おやままさおの部屋

阿蘇の大自然の中でゆっくりのんびりセカンドライフ

『黒書院の六兵衛』浅田次郎を読む

2014年09月12日 07時24分54秒 | 読書


いろんな本を読んでいる。最近は古文書を学んでいるので時代小説を多く読む。

最近では葉室麟の『橘花抄』がよかった。黒田藩のお家騒動=政争を人間の情を描きながら非情な政治の裏を丹念に書いていた。じっくりと読めた。

今図書館から借りた本5冊を日限を意識しながら早いスピードで読み進めている但し私は「斜め読み」とか「飛ばし読み」とかは決してしない。

これは作家を冒涜し仕舞うことになると思うから

中上健次の『軽蔑』も同時に読んでいるのだがこれは自前の本なので鈍足。

さて浅田本ばかり3作借りて1作『黒書院の六兵衛』(上下)は読み終えた

描いた事件はたった一つ。明治維新で江戸城明け渡しの際に、天皇がお入りになる前にこの幕末の政変で情勢を見て官軍に寝返った徳川御三家の尾張徳川家からお上入城前の不穏な企みがないかどうか確認と整理に派遣された加倉井隼人が途轍もない人物に遭遇する。

もの言わぬ豪傑が一人、明け渡さなければならない江戸城内にいた。その名が的屋六兵衛、偉丈夫で身なり所作も上級旗本そのおの。この男が城中深い虎の間、 大広間帳台構え、帝艦の間、大廊下上之御部屋、溜間、そして将軍が居場所である黒書院に場所を替えながら居座り続ける。

すでに西郷・勝の会談が終わっており幕府の全権を纏った勝は何としても無血開城をしなければならない。

この六兵衛の説得に多くの「偉人」が関わるのだが全部だめ六兵衛は頑として耳を貸さないどころか無言のまま座り続ける。食事は茶漬けのみ。

主人公の隼人が官軍先駆けとしての自分の役割と心得、説得を続けて行くのだが、頑迷姑息と思えた六兵衛に次第に惹かれていく。

「六兵衛」は実は金で幕臣で名家御書院番士的屋六兵衛に成り代った身元不明の男ということがわかる。しかし実際に六兵衛が誰だったのかは最後まで不明=ミステリーなのだ。

なり代わり六兵衛が3世紀にも亘り政権担当の場所であった江戸城の直臣の精神を全身で表現している。これは謂わば奇跡。先の将軍は上野の謹慎。部下特に上級の武士達はあっという間に雲隠れしている中で・・・

この作品はじんわりと感動が伝わってくる。そして今現在の社会に失われたるもの=こころを六兵衛は具現したのではないかー