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マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

『雪を読む・北越雪譜に沿いながら』

2022-01-20 | book

1月18日は満月だったそうです。

寝床の中で、雪原を煌々と月が照らしている風景を思い浮かべていました。

そしてまた、降りしきる雪で、月も星も見えない夜を想像していました。

でも、雪が珍しい所で育ち暮らしている私の想像は、ひどく貧弱に違いありません。

この本の著者は、日本列島のほぼ半分は雪が降るのに、

雪を知らない人たちが、政治や文化を論じていると書いています。

多くの辞書に、雪国なら誰もが知っている事項についての記載がない、と怒りをこめて書いています。

 

雪が多い年は、一年中の豊かな水が約束されます。

雪が少ないと、田畑の土が深くまで凍てついて、種蒔きが遅れてこまるそうです。

雪国の苦労、酷しさと同時に、雪国の喜びと、雪の面白さ、

雪の恩恵をこの本は伝えています。

小さな本ですが、雪国で育った著者の、雪と雪国への愛に溢れた本です。

2年前位の図書館の整理の際の廃棄本で、

たまたま手に入れました。

『雪を読む/北越雪譜に沿いながら』

高田宏(1932~2015)著

1997年  大巧社 シリーズ「日本を知る」 

 

 

 

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『サピエンス全史』

2022-01-11 | book

『漫画サピエンス全史』(前・2020年11月)(後・2021年11月)全2冊

ユバル・ノア・ハラリ 原案/脚本  河出書房

*************************************************************

「人類の誕生・編」「文明の正体・編」の巻のうち、

「文明の正体」は購入、「人類の誕生」は図書館で借りてきました。

全ページ、カラー漫画、といっても、

内容に添って絵が描かれているという感じで、日本の漫画の感覚とはだいぶ違いますが、

やはり絵や漫画は具体的で、印象が強く、記憶に残ります。

『人類の誕生・編』の大きくて分厚い本を開けると、扉には

《 絶滅し、失われ、忘れられたものたちへ。

集まって形をなしたものは、いずれかならず崩れて塵と消える。

ーユヴァル・ノア・ハラリ 》と書かれています。

人類にも、ネアンデールタール人やデニソワ人やフローレズ人や、何種類もいたのに、

なぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのか、という疑問を、様々な角度から考える章を、興味深く読みました。

コミュニケーション能力を持つ動物はたくさんいますが、

ホモ・サピエンスは、自ら作り上げた虚構を信じることが出来た。

そのことによって、100人1000人10000人が同じ行動をすることが出来るようになった、というのです。

「神」の誕生です。物語を作り、信じさせることが出来たから、古代の都市の建設が可能になり、

中世の教会が生まれ、そして現代の国家へと続いている・・・

章がかわり、狩猟採集民の暮らしとは、どのようなものだったのか、

次の章では、アフリカから、アジア、オーストラリア大陸へ、アメリカ大陸へと進出していく人類・・・

『文明の正体・編』

こちらの「扉」は

《 文明の礎を築いた先人たちへ。そして、未来のためによりよい先人とならねばならない私たちへ。

ーユヴァル・ノア・ハラリ 》

農耕が始まってどうなったか、

差別はどのように始まり、深まっていったか、今も無くならないのはなぜか、

面白おかしい漫画で、鋭く切り込んでいきます。

厚いきれいな紙で、しっかりとした製本(中綴じ)なので何度でも読み返すことが出来るのが嬉しい。

ただし、大きくて重たいので寝ながら読むのは無理でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『地形から見た歴史』

2021-08-12 | book

いつも同じように見える山も、川も、海も、
昔の人が見ていた姿とは違うのかもしれない、とふと気がつくことがあります。
川の流れが変わり、海岸線が変わったり、山の形が変わったり、
意外なほど、どんどん景観は変わっているようです。
土地の沈降、地震や火山の爆発、降雨(洪水)などの様々な自然現象に加え、
人とのかかわりの中で景観は変わっていきます。

この本は、昔の地名、古地図、記紀や万葉集などの古文書を基に、
地層、岩石や土や砂、住居跡などを丹念に調べ、
現在の山の形(標高)や河川の様子、山の植生などと比較研究して、
その場所がどのように変遷してきたかを考え、
生活の場、生産の場、消費の場、などの章にわけて
過去の姿を推理しています。


