【漂えど沈まず】
開高健の心に響く言葉より…
《漂えど沈まず。》
(『花終る闇』新潮文庫 9頁)
小説家(開高健)が書き残した名言の中でも、とりわけ人気の高い名言中の名言だ。
小説家自身が書いているところによると、これはパリが“ルテチア”と呼ばれていた頃から掲げ続けている市のモットーで、パリ市の紋章にはセーヌ川に浮かぶ帆掛け舟のデザインと共にこの文言が書かれている。
原文はフランス語ではなくラテン語である。
"FLUCTUAT NEC MERGITUR"
(フルクトゥアット・ネック・メルギトゥール)
■「揺れても沈まず」と訳する人もいるが、小説家は これを「漂えど沈まず」と訳した。
ときには読点を 加えて「漂えど、沈まず」と表記したりもした。
「揺れても沈まず」に比べると言葉としての奥行きも深さも段違いである。
■《古い、古い時代からのパリのモットーなのだ。
言いえて妙だとは思わないか。
パリが誕生してから 五百年か六百年、あの街の歴史を見てごらんなさい。
風にうたれ波にもまれ、しかしその歴史は、「漂えど、沈まず」という一言に、見事に要約されているじゃないか。
男の本質、旅の本質はまさにこれなのだ。》
(『地球はグラスのふちを回る』 新潮文庫 291頁)
■《この言葉を核として、私は一作を書こうと以前から考えているんだけれども、いまだに書けないで、こうして君たちの“よろず相談”をやっている。
こういうことを早くやめなければ、私は溺れてしまう。
沈んでしまう。
漂うてはいるが、沈んでしまう。》
(「風に訊け」集英社 359頁) 『開高健名言辞典 漂えど沈まず』(滝田誠一郎)小学館 https://amzn.to/3AsJwvr
「漂(ただよ)えど沈まず」は、パリ市の紋章に書かれているラテン語だという。
長く続く歴史の中で、パリ市は戦争に翻弄され続けた。
ある時は他国に占領され、あるときはテロ攻撃にさらされた。
しかし、まさに「漂えど、沈まず」だ。
また、「悠々(ゆうゆう)として急げ」という言葉がある。
この「ゆっくり、いそげ」と同じラテン語だが、こちらの訳も深みがある。
不世出(ふせいしゅつ)のアマチュア・ゴルファーと言われた中部銀次郎や、作家の開高健が好んだ言葉だ。
二人とも、「悠々として急げ」という題名で本も出版している。
ゴルフはスピーディなプレイをしなければまわりが迷惑する。
だから急がなければならない。
が、しかし、悠々として、王者のごとく急ぐこと。
余韻の残る王者のゴルフをめざすなら。
人生は結局、どっちの道を行っても同じ、どの列に並んでも同じ、と肚をくくることだ。
間違ってもうろたえて、人数が少なそうな列に並び変える、などということはしてはならない。
人の世もまた、かくのごとし。
世の中が騒然とすればするほど…
異常事態になればなるほど…
「「悠々(ゆうゆう)として急げ」。
そして、どんなことがあろうと…
「漂えど、沈まず」。
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開高健の心に響く言葉より…
《漂えど沈まず。》
(『花終る闇』新潮文庫 9頁)
小説家(開高健)が書き残した名言の中でも、とりわけ人気の高い名言中の名言だ。
小説家自身が書いているところによると、これはパリが“ルテチア”と呼ばれていた頃から掲げ続けている市のモットーで、パリ市の紋章にはセーヌ川に浮かぶ帆掛け舟のデザインと共にこの文言が書かれている。
原文はフランス語ではなくラテン語である。
"FLUCTUAT NEC MERGITUR"
(フルクトゥアット・ネック・メルギトゥール)
■「揺れても沈まず」と訳する人もいるが、小説家は これを「漂えど沈まず」と訳した。
ときには読点を 加えて「漂えど、沈まず」と表記したりもした。
「揺れても沈まず」に比べると言葉としての奥行きも深さも段違いである。
■《古い、古い時代からのパリのモットーなのだ。
言いえて妙だとは思わないか。
パリが誕生してから 五百年か六百年、あの街の歴史を見てごらんなさい。
風にうたれ波にもまれ、しかしその歴史は、「漂えど、沈まず」という一言に、見事に要約されているじゃないか。
男の本質、旅の本質はまさにこれなのだ。》
(『地球はグラスのふちを回る』 新潮文庫 291頁)
■《この言葉を核として、私は一作を書こうと以前から考えているんだけれども、いまだに書けないで、こうして君たちの“よろず相談”をやっている。
こういうことを早くやめなければ、私は溺れてしまう。
沈んでしまう。
漂うてはいるが、沈んでしまう。》
(「風に訊け」集英社 359頁) 『開高健名言辞典 漂えど沈まず』(滝田誠一郎)小学館 https://amzn.to/3AsJwvr
「漂(ただよ)えど沈まず」は、パリ市の紋章に書かれているラテン語だという。
長く続く歴史の中で、パリ市は戦争に翻弄され続けた。
ある時は他国に占領され、あるときはテロ攻撃にさらされた。
しかし、まさに「漂えど、沈まず」だ。
また、「悠々(ゆうゆう)として急げ」という言葉がある。
この「ゆっくり、いそげ」と同じラテン語だが、こちらの訳も深みがある。
不世出(ふせいしゅつ)のアマチュア・ゴルファーと言われた中部銀次郎や、作家の開高健が好んだ言葉だ。
二人とも、「悠々として急げ」という題名で本も出版している。
ゴルフはスピーディなプレイをしなければまわりが迷惑する。
だから急がなければならない。
が、しかし、悠々として、王者のごとく急ぐこと。
余韻の残る王者のゴルフをめざすなら。
人生は結局、どっちの道を行っても同じ、どの列に並んでも同じ、と肚をくくることだ。
間違ってもうろたえて、人数が少なそうな列に並び変える、などということはしてはならない。
人の世もまた、かくのごとし。
世の中が騒然とすればするほど…
異常事態になればなるほど…
「「悠々(ゆうゆう)として急げ」。
そして、どんなことがあろうと…
「漂えど、沈まず」。
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