08/23 私の音楽仲間 (416) ~ 私の室内楽仲間たち (389)
指揮者って、いいな…
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
最初から楽譜の話で恐縮です。
もし貴方が弦楽四重奏に関わっておられたら、お手元
の譜面をチェックしてみてください。 『Mozart の弦楽
四重奏曲集 第2巻』 (Edition Peters) はお持ちですか?
最後のほうに、“アダージョとフーガ ハ短調” K546
が収められているはずです。
これは自作を編曲したもので、「弦楽合奏のために
書き換えられた」…と考えられています。 演奏時間は
10分もかかりませんが、曲の印象は、一言で “荘重”
です。
この曲に挑戦したのは、Violin 私、Sa.さん、Viola W.
さん、チェロ Y.Su.さん。
今回の4曲は、すべて W.さんの提案によるものです。
普段はあまり手掛けない小品の中にも、素敵な曲が
あるんですね。 W.さん、ありがとうございました。
フーガを室内楽で演奏するのは、難しい…。 なぜなら、
音符もさることながら、休みの小節数や、休みの拍数を
正確に数えるのが厄介だからです。
一旦 “落っこちて” しまったら、再びアンサンブルに乗る
のは、まず不可能でしょう。 少なくとも数小節間は。
この曲は 4/4拍子なので、まだマシなはずなのですが、
テーマが “常に小節の頭から始まる”…とは限りません。
突然3拍目から聞えてくるので、簡単なはずの「1、2、3
、4」…の勘定が、これに幻惑されてしまうのです。
今回も、途中で “事故” が何度か起きてしまいました。
なお曲によっては、偶数拍や、拍の裏からスタートする
ものまであります。
そこで止むを得ず用いたのが、私の左足。 小節の頭で、
床を踏み鳴らすのです!
もちろん、本番でないからこそ許されることです。
でも、これが意外と難しい…。 かと言って、肝心の “手の
仕事” を間違えるわけにはいかない。
「1拍目を足で叩く」…ためには準備が必要ですね。 その
前の4拍目などで、予め足を床から持ち上げておかねばなり
ません。 しかし、これがときどき “いい加減” になります。
コンマ何秒か遅れたり、全然反応できなかったり…。
そこで尊敬するのは、両手が違う音符のための作業をする
…などは、ごく当然のピアニストさんたち。 そして、両足まで
常に用いるオルガニストさんたちです。
今回ご一緒した仲間たちが褒めてくれたのも、この左足。
立派にお役に立ったからです。
でも、手の仕事のほうは、誰も褒めてくれないの…。 家で
練習したのは、こっちのほうだったのにね。 “音を出さない
作業” を含めたら、少なくとも “演奏時間の10倍” 程度の
準備時間がかかっています。
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指揮者って、いいな…。
[演奏例の音源]は、序奏の最後の6小節間から始まり
ます。 フーガ部分もほとんどがカットされ、最初と最後を
繋げただけです。
相変わらず鑑賞向きではない点、どうかご容赦ください。
例によって、2回ほど通す余裕しかありませんでした。
譜例は、フーガの開始部分です。 チェロ、Viola、Vn.Ⅱ、
Vn.Ⅰの順に、低音から始まりますね。
さて、K546 の基となったのは、“2台のピアノのためのフーガ
ハ短調” K426。 フーガ部分だけの作品です。
ピアノⅡの左手、ピアノⅠの左手、ピアノⅡの右手、ピアノⅠ
の右手…と始まります。 最初の左手の2小節間は、四分音符
3つが (譜例の最初と同様)、やはり “オクターヴ” で書かれて
います。
自筆譜には “1783年12月29日” の署名がありますから、
まもなく28歳を迎えようとする時期に当ります。
ただし出版されたのは、後年になってから。 1790年頃と
考えられるので、“謎の死” の前年になります。
これに “Adagio” を書き加え、“Fuga” 部分を編曲し終えた
のが、1788年6月26日。 作曲 (編曲) の経緯は不明ですが、
その年のうちに出版されています。 「手早くお金になる」…
のを期待してのことだったのかも。
出版したのは、作曲家としても名高い Hoffmeister。 今日
の C. F. Peters社の事業の発端となった、別会社の創業者
です。
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この1788年の主な作品は、まず『三大交響曲』でしょう。
第39番 変ホ長調 K543、第40番 ト短調 K550、第41番
ハ長調 K551 が、矢継ぎ早に生まれています。
ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 『戴冠式』 K537、弦楽
三重奏のための “ディヴェルティメント” 変ホ長調 K563
も、この年の作品です。
参考サイト [痴々庵の部屋] から [アダージョとフーガ ハ短調]
「アインシュタインは、『フーガそのものと同様の重みと
大きさをもつ前奏曲である』と述べている。」…という記述
が、ここでは見られます。 もちろん、新たに作られた序奏
のことです。
音楽は、Adagio、3/4拍子。 時間にして3分ほどですが、
異様な恐ろしさを感じるのは、フーガより、むしろこちらの
部分でしょう。
決然とした “f ” の部分 (①)、これに “揺れるリズムで
応える p” の部分 (②) が、4小節ずつ、まず登場します。
以下、この交代が全部で3回続き、①は常に4小節間。
ところが②の部分は、4小節、10小節、7小節、14小節
…と変転します。
いずれも転調を繰り返しながら、その都度、元のハ短調
などに戻って来ます。 その中には、一瞬 「現代音楽か?」
…と思わせるような “不協和音” さえあるのです。
ひょっとして作曲者の魂は、もうこの世を旅立っていた…?
[弦楽器用 K546 音源サイト]
[2台ピアノ用 K426 音源サイト]