上の図は(京都府、山城盆地)木津川が何度も氾濫を繰り返した平地で田の位置に比べ畑は高くなっていて、
住居地はさらに高く土を積み上げています。しかも何度もそれを繰り返した跡があり、
今では居住地はまるで島のようになっているそうです。
かつては屋根裏に舟が吊るしてあったそうです。
(今は、河川改修が進み、氾濫の恐れはなくなっているそうです。)
また別の地域(大井川扇状地)では、家の建つ台地が三角形になっていて、
その鋭角の部分が川の氾濫の際の上手になっていて、
そこに、何本も大木が植えられているそうです。


上の図は日本一雨が多いと言われる大台ケ原から流れ出る川が海に注ぐ所、
海岸線の変遷の激しいところだそうです。
図だけではよく分かりませんが、
かつて大きく蛇行していた川が、今は直線的な流れになっていることが分かります。



『 地形から見た歴史 ー古代景観を復元するー 』
 日下雅義 著  
    講談社学術文庫  2014年第8冊(2012年第1冊)
(表紙は6~7世紀ころの摂津・河内・和泉の景観)
























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『ウナギが故郷に帰る時』

2021-06-10 | book
たまにスーパーで売り出しのウナギのかば焼きを、買ってきて、
「うな丼」や「まむし」にして食べます。
(「まむし」→ 白いご飯の間にもウナギを挟んで、
上にも載せて、さらに私は錦糸卵、焼きのりなどを散らして食べます。)
いずれにしても、ウナギには白いご飯がかかせません。
けれど、世界では、ウナギも本当にいろいろな料理方法で食べられています。

この本の作者はパトリック・スヴェンソン、1972年(スウェーデン)生まれです。
父親は、道路工事の労働者、毎日コールタールにまみれ、くたくたになって帰ってくるのですが、
休みになると、夜更けに、小さな息子を連れてウナギの仕掛けをしに川に出かけます。
そして、早朝、また息子を連れて、ウナギがかかっているかどうか見に行きます。
穫れたウナギは、皮をはいで、10センチくらいに切って、
塩コショウで下味をつけ、パン粉をまぶして
バターで焼いたものをよく食べたそうです。


川の対岸は、フィッシングクラブの紳士たちが鮭などをとるための占有地で、
よく整備されていました。
親子は近づくことも出来ませんでした。
こちら側は草が生い茂り、足場は急斜面で、ぬかるんでいます。
父と子は、転ばないように、見つからないように、注意深く降りて、ウナギを捕るのです。
親と子、そして自然の描写が素晴らしくて、ひきこまれます。


世界各地のウナギ漁についても書かれています。
特にスペインのバスク地方のシラス漁や、アイルランドの伝統的なウナギ漁の話は興味深いです。
そこでは、圧制に対する抵抗の歴史とウナギ漁が深くかかわっているのです。初めて知りました。


この本では、同時に、
ウナギの謎に魅せられ、ウナギの研究に生涯をささげた人たちが登場します。
ウナギは、「ある日」「ある海域」で生まれ、透明な体で漂い、やがて、
海流に乗り、何年も、何千キロも旅をして、
辿り着いた岸辺から、今度は川をさかのぼり、そこで何年も暮らし、逞しく育ち、
「ある日突然」今度は海へと向かい、
生まれ故郷の海域に辿り着いて、そこで受精?産卵して、命を終える・・・
ウナギの生涯は凡そそんな感じらしいですが、
ウナギにはまるで時間が存在しないのではないかと思えるようなところがあります。
同じ場所で、同じくらいの大きさで、同じくらいの成熟度でも、
調べてみると、ウナギの年齢は全くバラバラで、
数カ月のもあれば、7~8年のウナギもいるそうです。
寿命もよく分かっていないようです。
また、ウナギの体は、は最終段階に成熟するまでは、卵巣も精巣も存在せず、
成熟した時には今度は、消化器官が消滅するのだそうです。

そこまでのことが分かったのはつい最近のことだそうです。
この本は、ウナギの謎に挑んだ科学者たちの物語
ウナギ漁の歴史、海の環境、
著者の父とのウナギ取りの思い出、などなど、
ウナギにまつわるすべてが、織り込まれて語られます。
生きる意味を問いかける中身の濃い本です。

