12/11 演奏者か、モルモットか?
これまでの『音楽演奏・体の運動』目録 です。
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顎当てや肩当てを巡る、今回の一連の記事。 そのきっかけ
となったのは、さる SNS の投稿を目にしたからでした。
「子供が顎当てにハンカチなどの布を当てて弾こうとすると、
布が滑ってしまうと言います。」
回答者の一人 Hさんは、丁寧に対策を書き始めます。
まずは、“落ちないような商品” の紹介。
次は、肩当の高さ、位置の調整。
そして、顎当てに力を入れないでも弾ける練習。
ついには、“過激な方法” として、顎当ても外し、
肩当も外してしばらく練習する。
各段階に応じた適切な指摘には、ご本人の体験が
滲み出ている。 特に最後の方法は、誤解や無理解
を恐れず、真剣に書いておられます。
こうなれば、Hさんを一人にしておくわけにはいかない。
以下は、私の回答の一部です。
「〔顎当ての(本来)ある位置に顎を置くべきだ〕…と考えるの
は、確かに自然でしょう。 ただしその位置が、ご本人の体格
と楽器のサイズのバランスを考えた上で【最良の位置である】
という保証は、まったくありません。」
…誰であれ、〔顎をそこに置いて構える〕のが当り前ですよね。
私とて、最初から疑ってかかったわけではありません。
「もし肩当てや顎当てを選ぶなら、別々ではないほうがいい
でしょう。 一概には言えませんが、上下セットで、全体の厚み
を【増す】よりは、【薄く】するようにしながら、顎の位置を検討
されるようお薦めします。」
これも、理論で最初から予想した結論ではありません。 自分
の感覚を信じつつ、長年に亘って試行錯誤を重ねた結果、どう
してもそうとしか思えなくなったからです。
でも、これをお読みになっている貴方だって、おそらく疑って
おられるでしょう。 〔楽器の表や裏に、最低でも数センチの
高さの備品を付け、誰だって弾いているじゃないか! それ
を、何を今さら…。〕
私の記述は続きます。
「解りやすい実験をしてみましょうか。 楽器を構えるつもり
で、左手を上げてください。 そのまま僅かに “ヘッドアップ”
してみましょう。 (顎と鎖骨の間を拡げます。)」
「すると、左手が若干下がってしまうのがお判りでしょう?
有効な “手の長さ” が、この動作だけで減少してしまうから
です。 両腕を自由にするためには、顎は、逆に “引く” 必要
があります。」
そして今回の一連の記事中では、次のようにさえ書いて
しまいました。 顎と鎖骨の間の距離についてです。
【(私の体格では、楽に両腕を動かせる寸法の限度は)
4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、もっと
顎を引いて楽器を構えていますが!) この数字は、Violin
でさえ、楽器の厚みを下回っています。】
〔じゃあ、楽器に穴でも開け、そこに顎を入れて弾いて
いるのか??〕
いいえ、当初は本当に悩みました。 でも今は、顎当て
も肩当ても使わず、このとおりに弾いています。
〔そんなことが出来るわけはないだろう。〕
出来るんです。 この弾き方は、おそらく今後も変わら
ないでしょう。 次の写真をご覧ください。
丈夫なゴム紐を用意してください。 私が使っているのは
“女性用ヘア-ゴム極太”。 100円ショップで入手したもの
を、結んで輪にします。
楽器の側板の上下部分に紐を引っかけ、それを頸の後ろ
に通して、楽器を引き付け、支えています。 頸は、ちょうど
手前の二つの輪の中にあります。
中央のエンド-ピンが頸に当ってしまうので、痛み防止
のために適当なクッションを用意してください。 クッション
の厚みは数センチほどですが、適度に調節します。
厚みが最適だと、私の場合は顎の下半分が、ちょうど
【楽器の表板より下に位置する】ことになります。 左手
も顎も、楽器の保持から解放されます。
肩当てが本来ある部分には、僅かな隙間があります。
しかし楽器は手前に押し付けられているので、落ちる心配
はまったくありません。 演奏に伴い、身体や楽器は微妙
に動くので、この隙間は増減します。
もしこの空間を肩当てで “埋める” と、【身体や楽器
