MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

美女の素姓?

2014-08-13 00:00:00 | その他の音楽記事

08/13          美女の素姓?




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 展開部で唐突に現われた、謎の美女! そのときは、素性が
まるで不明でした。 ところが再び登場したコーダでは、多少の
手がかりを残していきました。

 曲は Beethoven の第3交響曲、その第Ⅰ楽章です。

 

 下にあるのは、そのときの音源と、9小節目以降の[譜例
です。 音量大きいのでご注意ください。

 

 手がかりと思われるのは、Violin が繰り返す3つの音符
した。 これが、やがてオーボエを中心とした美しいメロディー
に、徐々に移行していくように書かれているのです。

 同じ “手がかり” は、2つの Violin パートで繰り返されます。
それは、美女が消えた後のことです。




 この3音符は、すべて半音で下がり、上がる形ですね。 これ
は何に由来するのか? 主題の中のモティーフなのでしょうか。

 しかし、それを探し求めて提示部を見ても、直接の手がかりは
ありません…。 私の目に留まったのは、次のような箇所でした。


 まずは新しい音源と、小さくて見にくい[譜例です。 後に
“塗り絵” 入りの[譜例]があるので、ここでは漠然と眺める程度
で構いません。

 ここは提示部ですから、もちろん “謎の美女” は現われません。


 


 

 次は同じ音源と、“” 付きの[譜例]です。

 まず、力強い第一主題を受けて、オーボエが優しく歌います。

                                     


 先ほどのコーダでは、3音符半音で動いていました。 しかし
ここで主流となっている3音符は、まず上へ動き、それから下がり
ます。 それに半音だけとは限らず、全音の場合もあります。

 「ここでは、まだ早い。 手がかりを残したくないのさ。」

 作曲者の、そんな声が聞えてきそうです。


 “美女” の由来を示すものが、もう一つありました。 それ
はオーボエの 優しいモティーフ” です。

 下降音階ですが、それを受けるクラリネットやフルートの
場合は音階だけでなく、跳躍する音程も含まれています。

 オーボエは絶えず他をリードする立場を与えられている
だけでなく、その扱いも特別なようです。


 さて、私たちは上行音階を作ってみましょう。 同じリズムで!
すると、次のようになります。

 [譜例]と音源は、“美女” が初めて登場した際のものです。


 



 素性を隠して、展開部で登場した “美女”…。 使われている
2つのモティーフは、いずれも上下の向きが逆になっているの
で、たとえどんなに鋭い聴き手でも、それとは見破れないように
書かれていました。

 ところが前回もお読みいただいたとおり、その後のコーダで
は、Beethoven は敢えて手がかりを残しています。 これには
どういう意図があるのでしょうか?


 「展開部で新しい主題を作ってはいけない…だと!? そんな
規則が、一体どこにあるのかね。 私が用いたのは、既存の
モティーフだけではないか! それを組み合わせて、何が悪い
のかね。」

 …ですから、Beethoven 先生。 手がかりを置くなら、最初
に美女を登場させたときにしてくださいよ。 聴き手にとって
は、そのほうが親切でしょう…?


 「お前は馬鹿じゃのう。 それでは面白みが無いではないか!
批評家どもは騒ぐに決まっておるだろう。 〔あいつは規則違反
を犯した! 形式破壊した!〕…とな。 私は、ちゃんと規則に
従っているぞ。 私ほど規則に忠実な、古典的な作曲家はおら
ぬのに…。 それが看破できぬ輩どものために、私はわざわざ
種証しをしておいたのだ。 コーダの中でな。」

 …ははぁ、なるほどね。 でも一体なぜ、そんな物議を醸すよう
なことを、敢えてなさったんですか? それじゃ、反対派に口実を
与えるだけじゃないですか!?


 「それは、私の内的必然性が要求したからなのだ。 仕方
が無いであろう。 お前は先ほど、私の意図が理解できない
…と言ったな。 なぜコーダになってから、わざわざ手がかり
を残したのか。 私の “意図” の本質は、まだまだ別の所に
あるのだ。」

 “別の所”…ですって? 第Ⅰ楽章はソナタ形式だから、
提示部、展開部、再現部、コーダで終わりでしょ?



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