34か国で翻訳された世界的ベストセラーらしいです。
(なのに、いつも行く図書館になくて、リクエストして遠方の図書館から取り寄せてもらいました。)
日本では「人新生の資本論」がベストセラーになったそうです。
人類はどうなるのだろう?
金もうけばかり追求していったい何になるのだろう?
幸せとは何だろう?などの思いが多くの人の心にあるのだと思います。
時代は哲学を求めています。

『ウナギが故郷に帰る時』
パトリック・スヴェンソン 著
大沢章子 訳
2021年  新潮社
(試し読みあり)







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詩人「竹内浩三」

2021-05-04 | book
5月3日憲法記念日、中日新聞の一面は「詩人・竹内浩三」でした。



竹内浩三は100年前に伊勢に生まれて、
フィリピン・ルソン島で戦死しました。23歳でした。

竹内浩三の少年時代、周りは軍国少年ばかり、
反戦厭戦の「文」や「詩」や「まんが」は、宮沢賢治の本をくりぬいて隠していたそうです。

伊勢の実家は空襲で焼かれ、
姉の所に送られていた詩が残されました。

詩はとてもやさしい言葉で書かれていて、心の中に真っすぐに入ってきます。
若いきらきらした精神を感じます。
楽しいこと面白いことが大好きで、
やりたいことが山ほどあって・・・
そんな青年たちに、鉄砲を持たせ、人殺しに行け、お国のために死んで来い、と命じる国家の何と残酷なことか、

私はこちらへ越してくるまで、この詩人のことを知りませんでした。
図書館や新聞などで、この詩人のことを知り、すぐに2冊の本を購入しました。
その2冊を紹介します。



『骨のうたう ”芸術の子”竹内浩三』
  小林察 著 

  藤原書店  2015

『竹内浩三集』
  竹内浩三 文と絵

  よしだみどり  編
  藤原書店  2006
 (この本は、竹内浩三の詩とたくさんの自筆のマンガで構成されています。)






***********************
骨のうたう

戦死やあわれ
兵隊の死ぬるや あわれ
遠い他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

白い箱にて 他国をながめる
音もなく なんにもなく
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や女のみだしなみが大切で
骨は骨 骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨はききたかった
絶大な愛情のひびきをききたかった
がらがらどんどんと事務と常識が流れ
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった

ああ 戦死やあわれ
兵士の死ぬるや あわれ
こらえきれないさびしさや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

 
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『方言』

2021-04-12 | book
「日本の名随筆、別巻66」『方言』
1996年作品社、清水義範 編

古本屋さんで買った本です。
この「日本の名随筆」のシリーズは、全100巻、
別巻も100巻、計200巻もあるそうです。
この本では、33人の作家の
方言(なまり)に関連する掌編が集められています。

私の両親は共に京都生まれですが、
私自身は、小さい時から、あちこち移動したために、
話し言葉のイントネーションもアクセントも定まらず、
時によって、上げてみたり、下げてみたり・・・
我ながら、どこの言葉?という感じです。

自分はしゃべれないけれど、
それぞれの地方の言葉を聞くのが好きです。
旅の楽しみの一つです。

東京を首都と定め、東京弁を基本にして標準語が作られ、
その過程で、「訛り」がもっている細かな情感やユーモアが失われていきました。
特に学校で、標準語教育が罰則付きで、厳格に行なわれたそうです。

今は、方言もある程度、見直されていますが、
それはかなり危機感がある事の裏返しだと思います。

でも、言葉は生きもの、地方から(特に東京周辺+大阪よしもと)新たな訛りが東京に流れこんでは、
テレビの影響もあって、日本中にすごいスピードで伝播して行きます。

「情感を表す話言葉」とは逆に、話言葉が、細かな情感を生み出すという事もあるのではないか、と思います。
薄っぺらい話言葉は、その言葉に相応しい人間を作る気がします。

名古屋生まれの編者が書いた掌編「金鯱の夢」も載っています。
明治維新で、名古屋が首都になって、名古屋弁が標準語になって、教科書も先生もアナウンサーも名古屋弁で・・・・・
ちらりと皮肉も込められています・・・笑いました。

