MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

読者も踊る

2013-12-09 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

12/09 私の音楽仲間 (539) ~ 私の室内楽仲間たち (512)



                読者も踊る



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



             『ラズモーフスキィ』第

                   素通りする音
                  音楽すきィ伯爵
                   誰が縁結び?
                   厳しさと重圧
                    涙する長調
                 無骨さなら任せて…
                   61歳の試練
                    半拍の差
                    読者も踊る
                 忠ならんと欲すれば
                   ここにもロシア
                 悲しみよ こんにちは
              ロシアと張り合う Beethoven
                音の濃淡とアンサンブル
                   謎の美女 出現
                規律違反の癒し?
                  美女の素姓?
                  喪服の美女





 「再現部は、言わば、家や故郷へ帰った喜びです。 テーマ
を扱う楽器が変わったり増えたりします。 また調性が以前と
は違うことがあっても、大事件は通常起こりません。」



 これはソナタ形式について、かつて私が記した文章です。
曲は、Beethoven の『ラズモーフスキィ』四重奏曲 第1番
でした。

 弦楽四重奏曲の傑作として、今日名の残るラズモーフスキィ
伯爵。 後には不運に踊らされることになります。

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 「この道は、いつか来た道…か。 やっと最初の調に戻った
ようだな。 この再現部では。」

 一度来たことのある場所なので、景色にも見覚えがあります。
周囲の様子が解っているので、初めての場所より落ち着ける。



 あの “展開部” は、聴いているだけでも忙しかった。
鑑賞者の貴方は、やっとそこから解放されたのです。

 何が起こるか予測不能…なのが展開部。 そんな
環境では、聴いていても緊張の連続でした。



 しかしこの作曲家のことですから、油断は禁物ですね。

 特に演奏者は。




 演奏例の音源]は、この曲の第Ⅰ楽章の一部
で、展開部の終わりから再現部へかけて。

 音源の【0:16】からは、チェロが第一主題を奏で、
再現部が始まります。



 [譜例]は、【0:31】以後の部分に当ります。 冒頭
と同じように、チェロのテーマを Vn.Ⅰが受け継ぐ。



 ところが、主調のヘ長調は長続きしません。 5小節目に臨時
記号の♭が現われたかと思うと、どんどん転調していきます。

 譜例の最後では、なんと変ニ長調が現われ、さらにモティーフ
の “展開” が続きます。







 再現部での展開…。 BEETHOVEN では特に珍しいこと
ではありません。

 “展開” に付き物なのが、執拗な “繰り返し”。 演奏者は、
♭の位置に気を付けながらも、集中力を絶やせません。



 その上、ここで要注意なのは、強弱記号です。 f → più f →
ff と、緊張を高めていかねばなりません。 二段階に亘って。

 これが “一段階” なら、まだ易しい。 しかし、作曲者が意図
した “二段階” の飛躍には、今回の私も失敗しています。



 譜例の三段目に入ると、“poco ritard.” の指示がある。 ここ
では、Viola とチェロが一苦労です。 八分音符で動きながら、
一度テンポを落とさねばなりません。

 テンポを緩めるには、同じ八分音符でも “長めに” 弾く必要
がある。 それは、解っていても難しいことがあります。




 音楽は、しばらく変ニ長調を保った後、再び転調していく。

 やがて第二主題も、今度はヘ長調で再現されるのです。
これ、提示部では、もちろんハ長調でした。




 ここで Beethoven が企図したのは、意外性でしょう。
突如として転調が起こり、“安らぎのヘ長調” は中断
されます。

 「一体、何が起こったんだ?」

 聴く者がいぶかるうちに、またしても展開が始まります。
モティーフB、モティーフC…。



 しかし、ここで演奏者のほうが振り回され、踊らされては
駄目ですね。 作曲者の意図を察し、それを実現する側の
立場ですから。

 聴く者にとっては、驚きの連続でなければならない、この
箇所。 しかし演奏する側は、演劇で言えば演出家であり、
同時に役者でなければなりません。



 ここでは余分な演出は要らない。 ただ書かれたとおり、
正確に演奏する必要があります。 正攻法のみで、忠実
に対処していく。

 でも、それが難しいのです…。




 この時期の Beethoven は、演奏者にも緊張を強いる
ことが多い。 特に今回のようなソナタ形式の楽章では。

 「自分が今どこにいるか?」 「全体の筋書きの中で、
どういう部分に当るか?」…のを意識していないと、結果
として、台本に踊らされるだけ…。



 演劇に例えれば…の話ですが。

 このたび踊らされたのは、Violin 私、O.さん
Viola M.さん、チェロ N.さんでした。





 さて、今回の記事のタイトルは、『読者も踊る』。

 おかしいですよね? 『演奏者は踊る』なら、まだ解りますが。



 でも、あの会議は踊るなら、きっとよくご存じでしょう?



 ウクライナ出身のラズモーフスキィ伯爵 (Андрей
Кириллович Разумовский
)
は、ヴィーン
会議
(1814~15) のロシア首席代表でもあったのです。

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 後になって、運命に踊らされたラズモーフスキィ。

 作曲者に踊らされた、今回の演奏者たち。

 そして読者のかたがたは、私の気紛れに踊らされた?




 「いや、このオチは途中で見破っていたぞ!」

 もし貴方がそうおっしゃるなら、さすがです!



 台本を制作した私の “一人踊り” になりますから。




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