12/25 私の音楽仲間 (6) 乗り移るシューベルト
私の室内楽仲間たち (6)
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これまでの 『私の室内楽仲間たち』
12/23 に掲載した室内楽の集い (5) と、同じ日に演奏
した、同じ編成の五重奏曲で、シューベルトのものです。
メンバーも同じ5人で、Violin が私と Suさん、
Viola が Saさん、チェロが Siさんと Iさんです。
有名な『鱒』はピアノ五重奏曲ですが、このハ長調の曲は
弦楽器だけのために書かれています。
この日前半のボッケリーニ同様、Violin 2、Viola 1、チェロ 2
という編成です。
50分もかかる大曲で、チェロのIさんと私は初体験です。
しかし他の三人は何度もやっていて、曲全体の流れや、
急所を、よく知っているようです。
その上、私の弾くパートで "どこがヤバい箇所か" までも!
まったく困ったものです…。
以下は私の勝手な描写で、青い活字のリンクは音源です。
演奏はすべて、
"Alban Berg Quartet and Heinrich Schiff" です。
第Ⅰ楽章は、"明るさ" と "激しさ"、また "慰め" が
交互に現れます。
美しい第二主題を歌いながら、徐々に盛り上がっていく
箇所が、私は特に大好きです。
しかし、絶えず闘いや緊張感が支配しており、とても
落ち着いて安住できるような気分にはなれません。
[(1)] [(2)]
Adagio の第Ⅱ楽章は、まさに天国的な長さ!
チェロのSiさんによれば、
「一頃は一晩じゅうでも聴いていたいと思った」楽章です。
内声三人の、息の長い歌で始まり、チェロⅡの
ピツィカートが、合間で時を刻みます。
私の Vn.Ⅰが短い "合いの手" を何度も入れますが、
一回ごとに違う思いを込めて答えねばなりません。
しかし、もたれずに、淡々と、流れに逆らわずに…。
いつも軽い音が要求されます。
激しく、悲劇的な中間部は、やがて徐々に、いつしか
沈黙へと静まっていきます。 "諦め" さえ感じさせながら。
楽章全体もまた、同じ気分に支配され、消えていきます。
[(1)] [(2)]
第Ⅲ楽章は、速い Presto の三拍子で、場所によっては
弓の動きが間に合わないほどです。
Andante のゆっくりな中間部は、二拍子系に変わります。
基本的に長調で書かれていますが、とてもそうは感じられ
ません。 遠くは、沈潜したブルックナーの音楽の一節すら、
私には思い起こさせます。
いや、それよりもっと怖いかもれない。 所どころポッカリと、
地獄の裂け目が顔を覗かせます。
その不気味さは、弾いていて恐ろしくなるほどです。
2/2拍子の>終楽章は、明るく、快活な舞曲調です。
しかし、ときどき、恐ろしい、何かの遠鳴りが聞こえて
きます。 それとともに、安息を許さぬ不安感までも。
全体は長調で華やかに終わりますが、人生の嵐を
避けようとする、"束の間の平安" のような 儚さ (はかなさ)
を感じさせます。
そして何よりも、私のパートにとっては、大変難しい
パッセジの連続で、息が休まりません。
「鍵盤楽器なら少しは易しいのではないか」、
そう感じたくなるほどです。
先ほども書きましたが、「どの箇所がヤバいか」を
知っている人がいるというのは、まったく大きな
プレッシャーです。
終わって、帰り道はバスの中でした。 外は夕闇。
恐ろしい音楽が、まだ頭の中で鳴っています。
家に帰ってから、平静な気分に戻れるかどうか、
自信がありません。
実はこの翌日も、私にとっては、シューベルトの
別の室内楽曲 (『死と乙女』) が続きます。
何かが乗り移って来そうで、怖くなります。
シューベルトって、凄い。