MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

半拍の差

2012-03-12 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

03/12 私の音楽仲間 (370) ~ 私の室内楽仲間たち (343)



                 半拍の差



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



             『ラズモーフスキィ』第

                   素通りする音
                  音楽すきィ伯爵
                   誰が縁結び?
                   厳しさと重圧
                    涙する長調
                 無骨さなら任せて…
                   61歳の試練
                    半拍の差
                    読者も踊る
                 忠ならんと欲すれば
                   ここにもロシア
                 悲しみよ こんにちは
              ロシアと張り合う Beethoven
                音の濃淡とアンサンブル
                   謎の美女 出現
                規律違反の癒し?
                  美女の素姓?
                  喪服の美女





 Beethoven の『ラズモーフスキィ』四重奏曲 第1番
その第Ⅱ楽章は、典型的なスケルツォ。 3/8拍子です。

 テンポはほぼ一貫して Allegretto ですが、アンサンブル
は決して易しくありません。 途中では何度か ritardando
もあります。




 譜例は、その中ほどの部分ですが、"poco rit." (少しだけ
ゆっくり)
と書かれた小節があり、すぐ、元のテンポに戻ります
(a tempo)。 これが2箇所、上段と下段にありますね。



 まず、ゆっくりする小節が1小節。 これが難しい。

 16分音符が6つあるので、それらを徐々に長めに弾いて
いかねばなりません。 おまけに "dim." まであります。

 「こんなにたくさん、指示があったの…?」







 「はっ!」…と気付いたときには、もう手遅れ。 後ほどお聴き
いただく音源でも、派手にずれまくっています。




 でも、再三お読みいただいているとおり、私たちには "ただ
通すだけ" の時間しかありません。 正確には 90~100分
ですが、準備や後片付けがあるので、実際はそれ以下。

 一方で、この曲は40分以上かかります。



 それに、この4人の組み合わせは "今回限り"。 "発表が前提"
…ではありません。 それだけに、各自の準備は相当なものです。

 この日、ただ一日だけのために。



 そんなメンバー、30~40人が登録したのが、このような主旨の
集い。 私もその一員です。 もちろん、何人かが意気投合して、
他の場を自発的に設ける分には、一向に差し支えありません。




 皆さんが、自宅で "パート譜を音にする" だけでも、並大抵
の苦労では済みません。 おまけに、"いざ4人で合わせる"
となると、勝手がまったく違います。

 「こんなはずではなかった…。」

 ですから、"4人が一緒に弾く" だけでも、それは各自にとって
大きな経験になります。 もちろん、私自身にとっても。



 しかし、そこはお節介な私。 一緒に弾かせていただき、"音
だけでモノが言える" なら、それで充分なのですが、出来れば
"言葉でも"。

 メンバーは、Violin が私、San.さん。 Viola が T.さん
チェロは I.さんでした。




 今回は、ただ1箇所に絞って、皆さんにお願いをしました。
それは、譜例の二段目、193小節への入り方です。







 直前の2小節間は、すでに元の速いテンポに戻っています。
そこで、まず "テンポ感を敏捷に切り替える" 必要があります。

 次に、そこに書いてある "cresc. に捉われすぎないように"。
弓の重さを増やしすぎると、テンポ感まで狂いがちになります。



 ただ、私だけは、3人と一緒ではありません。 小節の頭の
16分音符は、前の長い音符と、タイで繋がっています。

 一人だけ遅れて、1拍目の裏から出るわけですが、もし私が
"聴いて合わせず"、"in tempo" どおりに出てしまったら…。
結果は悲惨!



 実際に、そのとおりになってしまいました。

 逆に言えば、"聴いて合わせる"…ような箇所
ではないのです。



 そして、もっとも大事なことです。

 「6拍続いた音を、予めちゃんと終らせてから、
193小節に入ってください
。」



 私が今回お願いしたのは、この最後の事だけです。




 「書かれている音符の長さは、ちゃんと守りなさい。」
よく指摘される事柄です。

 しかしそれも、時と場合によりけり。 結果として、
"次の小節の入り" が遅れてしまうこともあります。

 「でも、休符は書いてないよ!」

 楽譜には書かれていないことがたくさんあります。



 ここでは、弾きながら "1 2 3、1 2 3"…と数えるわけ
ですが、最後の "3" だけは、それまでとは違います。
ここでは、弓を一度、弦から離すような動作で、"193
小節のために身構える" 必要があります。

 すると、音は自然に切れるはずです。 もっと正確に
言えば、最後の1拍は "響きだけ" なのですが…。
これは楽譜には書けません。 "音の有無" を超えた
問題です。



 その3拍目の動作を、(私以外の) 3人で一緒に確認
出来れば、"小節の入り" は、間違いなく合うはず。



 そしてそれは、1拍目の裏から出る私にも、見て解ります。

 「あっ! 1拍目の頭が、ここで鳴るな?」

 事前にそう予想できるのです。 遅れて出るとはいっても、
準備のためには、ここで同じ呼吸をする必要があります。
まさに "呼吸を合わせる" のです。




 指揮者の動作も、これとまったく同じ。 指揮者を志す方に
は、ぜひ、「自らアンサンブルでの音出しを経験してほしい」
…と念じるものです。

 大事なのは "音のニュアンス" ですから。 それが解らず
して、音を扱うプロには成れません。








 演奏例の音源は、譜例の1小節前から始まり、
アンサンブルが一旦ずれたところで止まります。

 そこで、皆さんに言葉でお願いをした後の演奏が、
これに続きます。




    [音源ページ ]  [音源ページ