MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

喪服の美女

2014-08-14 00:00:00 | その他の音楽記事

08/14          喪服の美女



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 「なぜコーダになってから、わざわざ手がかりを残したの
か? 私の “意図” の本質は、まだ別の所にあるからさ。」 

 “別の所”…ですって? 第Ⅰ楽章はソナタ形式だから、
提示部、展開部、再現部、コーダで終わりでしょ?


 「解らんなら、別に構わんよ。 もう帰るぞ。」

 ちょっと、もう少しだけお願いします! “謎の美女” 
現われたのは、展開部とコーダだけでしたよ。 何度も
見たけど。

 「ハハ、お前の目は節穴か!」


 それに、客だって待たせてあるんです。 ほら、ご存じ
でしょ? ラズモーフスキィさんですよ。

 「ほう、閣下は、こんなところにも顔を出すのか。」

 散々お世話になったんでしょ? 先生だって。 それ
なのに、敵方のナポレオンさんに肩入れなんかしちゃ、
駄目じゃないですか。


 「…肩入れだと? そんなことは、しておらんぞ。 この
交響曲の表紙だって…。」

 …破り捨てた…とおっしゃりたいんでしょ? ところがご覧
のとおり、ちゃんとスコア本体と一緒のまま、今でも残って
いるんですよ。 ナポレオンの名前は消してあるけどね。

 「…何だと? そんな画像が見られるのか……。」


 “ナポレオンとの訣別” は、単なるポーズだ…っていう説
さえあるんです。 駄目じゃないですか、ラズモーフスキィ
さんに言っちゃいますよ。

 「…やかましいぞ! “美女” の正体が見たけりゃ、自分
で探せ…。 …じゃ、またな…。」


 しまった、行っちゃったね。 ちょっと怒らせちゃったかな。

 



 弦楽四重奏曲『ラズモーフスキィ』第1番でも、謎のテーマが
展開部で出て来ました。 交響曲第3番と同じ、第Ⅰ楽章です。

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 よく見ると、これは第一主題のモティーフから出来ています。 


 は同じですが、は、向きが逆になっていますね。 リズム
や、現われる順序も異なるので、ちょっと聞いただけでは類似性
気付きせん。 「まったく関連の無い新しい主題が、展開部
現われた」…としか感じられないのです。


 しかし交響曲になると、仕掛けがさらに大がかりです。 コーダ
前半では、“謎の美女の歌” が “再現” していますが、そこで
半音で動く3音符が、前後を取り囲んでいました。

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 音源は、その後、コーダの後半部から始まります。 

 

 

 [譜例]は、その11小節目からの様子です。



 “美女” に着き纏っていた “半音の3音符” は、ここでは
もはや聞かれません。 代わりに “上昇する3音符” が、
音階の形で頻出します。

 これは Violin から木管、やがて低弦へと波及しますが、
まるでオーケストラ全体が喜びの声を挙げているようです。


 同じ音源は、そのまま第Ⅱ楽章の葬送行進曲へと続きます。


 呻くような弦の pp。 そして聞こえて来るのは、オーボエ。
今回おなじみの楽器です。 この音域で “嘆き” を聞かせる
木管といえば、オーボエしかありません。


 下の[譜例]は、第Ⅰ楽章の “謎の美女” です。

 これもオーボエですが、展開部ではホ短調、コーダではヘ短調
登場していました。 共に無理の無い音域で、吹きやすい。

 …というのは、すべて受け売りで、友人の優れたオーボエ奏者、
Sさんからの裏情報です。 私が書いたら “オーボラ” になって
しまいます。



 

 ご覧のとおり、上の二つの譜例には共通点が多すぎます。
音程だけでなく、リズムにも。 謎の美女は、やがて喪服を
着ることになったのです。

 そういえば第Ⅰ楽章では、“半音の3音符” が、美女の
前後に着き纏っていました。 テーマそのものだけでなく。
これは、不吉な予兆だったのでしょうか。


 第Ⅲ楽章以後にも、美女は現われます。 しかしその印象
は “断片的” であり、おまけに長調なので、悲しみや深刻さ
などは、まるで感じられない。

 しかしどの楽章でも、関連するモティーフを最初に登場
させるのは、いつもオーボエなのです。 第Ⅲ、第Ⅳ楽章
では “喜びへの変容” さえ思わせますが、とても偶然とは
考えられない。

 すべては作曲者が設計したものですが、この楽器への
強い思い入れを感じるのです。


 次の[譜例]は、第Ⅲ楽章の冒頭です。


 そして第Ⅳ楽章。 主題に続く、第3変奏の一部です。

 

 ご覧のとおり、使われているモティーフは、ごく一部に過ぎません。



 第3交響曲の設計に組み込まれたのは、オーボエの大活躍
でした。 第Ⅰ楽章の “謎の美女” は、やがて “喪服の美女
となり、さらに変身していきます。

 驚くのは、全楽章に亘る、作曲者の緻密な設計です。


 しかしこれは、全曲の構想の一部でしかありません。

 今回頻繁に取り上げたのは、半音の3音符でした。 それは、
上下に往復する形です。


 しかし、その往復は半音に限らず、他に全音、三度、四度、
五度、六度、さらには分散和音など、多彩な形が見られます。

 音符の数も、3つとは限りません。


 Beethoven は、往復する音程関係を駆使することを主眼
にしつつ、この交響曲を作ろうとしたのではないか?

 これについては、また別の機会に触れたいと思います。

 


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