12/10 見送られた欠陥商品
これまでの『音楽演奏・体の運動』目録 です。
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〔平成2年実用新案公報第799号読みました〕
こんなメールが私に舞い込みました。 2009年
(平成21年)10月のことで、以下は本文の一部です。
M 様
先日はありがとうございました。
貴方の出願された実用新案を検索しました。
直ぐに検索できませんでしたが、それもその筈、
ずっと「肩当て」をサーチしていました。
「アゴ当て」の考案だったのですね。
考案の構成(請求の範囲に記載されている構成)は
もとより、詳細な説明の記載が興味深いです。
特許庁の弦楽サークルの皆にこの公報を紹介しよう
と思っています。
この時期はちょうど私が別の部署にいたときです。
在籍していれば、間違いなく私の担当だったのです
が、そうであれば、早く読めた筈です。
アゴ当ての特許出願はほとんど無いのが現状で、
したがってアゴ当てを仕事でサーチしたことがなく、
M さんの公報を見た記憶がありません。
(肩当の出願は今でもたまにあるのですが。)
私の考え方とは違う観点で考えられており、
こういう見方があったということが、今更ながら
新鮮に感じられます。 私の研究、というより
単なる工作ですが、違う方向でも考えてみたい
と思っています。
報告かたがた、まずはお礼まで。
今後もよろしくお願いいたします。 I
I さんはアンサンブル仲間で、当時は知りあったばかり。
特許庁にお勤めなので、かつて私が登録した顎当ての
件について、ちょっとお耳に入れたわけです。
「1990年のことだから、もうかれこれ20年か……。」
部屋一杯に散乱した工具や材料…。 私は当時を思い
起こしていました。
登録の直後、何件か商品化の引き合いがありましたが、
結局すべて見送りました。 登録したはいいが、実際は
内容が不完全であることに、そのうち気付いたからです。
もし商品化されていたら、最近登場した製品に似たもの
が出来ていたかもしれませんよ。 すでに20年以上前に。
それは、ご覧いただく顎当ての中の、どのタイプの製品
だと思われますか?
答は…。 手前 (演奏者側) にせり出したタイプ
のものです。 厚みや形状には差がありますが、
何通りかありますね。
「取り付け位置を左右に移動するだけで、音や両腕の
感覚が変化する。」 …これまで何度か記した内容です。
そして両腕の動きと同時に、顎も前後左右に動く。
真横 (左右) を “一次元の動き” とすれば、
縦 (前後) は “二次元の動き” です。
顎当てが、もし “楽器本体の曲線” 内に納まっていれば、
顎をそれ以上手前に引こうとしても、不可能ですね。
“顎を引かない姿勢” で楽器を構えると、横からはどう
見えるでしょうか? 顎や頸が前に出るので、必然的に
前傾姿勢になりやすい。 楽器は下がる一方です。
胴体が前のめりになった状態のまま、腕だけで楽器
を持ち上げようとしても、これでは苦しいばかり。 また
鎖骨や肩などに楽器を載せようとしても、その受け皿
は狭く、使いものになりません。
…このように、二次元顎当ての “まことしやかな効能”
を並べましたが、これを思い付いた当初のきっかけは、
〔梃子の原理で楽器を上げよう〕…という意識でした。
「顎当てが手前にせり出していれば、顎の力は少なく
ても済むだろう」…と考えたからです。
(まだ〔力に頼っている〕…ことにお気付きですね?)
しかし出願して間もなく、欠陥があることに気付きました。
顎を手前に引くと、楽器の先端が上がってしまうのです。
こうすると、弓の重さが駒周辺にかかりやすくなる。
その状態がいつも望ましい…とは限りません。
また顎骨と鎖骨の間の距離は、基本的に “楽器の厚み”
に左右されたままです…。 以下は、私が記した内容です。
「ヘッドアップすれば、この間隔が拡がることになる。 これ
が一定以上になると、両腕が快適に動いてくれなくなります。
その限度は?」
「結果は、4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、
もっと顎を引いて楽器を構えていますが!)」
「この数字は、Violin でさえ、楽器の厚みを下回っています。」
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もしこのとおりで正しいとすれば、“二次元顎当て” を持って
しても、問題はまったく解決されないことになります。
顎を下げると、今度は楽器の先端が上がってしまう…。
たびたびご覧いただいている、私の最終作品 (2007年) です
が、厚みは極限まで薄くなり、凹凸もない。 顎は前後左右に
自由に動きます。
しかし、基本的には何も変わっていない…。
出願登録の時点から、17年が経過していました。
下の写真は、それまでの “労作” の一部。
左の3つは既製品を切断し、削ったものです。
針金のように見えるのは、“顎当てのネジ回し”。 自転車
のスポークに手を加えたものです。 取り外しの作業が頻繁
だったので、これには本当に助かりました。
お世話になった楽器製作者、A さんからのプレゼントです。