MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

憐れみたまえ

2013-11-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/18 私の音楽仲間 (535) ~ 私の室内楽仲間たち (508)



              憐れみたまえ



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                  憐れみたまえ

                 室内楽で Viola




 Mozart のレクィエム。 編曲版に
沿って、お読みいただいてきました。

 編成は弦楽四重奏。 同時代人の
リヒテンタールが編曲したものです。



 …と言いつつ、私はこんなふうに書きましたね。

 「今回用いたのは、他の人間がコントラバスを
加えた五重奏版。」




 この弦楽四重奏版は、日本でも入手が可能です。
さる出版社が刊行している。

 ついでに言えば、誤植だらけですが。 この場で
ご覧いただいた譜例にも、幾つか致命的なミスが
ありました。

 ・ 五線上の位置がズレ、音程が三度ズレている。

 ・ 四分音符が四分休符に化けている。

 ・ 八分音符、十六分音符の “旗” の数や位置が
  変わってしまった。

 それだけではない。 臨時記号に誤りがあり、音程
が半音ズレているところまで、何箇所かあります。



 要するに、このままでは使いものにならない。 たとえ
人前で演奏しなくても…です。 おそらく、当時の写譜屋
のミスが、200年以上引き継がれてしまったのでしょう。

 「こんなもの、よく臆面も無く販売するなぁ…。」 楽譜
の出版社は、特に良心的であるべきだから。




 さて、今回の “コントラバス五重奏版”。 一体、
誰が編曲したものでしょうか?

 実はそれを確認しないまま、この記事を書き
進めてしまったのです。 臆面も無く…。



 結論を言えば、「そんな版は存在しない!」
たった今、そう考えざるを得なくなりました。

 奇妙ですね。 その理由は…?




 このリヒテンタール版には、“小節数が原曲と異なる”
曲があります。 それは、Hostias” と “Benedictus

 両曲ともに、途中の3小節がカットされてしまっている
のです。 前者ではその上、冒頭の2小節までが。

 これは、管楽器や合唱による “同一フレーズの反復”
を避けるためでしょう。 カットがあっても、音楽の流れ
は途切れず、確かに自然に流れています。



 リヒテンタールを責めているのではない。 “コントラバス
五重奏版” が存在しないことが、これで明らかになったの
です。



 勘の鋭い貴方は、もうお解りですね? 今回用いた
コントラバスのパート譜、それをよく見てみると…。

 上記の2曲では、小節数が原曲どおりでした。



 つまり…。 コントラバスの H.さんが用意したのは、
原曲のコントラバス譜だったのではないか。

 そう考えるのが自然なのです。




 そういえば、思い当ることがある。

 “Hostias” をみんなで演奏したときのこと。 曲が
始まってしばらくすると、H.さんはこう言いました。

 「すみません、勘定を間違えてしまって…。 もう
一度、最初からお願いします。」



 そんなわけで、また最初から繰り返したのです。
これ、H.さんにしては珍しいこと…。

 でも二回目には、ちゃんと合ったのでしょうか?



 それより、“Benedictus” のほうは? 一回しかやらな
かったけど、大丈夫だったの?

 なぜって、小節数の異なるパート譜を完璧に弾いても、
変な音がするだけ。 一緒に終るはずもありませんし…。




 H.さんは、この曲の提案者でもある。 四重奏用の
パート譜を入手して、事前にみんなに配りました。

 チェロも堪能な H.さん。 リヒテンタール版のままで
チェロを弾けば、それで済んだことでしょう。



 「でも、せっかくの大曲だから…。」 わざわざコントラバス
を、持参してきてくれた。 原曲のパート譜まで調達して。

 今でも、自分が勘定ミスをしたと思い込んでいるでしょう。



 気の毒な H.さん…。




 演奏例の音源]は、最終曲 Lux aeterna
から “Allegro”。 全曲の最終部分です。

 冒頭の Kyrie を、ほとんどそのままの形で、
ここにもズュ―スマイアが置きました。

 小節数も同じで、52 のまま。 勘定は合って
いるので、ご心配要りません。



 譜例は Kyrie” の冒頭部分で、二重フ―ガが展開します。



 “Kyrie eleison”、“Christe eleison”。

 主よ、憐れみたまえ。 キリストよ、憐れみたまえ。








 さて、“計算どおり” に行かなかった、H.さん。 この
曲、もう懲りた? それとも、もう一度やりたい?

 でもね、もし、やることになったとしても…。




 この記事の内容、H.さんには言わないでおくからね。
ヘへ、意地悪な私…。

 そのときには、よく観察することにします。 H.さんを。



 もちろん、“Hostias” と “Benedictus” のときにね。

 これ、それぞれ次の意味になります。



 “Hostias” … “生贄を、犠牲者を”。

 “Benedictus” … “祝福を”。



 ああ、憐れみたまえ。




 え? 「もう一度やったら、今度は勘定が合った!」…って?

 そしたら大問題です…。



 おお、憐れみたまえ…。




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