないかと思います。つまり、中国としては、

   できれば 「実質的なドルペッグ制」 をやめたくないのであり、
   米国の金融緩和政策 ( ドル安政策 ) を変えさせたい

というのが、その真意ではないかと思います。この観点からみれば、
  • 「2008年半ばから続く実質的なドルペッグ制を変更する可能性を示唆した」 という解釈と、
  • 「つまりこれは極めて重大な政策の変更ではなく、政策上の検討事項を強調している」 にすぎない、という解釈とは、

相対立する解釈ではなく、おなじことを、異なる角度から表現しているにすぎない、と考えられます。この解釈が、おそらく正当だろうと思います。



 とすれば、中国は、

   ドルに合わせて金融緩和をしたくないから、新しい基軸通貨の必要性を主張している

と考えて、まず、間違いないと思います。そしておそらく、中国は、リチャード・クーの説く、

   「バランスシート不況においては、金融緩和は効かない」 という考えかたを支持している、

と考えてよいのではないかと思います ( 「米中の政策スタンス」 参照 ) 。



 なお、「バランスシート不況においては、金融緩和は効かない」 と考えた場合であっても、「無益なだけで、有害でもない」 ならば、金融緩和をすればよい、とも考えられます。

 それではなぜ、金融緩和をしたくないのか。あきらかだとは思いますが、次の報道記事を引用します。



Bloomberg.co.jp」 の 「中国為替政策に試練:実質的なドル・ペッグ制で資産バブル招く恐れ」 ( 2009/11/13 13:03 JST )

11月13日(ブルームバーグ):中国の為替政策が、世界経済のリセッション(景気後退)入り以降最大の試練に直面している。エコノミストらは、実質的に人民元を米ドルにペッグ(連動)させる政策では資産バブルを招くリスクがあると警告している。

輸出が回復し始め、オバマ米大統領が来週北京で元に関して中国首脳と協議する構えを見せるなかで高まる元高圧力に対し、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は今月9日時点でそうした圧力をあまり感じていないと述べた。このような中国のスタンスでは、今年これまでに融資が1兆3000億ドル(約117兆円)急増した同国で、流動性を一段と増加させる恐れがあると、ゴールドマン・サックス・グループのフレッド・フー氏は指摘する。

中国国際金融(CICC)によれば、対ドル相場維持に向けた中国の元売りでマネーサプライ(通貨供給量)は29%増加し、過去半年で1500億ドル強の投機資金が海外から流入した。集合住宅価格は過去最高を記録し、中国株の指標の上海総合指数は年初来で74%高となっており、資産価格の行き過ぎた上昇に警鐘が鳴っている。

ゴールドマンのグレーター・チャイナ部門会長のフー氏(香港在勤)は「実質的なペッグ制を継続すれば、中国は資産バブルを防止する力を失う」と述べ、「いかなる元上昇も輸出セクターに悪影響をもたらしかねないという誤った不安感が政治家にある」と指摘した。

モルガン・スタンレーは、過去1年間で155%上昇した不動産開発会社株について、バブル崩壊リスクを最小限に抑えるため関連株の売却を投資家に勧めている。


 「エコノミストらは、実質的に人民元を米ドルにペッグ(連動)させる政策では資産バブルを招くリスクがあると警告している。」 と報じられています。



 これが、「中国はなぜ、金融緩和を行いたくないのか」 の答えではないかと思います。



 なお、「オバマ米大統領が来週北京で元に関して中国首脳と協議する構えを見せるなかで高まる元高圧力に対し、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は今月9日時点でそうした圧力をあまり感じていないと述べた。」 と報じられていますが、これはつまり、

   実質的なドルペッグ制をやめる気はない、

ということではないかと思います。

格付機関を格付けする

2009-11-21 | 日記
リチャード・クー&村山昇作 『世界同時バランスシート不況』 ( p.143 )

 世界にはムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチという三つの大きな格付機関があるが、そのなかでイギリスのフィッチだけは、この問題にかなりの理解を示している兆候がある。というのは、私が二〇〇三年に出した最初の英語の本 『Balance Sheet Recession ( バランスシート・リセッション )』 のなかで、「格付機関の言っていることはでたらめだ。日本が陥っているバランスシート不況のことを全然理解していない」 と書いたのを、フィッチのスタッフが読んで驚き、すぐにロンドンから二人の専門家を私のところによこして来たのである。そして、かなり長時間にわたって私と議論した結果、彼らは理解し、フィッチは即座に日本の格下げをやめたのである。
 あとの二つのアメリカの格付機関は、バカの一つ覚えのように格下げを続けたが、イギリスのフィッチだけはバランスシート不況を理解して格下げをやめたのである。だからフィッチのような格付機関が出てくれば、たんに財政赤字が大きいからというだけで格下げするような愚かな行動にブレーキがかかるはずである。
 また、ここに来てムーディーズも判断基準を見直す動きに出ている。二〇〇九年四月に日本は大きな補正予算を打ち出したが、それに対してムーディーズは日本国債の格付けを上げたのである。以前の彼らであれば、あれだけ大きな財政赤字を出すということになれば当然、格下げという話になるはずである。それが外貨建てはやや下げて、円建ては少し上げている。
 そのムーディーズの説明のなかに、「日本で新たに発生する財政赤字は、国内志向が強い日本の投資家のことを考えると充分国内で吸収されるだろう」 という一節があった。「昔からそうじゃないか。何をいまごろ言い出すのか」 とも思ったが、ムーディーズも少しはバランスシート不況のことを勉強したのかもしれない。もしかしたらアメリカやイギリスが今後、財政赤字を膨らませる方向に行かなければならないのを見越して、いまのうちに彼らが日本に対して犯した間違いを正しておけば、今度、アメリカやヨーロッパが同じ状態になったときに同じ間違い ( =格下げ ) をしなくてすむと考えたのかもしれない。そうだとすれば、彼らが世界経済の攪乱要因になる可能性は少なくなるだろう。その一方でスタンダード&プアーズは以前と同じオーソドックスな発想でイギリスを格下げするなどと言っているから、ここはまだまだ注意が必要である。


 世界の三大格付機関のうち、フィッチはバランスシート不況をかなり理解している。ムーディーズは理解しつつあると思われる。しかし、スタンダード&プアーズはまったく理解していない、と書かれています。



 すでに、「格付け会社への信頼喪失」 が発生しており、「格付け会社の 「表現の自由」」 でみたように、格付け会社は訴訟において、敗訴しつつあります。

 したがって、格付け機関が何を言おうが、「みんなで無視すれば問題ない」 とも、考えられるのですが、専門家 ( 専門機関 ) が言っていることは 「正しい」 と、それなりに信頼される可能性もあり、社会で一定の影響力をもつことも考えられます。

 実際問題として、

  1. 国際的なネットワークを持つ、大規模な機関投資家でないかぎり、詳細に調べることは不可能であるうえに、
  2. 大規模な機関投資家であっても、「ほかの人がどう考えているか」 も、投資判断をなす際の重要な要素になり得る以上、

格付機関の格付けには、それなりの影響力は残存する、と考えるのが、現実的かもしれません。



 そこで、その影響力や、信頼性をどう考えるか、が問題になります。その際に、上記、著者の見解は、参考になるのではないかと思います。



 また、徐々に著者の見解は受け容れられつつある、と考えられますので、

 この点をも勘案すると、中国が 「ドルに合わせて金融緩和をしたくないから、新しい基軸通貨の必要性を主張している」 と考えるのが、適切なのだろうと思います ( 「米中の政策スタンス」 参照 ) 。