MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

超一流の刺激

2012-01-05 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/05 私の音楽仲間 (350) ~ 私の室内楽仲間たち (323)



               超一流の刺激



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 「偽り無き人間として、神の御前に申し上げます。 ご子息
は、最も偉大な作曲家であられます。 私が直接存じ上げる
中でも、また見聞きした中でも。 趣味は良いし、作曲上の
技量に関しては、実にこれ以上のものはございません。」



 これはハイドンが残した、有名な言葉ですね。

 "最も偉大な作曲家" とは、もちろん、29歳の Mozart。
献呈された6曲の四重奏曲の実演に招かれた際、曲を
聴いて驚き、居合わせた父レオポルトに語ったものです。



 この曲集は、ハイドン セットと呼ばれるもので、Mozart
の大きな転機となった作品集ですね。

        なお先ほどの "ハイドンの言葉" は、この
         解説の[英文サイト]の中の一文の拙訳です。





 この6曲を作る直接の契機となったのは、ハイドンのロシア
四重奏曲集
に刺激を受けたことです。 それはこの場でも、
何度か触れました。



 これはハイドンが、ほぼ10年ぶりに弦楽四重奏曲の分野
に手を染めた "意欲作" だったわけですが、同じことは若き
Mozart にも当てはまります。

 "ヴィーン四重奏曲集" (1773年) と呼ばれる前作からは、
やはり10年近く経ち、まず "ト長調 K387" が出来ました
(1782年)。 これは曲集中の第1曲で、ハイドンを強く意識
したのではないかと思われる部分が、幾つか聞かれます。

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 若き Mozart を刺激した、ハイドンの『ロシア四重奏曲集』。
その中には、先日も登場した、ニ長調 Op.33-6 があります。

 各楽章は、以下のようなものでした。

 ・ Ⅰ : ニ長調、6/8拍子、Vivace assai、
 ・ Ⅱ : ニ短調、4/4拍子、Andante、
 ・ Ⅲ : ニ長調、3/4拍子、SCHERZO、Allegro、
 ・ Ⅳ : ニ長調、2/4拍子、FINALE、Allegretto。



 問題になったのは、その調性で、「ニ長調、ニ短調、ヘ長調
の、3種類しか無い」…と言ってもいいほどでした。

          関連記事 二人のハイドン




 ところで Mozart には、以下のような楽章を持つ弦楽四重奏
曲があります。

 ・ Ⅰ : ニ短調、4/4拍子、Allegro (moderato)、
 ・ Ⅱ : ヘ長調、6/8拍子、Andante、
 ・ Ⅲ : ニ短調、3/4拍子、MENUETTO、Allegretto、
 ・ Ⅳ : ニ短調、6/8拍子、Allegro ma non troppo。



 これは、『ハイドン セット』の第2曲目として置かれている、
ニ短調 K421 です。




 この4つの楽章の中で、もっとも調性の範囲の広いの
は、第楽章でしょう。 ハ短調、ヘ短調、変イ長調など
が聞かれます。 しかし変奏曲であるためか、性格は
穏やかです。



 続く MENUETTO 楽章はニ短調で、ニ長調の TRIO を
伴っています。

 第楽章は、ほとんどがニ短調。 やっと明るいニ長調が
出て来たかと思うと、またもニ短調の主題が、急きたてるよう
なテンポで顔を出します。 やがて全曲は、まるで突き放され
たように終ります。 これも "変奏曲楽章" なのですが。

 この2つの楽章では、ニ短調、ニ長調と徘徊するのを耳に
するだけで、聴く者は、ある種の悲痛さを感じざるを得ない
でしょう。




 また第楽章は、"調性が豊富" なのが通例です。 しかし
ここでは、ちょっとヘ長調が聞かれるだけ。 大半はニ短調の
音楽です。

 しかし、もし作曲者の指定どおりに "前半部分を繰り返す"
と、どうなるでしょうか? すると聴く者はニ短調、ヘ長調、
そしてまた二短調、ヘ長調と、心を揺さぶられるはずです。



 続く展開部では、変ホ長調、イ短調などが登場しますが、
どれも長続きしません。 先ほどの "ニ短調/ヘ長調" の
転換の方が、深く印象に残るでしょう。

 単純ながら、そう書かれているとしか思えないのです。




 曲全体から受ける印象は、以下のようなものでしょうか。

 「ニ短調を巡る、ヘ長調、ニ長調の "調性の行き来"
(Ⅰ、Ⅲ、Ⅳ) が、劇的に聞える。」

 「第Ⅱ楽章は、穏やかな緩衝材。」




 Violin の私、Sa.さん、Viola の S.さん、チェロの Su.さん
が楽しんだ際の、演奏例の音源は、第Ⅰ楽章からのもの
です。



 いきなり "ヘ長調の活発な動き" の部分から始まります。
すぐ "繰り返し" の記号に従い、再び冒頭へ。 またまた
ヘ長調に入ったところで終ります。 ここまで "1分40秒"
ほどです。

 2秒ほどの空白の後に続くのは、またしても冒頭部分で、
"1回目" のときのものです。 テンポとしては、こちらの方
が私は好きです。 弾いているうちに重くなってしまったの
かもしれません。




      [音源ページ ]  [音源ページ



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