09/01 俯瞰検閲集団
これまでの 『その他の音楽記事』
謎の美女 出現
規律違反の癒し?
美女の素姓?
喪服の美女
暴走 Viola 集団
俯瞰検閲集団
[音源]は前回と同じで、[譜例]の9小節ほど前から始まります。
↑
問題の箇所です。
[私が弾いていた]そのオーケストラは、アマチュア オケで
はありません。 にもかかわらず、パートの全員が走っていた
とは…。 もちろん私も一緒でした。
実は、お聴きいただいた、上の[音源]でも、同じことが起き
ているのですが、お気付きになったでしょうか?
pp で、音が小さいこともあり、聞こえにくい。 でも、Viola
のこの4小節間を、厳格に判定してください。
直前と同じテンポを、正確にキープしながら。 デスクを指
で叩くなどして、聞こえてくる Viola の音には、決して惑わされ
ないように! “聴くだけ” より、身体の一部でも動かすほう
が、テンポ感は正確だろうと思われます。
すると、ごく僅かだが急いでいる。 ♩音符にして “1つ半”
ほど早く、続くチェロ、コントラバスが入って来るのですが、
お解りでしょうか。 これ、フルトヴェングラー指揮、ヴィーン
フィルの、名盤とされている演奏です。
また、このページ末にもありますが、[音源ページ ②]
から、他の演奏を聴いてみてください。 どれも♩音符
“半個”~“2個” 分ほど急いでいます。
私の弾いていたオケだけではなかった…。 名盤を含む
どの演奏でも、“急ぎやすい箇所” である。 そう言うこと
が出来そうです。
「まさか、そんなことがあるのかね?」
名演奏に親しんでいる皆さんは、疑問に思われるかも
しれませんね。 でも、あるんです、残念ながら。
「じゃあ、どうして辻褄が合っているんだ?」
…強いて言えば、急いでいた Viola に【皆が合わせて
くれている】からです。 指揮者も、低弦セクションも。
「そんな演奏で金を取っているのか? お前たちは。」
……はい、そうなんです。 申しわけありません。
一つだけ言い訳をすれば、【先立つ音をよく聴いてから
入る】というのが不文律なんです。 アンサンブルの世界
では。 俗な表現だと、『長いものには巻かれろ』…です
よね? 事を荒立てるよりは、穏便に解決を…。
「でも、それでは、いい音楽は生まれないだろう!」
そうなんです! だからこそコントラバスの N君が、
私にそっと耳打ちしてくれたんですよね。 とにかく私
は、さっそく正確なテンポで弾くよう心掛けました。
「そんな自信があるのかい? 自分もいい加減だった
くせに。」
はい、ですから、直前と同じテンポを強く意識し、同時
に指揮者の身動きに注意しながら、彼の手の運動範囲
を[逸脱しないように]、自分なりに正確に弾きました。
「他の Viola のメンバーには事前に伝えたのか?」
そんな暇なんか、ありません。 だから、結果は当然…。
「お前がアンサンブルを掻き乱した…形になった
んだろう? 問題児め! いつも吊し上げを食って
いたんじゃないのか?」
いいんです、“異端児や?” と呼ぶ人もいましたから。
「……。」
N君が指摘してくれたとき、[コントラバス全員がうなづき
ながら、私の顔を見た]…と書きました。
考えてみれば、当然のことです。 彼らは、私たちの後に
続いて正確に弾き始め、正確なテンポで刻む義務がある。
それなのに、先行するパートが走っていては、ただ辻褄を
合わせるだけ。 確固とした音など出せません。
もしアンサンブルが乱れれば…。 続く Violin たちにも
影響する恐れがある。 ここは音楽的にも大事な場所で、
楽章の冒頭と同じ雰囲気を作り出す必要があるんです。
事は、[ただ Viola が急ぐ]だけの問題ではなかった。
オーケストラ全体にとって、また Beethoven の音楽に
とっても、かなり重要な箇所だということになります。
さて、先ほど『長いものには巻かれろ』…と書きましたが、
これでは、フルトヴェングラーに対して失礼ですね。 実は
名指揮者といえども、[オケに乗る]…姿勢が大事なんです。
…任せるべきところは任せ、自分がリードするべき箇所は
アクセルを踏む。 だから、たまにはこういうこともあります。
でも ヴィーン フィルを含め、“世界的に急ぐ傾向がある
場所”…ということになると、ちょっと気になりますね。
貴方は、オーケストラ演奏を経験し、この曲を弾かれた
ことがありますか? では、この箇所、いかがでしたか?