の “最低限の動き” を制約する】ので、却って邪魔です。
私はクッション式の肩当てから、どんどん空気を抜いて
いきました。 厚さは減る一方で、最終的には、肩当て
も使うのを止めました。
これを思い付く前のこと…。 顎当てを使わず、また楽器
を顎で挟まないと、どうしても楽器は不安定でした。
一番困ったのは “ポジションの移動”、特に “シフト-ダウン”
です。 左手が体幹から離れていくので、楽器も一緒に遠く
へ…! 頸から離れてしまうのです。
もし何らかの “顎当て” でこれを解決しようとすると、
大変なことになります。 顎の先端は、“楽器の曲線”
の外側にはみ出ており、なおかつ、楽器の表板より
“低い位置” にあるから! そんな顎当ては、少なく
とも私の技術では製作不可能です。
万一商品化まで企画するとすれば、様々な “寸法調節
機能” が必要になるでしょう。 その上、楽器と顎の位置
関係も、演奏中は微妙に変化すると想定されます。
〔顎で楽器を固定しよう〕とする試み自体が、そもそも
無理だ、無駄だった…ということになります。
2007年の年末…。 〔すべて顎当てで解決できる〕
…と信じて30年間打ち込んできた私は、深刻な壁に
突き当たった。 寝床の中で連夜悩み続けます。
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結論は…。 「〔楽器が体幹から離れる〕のを防ぎさえ
すれば、何とかなる!」
そこで思い付いたのが、この “ゴム紐” だったのです。
しかしそれ以後も、道のりは決して平坦ではありませんでした。
それまで経験したことのない、“身体の新しい動き” が感じられた
ので、これらを把握し、コントロールする必要があったからです。
両手以外にも。
詳細はこの場では描写不可能ですが、何点かを記せば…。
(1) 顎を引くと視線が下向きになるので、楽譜の位置に
新しい工夫が必要になった。
(2) 両手が “低弦用” の構えを取る際、【頸を右に傾ける
ほうが、はるかに楽だ】…と、以前にもまして感じるよう
になった。 (大昔は、まったく逆だと考えていた。)
(3) 両手、特に両肘を体幹に引き付ける意識が強くなった。
(4) 左手のポジション移動の “遠近運動” では、運動の
方向 (軸) を、より強く意識できるようになった。
〔顎を数センチ引くだけで、楽器が楽に弾けるようになる
なら、誰も苦労はしないよ!〕
そうお感じのかたも多いことでしょう。 私自身、以前は
考えもしなかったことですから。 ご自分で感じていただ
かない限り、貴方にも信じられないかもしれません。
〔Violin 型の楽器は難しい。 楽器を構えるだけで、身体には
無理が伴う。 幼少時から始めない限り、一流にはなれない。〕
…その一因は、【顎を引き、脇を締める】ことが許されないよう
な制約があるからではないか? それは楽器の厚み! 顎当て、
肩当てなどの備品も含めて。 私はそう考えるようになりました。
さて、冒頭に記した “SNS” とは、Facebook 中の、
ある掲示版です。 ご存じのとおり、“いいね!” で
賛意を表明できるわけですが、Hさんや私の回答に
“いいね!” をクリックしてくれたかたは、一人もいま
せんでした。 スレッドを立ち上げた投稿者以外には。
予めそれを覚悟しながら書き込みをした私。 その
最後の部分をご覧いただいて、今回の一連の記事を
終りたいと思います。
「顎当てにせよ、肩当てにせよ、“非の打ちどころのない” 製品
は存在しません。 顎当ては “ヘッドアップ” を招き、肩当ては
“左手の大回り” に結び付くからです。 “薄さ” に配慮した顎当て
も、あまり見かけません。 使う以上は、両方とも “必要悪” と
割り切るほうがいいように思われます。」
「私は30年以上この問題と苦闘しており、自ら顎当てを試作
もしました。 しかし現在は顎当ても肩当ても使っていません。
(別の小道具は用いていますが。)」
「なお私はバロック・ヴァイオリンではありません。 普通の
Violin、 Viola ですが、すべてこの形で演奏しています。」
「お子様の良き相談相手として、一緒に頑張ってください。」
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