MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

犯人の足踏み

2012-01-24 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/24 私の音楽仲間 (356) ~ 私の室内楽仲間たち (329)



              犯人の足踏み




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 最初から謎々めいて、恐縮ですが…。



 もし "足踏みフーガ" という言葉を目にしたら、貴方は、
以下のどれを連想されますか?



 ① 作曲家が "フーガ作り" に行き詰っている

 ② パイプオルガンは足も使うので、フーガの演奏では
  手に引けを取らない "足の妙技" を表わす。

 ③ 昔の小学校でよく見られた、"足踏みオルガン" で
  フーガを演奏しようとしている。

 ④ 何人かの合奏でフーガを演奏したいのに、いつも
  誰かが間違うので、演奏が先へ進まない

 ⑤ 止むを得ず、指揮者代わりに、誰かが足を踏み
  鳴らしつつ、フーガを演奏する。



 ちなみに、"足踏みフーガ" なる音楽用語は、私も
聞いたことがないので、正解もありません。




 ハイドンの意欲作に、太陽』四重奏曲集 (作品20) と
呼ばれる、6つの弦楽四重奏曲があります。

 私がこれまで演奏側として接したのは、そのうち Nos.
2、5、6 ですが、いずれも終楽章にフーガがあります。
他の3曲にはありません。 まったく偶然なのですが。



 フーガといえば、"手の込んだ" 作曲技法の筆頭に
挙げられるものです。 作る方も大変なら、演奏する
側も楽ではありません。



 つい最近、その第2番ハ長調を、Violin の T.さん、Viola
Sa.さん、チェロの Y.S.さんとご一緒しました。




 [譜例]は、その第Ⅳ楽章、冒頭の部分です。 "4つの
主題によるフーガ" と記されていますね。 主要テーマが、
各楽器に順番に登場します。

 よく見ると、このテーマの長さは "3小節半" ですが、この
"半" というのが曲者。 色々な問題を引き起こします。

 どのパートがどこで弾き始めるか、こうしてスコアで全体を
眺めれば、その出入りは一目瞭然です。 ところが、演奏者
の目の前にあるのはパート譜。 他のパートの情報は、原則
として書かれていません。







 他パートの動きは、聴いて判断するしかありません。 自分
が音を出していればまだしも、休みの小節が多いパートは、
もう大変! 正確に休符を数えながら待つのは、実は、エラク
神経を消耗する作業なのです。



 「始まったぞ。 Vn.Ⅰには、まず八分休符があって、2拍目
から始まるんだな。 あ、Viola が出た、こちらは5拍目らしい
けど、本当にそれでいいのかな? 数え方が違うんで、調子
狂っちゃうな。 今度はVn.Ⅱだ、これも5拍目かからかな。
ところで、今いくつだ? 休みの5、6…だな? まだ、だいぶ
あるぞ。」

 「おや? 何だか変な音が鳴ってるぞ。 誰かが違うところ
で弾き始めたらしい。 誰だ? 犯人は。 お、もうすぐだぞ。
とにかく自分は出なければ。 9、10。 1,2,3,4 ♪♪…。」



 これは、"チェロ奏者の頭の中が回転する"…様子を想像
したものです。 弾かずに、ただ休みを数えるだけでも、
こんなに神経を遣っているんですね。




 このように、フーガでは出入りが不規則な場合が多いので、
演奏中に事故が起きやすいものです。 早く出てしまったり、
乗り遅れたり。

 一旦そうなってしまうと、全体の響きは滅茶苦茶になります。

 曲が立ち直るためには、誰が、どうすればいいでしょうか…?
しかし通常は、"挽回不可能" です。




 現に、この日も事故が何度か起き、音楽が止まってしまうこと
がありました。 演奏が難しい、大きな原因。 それは、この曲
が 6/8拍子だからです。



 先ほどのチェロさんも、「2拍目で出ないように。 "1,2,3"
…と待ってから、ちゃんと5拍目で出るように!」 かなり
注意していました。

 でも4人もいれば、誰かが勘違いしてしまうことは、決して
珍しくありません。 全体の小節数は、"182" もありますし。



 ちなみに、第5番のフーガは 2/2拍子。 第6番は 4/4拍子で、
やはり同様の事故が起きやすい拍子です。 もし、「6/8 でなく、
3/8拍子」、「4/4でなく、2/4」…だったら、数えるのはずっと簡単
なのですが…。

 でも、そういう拍子のフーガは、あまり見かけませんよね。
「複雑で当り前。」 それが、フーガの相場のようです。

        関連記事 指揮者って、いいな…








 演奏例の音源]は、この第Ⅳ楽章の冒頭です。 同じ部分
を "2回繰り返している" ように聞えますが、実際はその間に、
何分間かの中断があります。



 20秒ほどして、まず音楽が止まってしまいます。 それは、
ある事故が起きたからですが、そこで質問です。

 ① 「犯人は誰でしょうか?」



 再び音楽が冒頭から始まりますが、先ほどには無かった
異音が、お耳に入るでしょう。 それは、皆さんに賛同して
いただいた結果なのですが、

 ② 「一体それは何のことでしょうか?」





              音源サイト




 ↓ この2問の正解









 末尾の問題の正解




 ① 「犯人は誰でしょうか?」



 Vn.Ⅰを弾く私です。 5小節目の後半にある休みの
3拍を数えずに、すぐ6小節目を始めてしまいました。

 このように、「先の音符が簡単だと、すぐ飛び込みやすく」、
「難しいと遅れがちになる」…というのが、誰にも見られる
一般的なクセのようです。




 ② 「先ほどには無かった異音とは、一体何のことでしょうか?」



 各小節の頭で、私が足を踏み鳴らす音です。 1拍目と4拍目
が紛らわしく、事故が起きやすいので、両者を区別するためです。

 犯人の私が担当するのは、まことにおこがましい…。

 でも、これ、正確に刻みつつ、きちんと弾くのは、意外と難しいん
です。 足の動作が、音に影響してもまずいし…。

 なお、自分のために足を動かして数える動作は、通常は控えた
方がよく、私もお薦めできません。