ひょっとすると、そのときも…。
同じ Beethoven の第7交響曲…。 第Ⅰ楽章には、あの
“ターッタ タ、ターッタ タ” という、6/8拍子のリズムが出て
きます。 これ、とても難しい。 “タッタ タ、タッタ タ”…と、
2拍子系になりやすいのです。 学生オケ時代の指揮者
H先生は、「世界的な難所だ。」…と言っておられました。
今回は、“難所”…とまでは言えません。 目立たないし、
二度限りのことですから。 繰り返しがあるので。
でも、[どこでも、誰でも]…ということになると、何か共通
の原因がありそうですね。 技術的に!
深入りは避けますが、重要と思われる順に見てみると…。
(1) これが Viola の最低弦、C線上の音であること。
弦楽器では、弓と弦の角度が重要で、とりあえず “直角”
が基本です。 これを外れると、発音の効率が悪くなり、
色々不都合な事が起こる。
今回のスピカート奏法も、その一例で、低弦に向かうほど、
一般的に “角度のロス” が大きくなります。 するとしっかり
発音できず、必然的に急いでしまう。 急いでも自覚が無い。
【感覚がテンポ感】だから。 関連記事 『破綻を好むダークマター』
(逆に、チェロ、コントラバスでは、高弦方向です。)
(2) 音量が pp であること。
これには色々な意味があります。 演奏者は弓幅を少なく
してしまいがちなので、急ぎやすい。 [音量が小さい]のと、
[発音がボケている]のとは、まったく別の問題なのです。
また指揮者や周囲の演奏者は、親切心を発揮しながら
小さな音に聴き入り、たとえそれが狂っていても、合わせ
てしまう傾向があります。 アンサンブルに携わる人間の、
悲しき性 (さが) として。
(3) 3拍子であること。
指揮者が “一つ” 振る中に、音符が “3つ” ある。 2拍子より
1つ多いだけですが、心理的には、それを[余計な音符だ]…と
感じてしまいやすい。 奇数拍子はアンバランスな拍子なのです。
したがって、[3拍目なんか、無ければいいのに…]という願望が
無意識的に働く。 オケになると、“集合的無意識” ならぬ、“集団
的無意識” でしょうか。 とにかく、一斉に同調しやすいのです。
Viola のズレなどには気付かずに。
さてプロのオケは、“名曲” を年がら年中演奏している。
この『英雄』もそうでしょう。
余談ですが、この箇所に関しては、以後 Viola の全員
が気をつけるようになった。 それだけでなく、別の曲の
同じような場所でも! “長いものに巻かれず”、率直に
指摘してくれた N君のお蔭です。
そしてこの事件以後、コントラバス パートの仲間には、
私はいっそう頭が上がらなくなりました。 「同じパートの
人間より、コントラバスの仲間たちに負う部分のほうが、
残念ながら多かった…。」 …私の微々たる成長を思い
返してみると、残念ながら確信を持って言えることなの
です。
(本当は、私が Viola の仲間に迷惑をかけすぎた
問題児だったからですが。)
ともかくこの一件は、以後私にとって、大変重要な意味
を持つことになりました。 今日に至るまでです。
アンサンブル、スピカート、弦と弓の角度、奏法一般…。
私と同年代の N君? よく一緒に麻雀、やったよね?
練習帰りに。 そう、U君もいたよな。 テンパルと、煙草
くわえながら手が震えてた…。
今でもよく覚えているのはね、その店のラジオ中継だよ。
プロ野球のデー ゲーム。 今は監督同士だけど、中日の
星野仙一投手から、原辰徳選手がホーム ランを打った!
キミは巨人ファンだったよね。
最近は賀状の交換も途切れてるけど、今どうしてる?
あのときは、本当にありがとう。