MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

?調で登場する主題

2012-01-27 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/27 私の音楽仲間 (357) ~ 私の室内楽仲間たち (330)



            ?調で登場する主題




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 前回に引き続き、ハイドンの太陽』四重奏曲集 (作品20)
から、今回は、第6曲 イ長調です。

 この曲にも、終楽章にフーガがありますが、取り上げるのは、
その第Ⅰ楽章。 型どおりのソナタ形式で作られています。




 古典的なソナタ形式の楽章では、主題の数は2つですね。
またその調性にも、決まりがあります。



 第1番 変ホ長調の、第Ⅰ楽章を見てみましょう。

 2つの主題の調性は、

   提示部 : No.1 変ホ長調、No.2 変ロ長調。

   再現部 : No.1 変ホ長調、No.2 変ホ長調。



 第2番 ハ長調では、

   提示部 : No.1 ハ長調、No.2 ト長調。

   再現部 : No.1 ハ長調、No.2 ハ長調。



 このように長調の楽章では、主調と、属調 (主調がハ長調なら
長調)
の2つで主題が現われ、また再現するのが普通です。

 短調の場合は、少し違います。



 なお、この曲集では、長調、短調が3曲ずつあります。
短調が "多め" ですね。




 今回、Violin の T.さん、Viola の Sa.さん、チェロの
Y.S.さんとご一緒した、第6番はイ長調。



 やはり第Ⅰ楽章はソナタ形式ですから、上の図式は

   提示部 : No.1 イ長調、No.2 ホ長調

   再現部 : No.1 イ長調、No.2 イ長調

になるのが普通の形です。



 ここでも、「一応はそうなっている」…のですが、下線
で示したイ長調の箇所は、まずイ調で始まります。

 下の[譜例]の "130" の箇所です。



 その前の部分は、第一主題に続く流れで、イ長調
です ("125"~)。 内は調性で、"A" はイ長調の
こと。 以下、同様です。







 しかも、調性は定まらず、一旦ト長調 (G) へ転調した
かと思うと ("134")、たった2小節で、またイ短調 (a)
ヘ戻ります。

 そのイ短調は4小節間続き、最後に、やっとイ長調が
現われて終止します。



 以上は、第二主題の再現部での様子でした。

 この主題、提示部ではホ長調であるべきところ、まず鳴るの
はホ調。 紆余曲折を経てから、ホ長調に落着くわけです。




 登場早々にして転調が続く、この第二主題。 "130" に
始まる4小節間では、意外な美しさの連続です。

 このように、予想外の調性で主題が始まるのは、当時
としては珍しいことでしょう。 しかも、当初は調性が安定
しません。



 この『太陽』四重奏曲集に賭けた、ハイドンの実験的な
意気込みが感じられます。




 なお、上に挙げた第1番、第2番では、 調性に関する
限り、第二主題は "ノーマル" です。

 しかしハイドンは、ここでも別の観点から趣向を凝らして
います。 これはまた機会を改めて…。




 演奏例の音源]は、この箇所のものですが、[譜例]では
2小節目 ("125") から始まります。

 [譜例]に続く5小節目、イ長調の終止で終ります。

 ちなみに、最初の3小節 (125~127) は、通常なら2小節
で済むはずの音形ですね。 フレーズ全体も "4小節" では
なく、5小節という "歪んだ形" になっており、その後で第二
主題が現われることになります。








              音源サイト