MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

謎の美女 出現

2014-08-11 00:00:01 | 私の室内楽仲間たち


08/11 私の音楽仲間 (598) ~ 私の室内楽仲間たち (571)



              謎の美女 出現



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



             『ラズモーフスキィ』第

                   素通りする音
                  音楽すきィ伯爵
                   誰が縁結び?
                   厳しさと重圧
                    涙する長調
                 無骨さなら任せて…
                   61歳の試練
                    半拍の差
                    読者も踊る
                 忠ならんと欲すれば
                   ここにもロシア
                悲しみよ こんにちは
             ロシアと張り合う Beethoven
              音の濃淡とアンサンブル
                 謎の美女 出現
                規律違反の癒し?
                  美女の素姓?
                  喪服の美女


 

 今回は、まず音源をお聞きいただきます。 最初の音量
大きいので、ご注意ください。

 

 「音量が大きいのは当然だよ。 だってあの有名な交響曲
じゃないか! 作曲者は同じだけどね。 ところで弦楽四重奏
『ラズモーフスキィ』第1番の話は、もう終わったの?」

 いえいえ、今回もちゃんと最後に出て来ます。 しばらく、
この交響曲の話題にお付き合いください。


 それにしても、表現の幅が広いですね。 全オーケストラの
ff で始まった音楽は、緊迫の度を深め、破局を迎えて中断
します。 それを癒すかのように現われたのは、オーボエを
中心とする美しいテーマです。 木管と弦によるは、この
後もしばらく続きます。

 これをスコアで見たのが次の譜例です。 オーボエのライン
目ですね。 細かく見ていただく必要は、まったくあり
ません。 音の上下の動きだけ、ただ漠然と眺めてください。

 [同じ音源です。 ソナタ形式で書かれた第Ⅰ楽章で、
その展開部に当る部分です。



 さて、今回この部分を取り上げたのには、わけがあります。
私は先ほど “美しいテーマ” と書いてしまいましたが、果たし
てその表現が正しいかどうか…。

 なぜなら、これは第一主題でも第二主題でもないからです。
おまけ展開部の、それも後半になって初めて登場した旋律
なのです。


 新しいテーマが展開部で登場? 実はこれ、しばしば
物議を醸す場所です。 この美しいメロディーは “ソナタ
形式” の観点からは、どう位置付けられるのか? 極端
場合は、次のような記述さえ見かけます。

 「これは展開部になって現われた、第三主題なのである。
Beethoven は後に “第九” で、交響曲の形式を破壊した
とも言えるのだから、ここではソナタ形式の論理を無視し
と考えても不思議は無い。」


 事の真偽は別として、展開部は本来 “主題を登場させる”
場所ではありません。 提示部で現われた主題を、通常は
分解し、モティーフ同士を反復、多用、対立させる部分です。
単純な遊戯から、深遠な思索に至るまで、その次元は多様
で、作曲家の腕の見せ所とも言えるのが、この展開部です。

 果たして Beethoven は、その厳格な “形式の論理” を
無視してまで、女性的な “癒しの旋律” を、ここで必要と
したのでしょうか?



 

 『ラズモーフスキィ』第1番に戻りましょう。 実はそこでも
同じような事例が見られます。 やはりソナタ形式第Ⅰ
楽章で、展開部の後半です。

 演奏例の音源]は、これが Vn.Ⅰに現われる部分から
始まります。



 Beethoven がここでも登場させている、新しい “テーマ”。
以下にご覧いただく譜例は、いずれもチェロによる第一
主題、第二主題ですが、類似性は見られません。


 

 

 

 第3交響曲の完成は1804年、『ラズモーフスキィ』シリーズは
1806年に出版されており、いずれも “構成を重んじるとされる
中期” の作品です。 作曲時期は 34~36歳の年に当ります。


 「“第九” によって交響曲の形式を破壊した」…はるか以前に、
Beethoven はソナタ形式を破壊してしまっていたのでしょうか?

 たとえ、内的な必然性があったとは言え。

 



        [音源ページ ]  [音源ページ



謎の美女 出現

2014-08-11 00:00:00 | その他の音楽記事

08/11          謎の美女 出現




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                 謎の美女 出現
                規律違反の癒し?
                  美女の素姓?
                  喪服の美女
                 暴走 Viola 集団
                  俯瞰検閲集団


 

 今回は、まず音源をお聞きいただきます。 最初の音量
大きいので、ご注意ください。

 

 「音量が大きいのは当然だよ。 だってあの有名な交響曲
じゃないか! 作曲者は同じだけどね。 ところで弦楽四重奏
『ラズモーフスキィ』第1番の話は、もう終わったの?」

 いえいえ、今回もちゃんと最後に出て来ます。 しばらく、
この交響曲の話題にお付き合いください。


 それにしても、表現の幅が広いですね。 全オーケストラの
ff で始まった音楽は、緊迫の度を深め、破局を迎えて中断
します。 それを癒すかのように現われたのは、オーボエを
中心とする美しいテーマです。 木管と弦によるは、この
後もしばらく続きます。

 これをスコアで見たのが次の譜例です。 オーボエのライン
目ですね。 細かく見ていただく必要は、まったくあり
ません。 音の上下の動きだけ、ただ漠然と眺めてください。

 [同じ音源です。 ソナタ形式で書かれた第Ⅰ楽章で、
その展開部に当る部分です。



 さて、今回この部分を取り上げたのには、わけがあります。
私は先ほど “美しいテーマ” と書いてしまいましたが、果たし
てその表現が正しいかどうか…。

 なぜなら、これは第一主題でも第二主題でもないからです。
おまけ展開部の、それも後半になって初めて登場した旋律
なのです。


 新しいテーマが展開部で登場? 実はこれ、しばしば
物議を醸す場所です。 この美しいメロディーは “ソナタ
形式” の観点からは、どう位置付けられるのか? 極端
場合は、次のような記述さえ見かけます。

 「これは展開部になって現われた、第三主題なのである。
Beethoven は後に “第九” で、交響曲の形式を破壊した
とも言えるのだから、ここではソナタ形式の論理を無視し
と考えても不思議は無い。」


 事の真偽は別として、展開部は本来 “主題を登場させる”
場所ではありません。 提示部で現われた主題を、通常は
分解し、モティーフ同士を反復、多用、対立させる部分です。
単純な遊戯から、深遠な思索に至るまで、その次元は多様
で、作曲家の腕の見せ所とも言えるのが、この展開部です。

 果たして Beethoven は、その厳格な “形式の論理” を
無視してまで、女性的な “癒しの旋律” を、ここで必要と
したのでしょうか?



 

 『ラズモーフスキィ』第1番に戻りましょう。 実はそこでも
同じような事例が見られます。 やはりソナタ形式第Ⅰ
楽章で、展開部の後半です。

 演奏例の音源]は、これが Vn.Ⅰに現われる部分から
始まります。



 Beethoven がここでも登場させている、新しい “テーマ”。
以下にご覧いただく譜例は、いずれもチェロによる第一
主題、第二主題ですが、類似性は見られません。


 

 

 

 第3交響曲の完成は1804年、『ラズモーフスキィ』シリーズは
1806年に出版されており、いずれも “構成を重んじるとされる
中期” の作品です。 作曲時期は 34~36歳の年に当ります。


 「“第九” によって交響曲の形式を破壊した」…はるか以前に、
Beethoven はソナタ形式を破壊してしまっていたのでしょうか?

 たとえ、内的な必然性があったとは言え。

 



        [音源ページ ]  [音源ページ