MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

30年の回り道

2014-12-07 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/07       30年の回り道




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

             関連記事 

          ハンカチが落ちましたよ
           演奏者か、製作者か?
              30年の回り道
             優先事項は貴方が
            不必要だった必要悪
            見送られた欠陥商品
           演奏者か、モルモットか?


  

 30年に亘る “顎当て作り” が始まりました…。

 期間はおよそ 1978~2007年に亘りますが、その間
絶えず作り続けていたわけではない。 あるタイプの
ものが出来上がると、それを Violin や 数々の Viola
取り付け、弾きながら感触や音の変化を把握する。


 同時に、【手や頸、胴体がどういう動きを欲しているか】
を感知しながら、奏法の改善に役立てる…というプロセス
の連続です。 もし、〔顎の動きにとって邪魔だ〕と判断す
れば、その部分を削りながら、微調整を続けます。

 数日後に次のタイプの試作を始めることもあれば、同じ
ものをそのまま数年間、使い続けることもありました。



 自分で試作を始めるきっかけとなったのは、次の幾つかの
現象に気付いたからです。 これは前回も触れましたね。

 着眼点は “身体の運動に及ぼす影響” であり、“楽器本体
の振動” との関連ではありません。


 (1) 同じ顎当てでも、取り付け位置をずらすだけで、弾き
  易くも弾きにくくもなる。

 (2) 楽器も顎当ても、厚いより薄いほうが、身体には楽だ。


 そして、もう一つありました。

 (3) 演奏中に顎が「動きたい」と言っている…のが、
  次第によく聞えるようになった。

 これについては、若干説明が必要でしょう。

 



 Violin 型の楽器は、ある意味で特殊な楽器です。
〔左手で楽器を持ちながら、同時にその手を動か
して演奏する〕…弦楽器だからです。

 チェロ型の楽器は、大きいながら、床の上に置い
たり、膝に挟んで引くことが出来るのですが…。


 打楽器は多種多様なので別として、木管、金管楽器
は、もちろん楽器を腕で支えてはいます。

 しかし全体を動かすわけではなく、基本的には指
音程を操作すればいい。 スライド楽器のトロムボーン
さえ、片手の動きだけで済みます。



 ところが Violin 型では、左手が “一人二役” を
演じなければなりません。

 その奏法は、基本的大きく二つに分かれます。


 (A) 楽器を保持する負担を左手に強いることは、極力
  避けるべきなので、基本的に顎の力で挟む。 それ
  だけ楽器を支持できなければならない。

 (B) 左手への負担は最小限にしなければならない
  が、顎はフリーであるべきだ。 顎を固定すれば、
  その不自由さは、腕を始め、全身に波及する。
   顎を含め、身体全体が緊張から解放されるよう、
  運動に無駄のない、効率的な奏法を試みるべきだ。


 奏法が最初から左右に分れてしまうので、両者の
融和は今日難しいようです。 ちなみに私自身は
どちらのタイプか、お解りになりますね?

 「顎が動きたい」…と言っているのですから、もちろん
(B) です。


 そして、この “顎の動き” に大きく影響してくるのが、顎当て
形状なのです。

 (a) 顎当てに凹凸があれば、顎の力で楽器を固定し易い。

 (b) 平らに近ければ、顎は自由に動き易い。



 写真の左は、既製品を切断し、削ったものです。
まだ凹凸が残っていますね。 この “出っ張り” が、
私には痛いのです! 一見、親切そうな形ですが。

 右は、私が最後 (2007年) に試作したものです。
Viola 用なので金具の間隔を一杯に拡げてありますが、
本体の薄さと形状に注目してください。 〔顎で楽器を
支えていない〕ので、力はほとんどかからないのです。

   



 裏返すと、こんな具合です。

 なお今日では、私は顎当ても肩当ても使っていません。


   

 



 顎当てを初めて考案し、用いたのは、Beethoven の
同時代人で若干後輩の、シュポア (1784~1859) だ
と言われています。

           関連記事 演奏の現場

 

 取り付け位置は、たぶんテール-ピース (緒止め) の左側
だったでしょう。 それまでの時代は顎当てを用いていな
かったので、楽器のニスが汗で剥げたりしていました。

 そして…! 今日まで残っている当時の楽器には、テール
-ピースの右側が白くなっているものが珍しくありません。


 これは、何を意味するか? 〔楽器は左手で持つから、
顎当ても楽器の左に着ければいい〕…とは、必ずしも言え
ないことになります。

 これは遠大な問題なので、今回は軽々しく結論を下す
ことは控えます。 “左右” の選択を “一次元” とすれば、
“三次元” で解決すべき問題だからです。



 さて、現代でバロック-ヴァイオリンの大家といえば、
Enrico Onofriがおられます。 たびたび来日して
いるので、ご存じのかたも多いでしょう。

 ご覧のとおり、白いスカーフを頸に巻いている写真
が多い。 ファッショナブルですね!?


 ところが、単なるファッションではない。 彼がステージ
登場する際は、スカーフは楽器からぶら下がっている
楽器の表板と、テール-ピースの間に通してあるのです。

 そして聴衆に一礼すると、そのスカーフをグルグルグル
…と頸に巻き、演奏を始める。 彼は顎当ても肩当ても
使っていないのです!


 ファッションと実益を兼ね、素敵ですね? 【何も無し】…
は同じでも、私の場合はスカーフは似合いません。

 100円ショップで購入した “女性用ヘア-ゴム極太” なる
ものを使っています。 表板にも裏板にも、極力触れない
ように…。


 私がこの形を始めたのは、2008年の1月5日です。

 年末に就寝中、解決法を連夜悩み続けた末、閃いて!
ショップの年頭の開業日を待ち焦がれ、入手した後に。

 Onofuri 氏のスタイルを知ったのは、その年の12月に
なってからでした。



 何にせよ、せっかく始めた “顎当ての試作”
が、すべて【無駄だった!】ことが解りました。

 泥臭い “ヘア-ゴム” スタイルを始めるまで、
実に30年もかかったことになります。

 

             関連記事

 頭の体操 (106) 漢字クイズ 問題/解答 より

           (11) トーマス君



最新の画像もっと見る

コメントを投稿