MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

見送られた欠陥商品

2014-12-10 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/10     見送られた欠陥商品




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 〔平成2年実用新案公報第799号読みました〕

 こんなメールが私に舞い込みました。 2009年
(平成21年)10月のことで、以下は本文の一部です。


M 様

 先日はありがとうございました。
 
 貴方の出願された実用新案を検索しました。
直ぐに検索できませんでしたが、それもその筈、

ずっと「肩当て」をサーチしていました。
「アゴ当て」の考案だったのですね。

 考案の構成(請求の範囲に記載されている構成)は

もとより、詳細な説明の記載が興味深いです。
特許庁の弦楽サークルの皆にこの公報を紹介しよう

と思っています。

 この時期はちょうど私が別の部署にいたときです。
在籍していれば、間違いなく私の担当だったのです

が、そうであれば、早く読めた筈です。

 アゴ当ての特許出願はほとんど無いのが現状で、
したがってアゴ当てを仕事でサーチしたことがなく、
M さんの公報を見た記憶がありません。
 (肩当の出願は今でもたまにあるのですが。)

 私の考え方とは違う観点で考えられており、
こういう見方があったということが、今更ながら
新鮮に感じられます。  私の研究、というより
単なる工作ですが、違う方向でも考えてみたい
と思っています。

 報告かたがた、まずはお礼まで。
今後もよろしくお願いいたします。   I

 



 I さんはアンサンブル仲間で、当時は知りあったばかり。
特許庁にお勤めなので、かつて私が登録した顎当ての
について、ちょっとお耳に入れたわけです。

 「1990年のことだから、もうかれこれ20年か……。」
部屋一杯に散乱した工具や材料…。 私は当時を思い
起こしていました。

 登録の直後、何件か商品化の引き合いがありましたが、
結局すべて見送りました。 登録したはいいが、実際は
内容が不完全であることに、そのうち気付いたからです。


 もし商品化されていたら、最近登場した製品に似たもの
が出来ていたかもしれませんよ。 すでに20年以上前に。

 それは、ご覧いただく顎当ての中の、どのタイプの製品
と思われますか?


 答は…。 手前 (演奏者側)せり出したタイプ
ものです。 厚みや形状には差がありますが、
何通りかありますね。

 


 

 「取り付け位置左右に移動するだけで、音や両腕の
感覚が変化する。」 …これまで何度か記した内容です。

 そして両腕の動きと同時に、前後左右に動く。

    真横 (左右) を “一次元の動き” とすれば、
   縦 (前後) は “二次元の動き” です。


 顎当てが、もし “楽器本体の曲線” 内に納まっていれば、
顎をそれ以上手前に引こうとしても、不可能ですね。


 “顎を引かない姿勢” で楽器を構えると、横からはどう
見えるでしょうか? 顎や頸が前に出るので、必然的に
前傾姿勢になりやすい。 楽器は下がる一方です。

 胴体が前のめりになった状態のまま、腕だけで楽器
を持ち上げようとしても、これでは苦しいばかり。 また
鎖骨や肩などに楽器を載せようとしても、その受け皿
は狭く、使いものになりません。


 …このように、二次元顎当ての “まことしやかな効能”
を並べましたが、これを思い付いた当初きっかけは、
梃子の原理楽器を上げよう〕…という意識でした。

 「顎当てが手前にせり出していれば、顎の力は少なく
ても済むだろう」…と考えたからです。


 (まだ〔力に頼っている〕…ことにお気付きですね?)



 

 しかし出願して間もなく、欠陥があることに気付きました。
顎を手前に引くと、楽器の先端が上がってしまうのです。

 こうすると、弓の重さが駒周辺にかかりやすくなる。
その状態がいつも望ましい…とは限りません。


 また顎骨鎖骨の間の距離は、基本的に “楽器の厚み”
に左右されたままです…。 以下は、私が記した内容です。

 

  「ヘッドアップすれば、この間隔が拡がることになる。 これ
 が一定以上になると、両腕が快適に動いてくれなくなります。
 その限度は?」 

  「結果は、4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、
 もっと顎を引いて楽器を構えていますが!)」

  「この数字は、Violin でさえ、楽器の厚みを下回っています。」

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 もしこのとおりで正しいとすれば、“二次元顎当て” を持って
しても、問題はまったく解決されないことになります。

 顎を下げると、今度は楽器の先端が上がってしまう…。


 たびたびご覧いただいている、私の最終作品 (2007年) です
が、厚みは極限まで薄くなり、凹凸もない。 顎は前後左右に
自由動きます。

 

    

 

 しかし、基本的には何も変わっていない…。 

 出願登録の時点から、17年が経過していました。


 下の写真は、それまでの “労作” の一部。

 左の3つは既製品を切断し、削ったものです。


 針金のように見えるのは、“顎当てのネジ回し”。 自転車
のスポークに手を加えたものです。 取り外しの作業が頻繁
だったので、これには本当に助かりました。

 お世話になった楽器製作者、A さんからのプレゼントです。



 


 

 I 様
 
 先日は大変遠方までお越しくださり、ありがとうございました。
 
 「公報」をお読みになったとのこと、まことにお恥ずかしい限り
です。 今考えても欠陥ばかりで、改めて書類を取り出して見る
気になりません。 出来れば廃棄したいほどです。
 
 今はもちろん私自身の考え方がだいぶ違いますので、もし
あのまま推し進めるとすれば、調節機能が必要です。
 
 ① 奥⇔手前、 ② 上 (厚い) ⇔下 (薄い)
 
 「楽器と体格」の組み合わせは無限ですし…。 これだけで
も品物の構造は複雑になります。 しかも、顎の当たる場所は
固定されてはなりません。 Violin と Viola でも、構え方は
もちろん違います。 同じ人物がです。 もっと正確に言えば、
顎の当たる位置が…ですが。
 
 以上の事柄に考慮を払わず、そこそこのものを作ろうとすれ
ば、少なくとも現在の市販品以上のものは出来るでしょう。
 
 しかし、人間が何百年間も信じてきた形、特に奏法は、新し
いものを前にしても、そう簡単には変わるものではありません。
もしそうならば、中途半端な "まがいモノ" が売れても意味は
ありません。 音楽と商売とは、つくづく両立しないと感じます。
 
 今後ともお気付きの点がありましたら、ご教示いただければ
幸いです。               M



 私はさっそく I さんに返事を書きました。 2009年の10月。
このとき、私はすでに顎当てを使わなくなっていたのです。

 しかし自分の奏法が固まるまで、さらに何年もかかろう
とは、この時点でも想像していませんでした。


 

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