ダンスのクラスに異様な空気が流れている。所詮、スポーツジムのダンスクラスなので、わいわい楽しければいいという人が大半だし、どのくらいのモチベーションでやるかってのも各自違っていて、互いにそれは尊重し合っている。だが、最近、7年セッションを担当していたイントラが辞職して、系列他店から新しいイントラがやってきた。初回からとても評判がよくて、メンバーのあいだで一気に人気者になったのだけど、前任地からの追っかけ組がすごく早くからやってきてイントラに一番近い場所を獲るようになった。早いもの勝ちなので、それ自体は問題ないんだけど、いつも数人が異様な結束を見せながら、前列を占拠するので、それまでそこが定位置だった人たちははみ出すことになる。それまではせいぜい開始30分前に来れば余裕だったけど、彼らは1時間半前にやってきて並ぶ。つまり前のプログラムの開始前から別の列を作っているのだ。こうした事態は、ぼくの通うジムでは初めてのことなので、みんな戸惑うことしきり。ある種のカルチャーショックを与えている。
今日で数回目になるんだけど、ぼくが10分ほど前に行ったら、いつもと同じメンバーが同じ場所を占拠していたので、「あ、また彼らは早くから並んだんだ」って思った。例によって、イントラから見て左側を占める彼らは彼ら同士での会話は弾んでいるんだけど、地元メンバーとは口を利かない。だから右半分はかなり詰まっていたのに、左半分はガラガラで、どう見ても不自然な状態だった。ぼくはすでに体育館座りしている顔なじみの間を「やぁやぁ」と挨拶しながら、左半分の後ろのほうにくっついた。股割してたら、イントラがわざわざ会話しに来た。「こんな端で大丈夫ですか?」って言うから、「ぼくはいつもあいてるところでやるから慣れてます」とか言って、「こちらの方々は○○さんのクラスで長くダンスされてるんですか?」って聞いたら、「いや、あちらこちらへ行ってらっしゃる方たちです」って小声で答えた。地元会員で彼らの後ろに入ったのは3人しかいなかった。イントラから見て真中から右に約30人!
そして、ぼくは彼らの間から覗くようにイントラの動きをみるので、どうしても彼らの「ダンス」が目に入る。で、感じたのは彼らは誰もダンスを楽しんではないのだ。笑顔は音楽にも何にも反応してない作り物、動きは機械のよう。一応動きは間違わないけど、細かいことを言えば、セクシーさは皆無で、柔らかさがなくてラジオ体操のような感じ。ぼくは後ろにいて、だんだんしらけてきた。極めつけは、イントラが曲の途中で、入るところを左右間違えた。地元メンバーはそれに気付かなかった人はもちろん、気付いた人もイントラと同じように動いたけど、彼ら遠征組は「正しい」入り方をしてゆずらなかった。ジムでの動きは、イントラは対面して立ち、生徒はイントラを鏡に映った自分のようにして動くから、イントラが右を向いたら生徒は左を向くのが約束ごとだ。まあ、間違ったイントラが悪いと言えばそれまでだけど、その前列の数人はずっと「正しい」動きを貫きとおした。早い動きを間違えると修正は不可能だ。それに、所詮、スクールじゃないんだから左右間違った方向で入っても運動量は一緒だし、イントラと合わせていたほうが楽しいに決まっている。でも、彼らは「正しい」動きを選んだ。それも、例の作り笑いをくっつけて。
地元メンバーは、言葉にはしなかったが、終わった後、テンションが落ちまくっていた。イントラもそれに気づいて一生懸命愛想を振りまいていたけど、取り返しは付かなかった。地元メンバーの多くには、自分たちのダンスが締め出されたような悔しさがあった。うまくなくてもいい、それぞれのレベルで精いっぱい汗かいて、楽しく、盛り上がって、1時間を過ごしたいという思いが突然奪い取られたような気分になっていた。
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