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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

乗り移るシューベルト

2008-12-25 00:04:16 | 私の室内楽仲間たち

12/25  私の音楽仲間 (6)  乗り移るシューベルト



          私の室内楽仲間たち (6)




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                  鎮静か暗澹か
                 年季が入ってるよ
                 聴くにはいいが…




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』

 12/23 に掲載した室内楽の集い (5) と、同じ日に演奏

した、同じ編成の五重奏曲で、シューベルトのものです。




 メンバーも同じ5人で、Violin が私と Suさん

Viola が Saさん、チェロが SiさんIさんです。





 有名な『鱒』はピアノ五重奏曲ですが、このハ長調の曲
弦楽器だけのために書かれています。


 この日前半のボッケリーニ同様、Violin 2、Viola 1、チェロ 2
という編成です。




 50分もかかる大曲で、チェロのIさんと私は初体験です。


 しかし他の三人は何度もやっていて、曲全体の流れや、
急所を、よく知っているようです。

 その上、私の弾くパートで "どこがヤバい箇所か" までも!


 まったく困ったものです…。




 以下は私の勝手な描写で、青い活字のリンクは音源です。


 演奏はすべて、

 "Alban Berg Quartet and Heinrich Schiff" です。





 第Ⅰ楽章は、"明るさ" と "激しさ"、また "慰め" が
交互に現れます。

 美しい第二主題を歌いながら、徐々に盛り上がっていく
箇所が、私は特に大好きです。


 しかし、絶えず闘いや緊張感が支配しており、とても
落ち着いて安住できるような気分にはなれません。


  [(1)]  [(2)





 Adagio の第Ⅱ楽章は、まさに天国的な長さ!

 チェロのSiさんによれば、

 「一頃は一晩じゅうでも聴いていたいと思った」楽章です。


 内声三人の、息の長い歌で始まり、チェロⅡの
ピツィカートが、合間で時を刻みます。


 私の Vn.Ⅰが短い "合いの手" を何度も入れますが、
一回ごとに違う思いを込めて答えねばなりません。

 しかし、もたれずに、淡々と、流れに逆らわずに…。
いつも軽い音が要求されます。




 激しく、悲劇的な中間部は、やがて徐々に、いつしか
沈黙へと静まっていきます。 "諦め" さえ感じさせながら。


 楽章全体もまた、同じ気分に支配され、消えていきます。


  [(1)]  [(2)





 第Ⅲ楽章は、速い Presto の三拍子で、場所によっては
弓の動きが間に合わないほどです。




 Andante のゆっくりな中間部は、二拍子系に変わります。

 基本的に長調で書かれていますが、とてもそうは感じられ
ません。 遠くは、沈潜したブルックナーの音楽の一節すら、
私には思い起こさせます。

 いや、それよりもっと怖いかもれない。 所どころポッカリと、
地獄の裂け目が顔を覗かせます。

 その不気味さは、弾いていて恐ろしくなるほどです。





 2/2拍子の>終楽章は、明るく、快活な舞曲調です。

 しかし、ときどき、恐ろしい、何かの遠鳴りが聞こえて
きます。 それとともに、安息を許さぬ不安感までも。

 全体は長調で華やかに終わりますが、人生の嵐を
避けようとする、"束の間の平安" のような 儚さ (はかなさ)
を感じさせます。




 そして何よりも、私のパートにとっては、大変難しい
パッセジの連続で、息が休まりません。

 「鍵盤楽器なら少しは易しいのではないか」、
そう感じたくなるほどです。


 先ほども書きましたが、「どの箇所がヤバいか」を
知っている人がいるというのは、まったく大きな
プレッシャーです。





 終わって、帰り道はバスの中でした。 外は夕闇。

 恐ろしい音楽が、まだ頭の中で鳴っています。

 家に帰ってから、平静な気分に戻れるかどうか、
自信がありません。




 実はこの翌日も、私にとっては、シューベルトの
別の室内楽曲 (『死と乙女』) が続きます。

 何かが乗り移って来そうで、怖くなります。


 シューベルトって、凄い。