この本では、井伏鱒二をはじめ33名の物書きによる短文が集められていますが、
東北生まれの人は「渡辺えり子」や「井上ひさし」ら4人だけ、
ちょっと残念。








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『水・空気・食物』300人詩集

2021-03-10 | book
数年前まで、京都でカフェをしていました。
京都の中でも特に観光客の多い場所でした。
その中で、じみーにやっていたのでお客さんは少なかったけれど、
「これから〇〇へ行こうと思うけど、
どうやって行くのが一番早いだろうか?」などの質問をよく受けました。
会計の時に、私の方から「どちらからですか?
どうぞ良い旅を・・・」などの会話を交わすこともありました。
そんなある日、中年の女性の一人旅のようでした。
いつものように「どちらからですか?」
と尋ねたら「福島の浜通りです。」と言われて、
ビックリして言葉に詰まり、何も言えなくて、
何か、ごにょごにょ言ったような気もしますが、
避難してこられた人だったのかもしれない・・・
(まだ多分原発が爆発してから1年も経っていなかったと思います。)
何か言えることがあったのではないか、私にもその時出来ることがあったのではないか、とずーっと考えています。

高層ビルも、地下鉄も、
米や野菜も、魚も肉も・・・
巨大な東京の繁栄は、
ずーっと東北の人たちのおかげだったことがわかりました。
福島(原発のある町)の人たちの暮らしと命を危険にさらして、成り立っていたことがハッキリと見えました。
日本中の人が、そのことを一生懸命考えたら、
もしかして、「どこかを犠牲にする政治」が少しはかわるかもしれない、と思いました。

それなのに
何も学ばず、知らんぷりをして、
自分の利権しか考えない政治家たちが、
積み上げた嘘の山の上に「東京オリンピック」の旗を立てようとしている、
そのおぞましさに吐き気がします。



『水・空気・食物』300人詩集
    子どもたちへ残せるもの
    2014年 コールサック社(コールサック=石炭袋)


宮沢賢治を含めた300人の詩人による未来へ語り継ぐ詩集。
(序章以外は現代の詩人、公募によるものです。)
序章+水の誕生、生命の故郷・海、食の場、子どもたちの命、酒・果実・ティータイム、生物の声、など12の章に別れていますが、
最後の12章は「3.11と私たち」となっています。
読みたい箇所を、読みたい時に読んでいます。










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『13坪の本屋の奇跡』

2021-02-13 | book
町の中にあった小さな本屋さんが次々と消えて行ったのはもうだいぶ前のことになりました。
出版物の流通にも問題がある、ということは聞いていましたが、
アマゾン(通販や電子書籍)のせいだろう、と漠然と思っていました。
まさかこんなにひどい「小さな本屋さん虐め」があるとは知りませんでした。



大手出版業界と取次業界(日販、東販)との「癒着」が、
町の本屋さんを、閉店へとじわじわ追い詰めていったことを、初めて知りました。

書店は本を委託販売する所です。
本の注文からはじまり、1冊の本を売って、その中から僅かな利益を手にするまで、雑多な手間と時間がかかります。
そして、「小さな本屋さん」と「大きな本屋さん」には明らかな差別があります。
小さな書店が、今売れる本をいくら取次店に注文しても送ってもらえない。
その上、注文もしていない古い本や、とんでもない「ヘイト本」が山のように送られてきて、
代金はすぐに払わなくてはならない。(見計い配本)
本を送り返しても、小さな本屋さんへの返金は後になるので(小さな本屋さんにとって、死活問題です。)
売りたくなくても、しょうがなく店頭に積み上げることになる。
本屋さんの店頭に、嫌韓本などが積み上げてある理由はそうだったのか、と驚きました。
日本のどこの場所においてもヘイト(差別言動)が蔓延していった根元に、こんなことがあったとは!
本屋さんが、社会を壊したり、良くしたりする一面もあるのだなと思いました。

この本は大阪の谷町にある「小さな本屋さん」の、
頑張る日々の活動と闘いを、ジャーナリストの木村元彦が取材して書いています。



「隆祥館」の創業当時から、今に至るこの本屋さんの活動を、様々なエピソードを交えて語っています。
現在は、定期的に作家を招いてイベント(ミニ講演会など)も開催しています。
(講演会の内容が収録されています。)



今や本屋さんは電子書籍の普及を待たずに淘汰されようとしています。
取次店を通さずに本を置くというのは「小さな本屋さん」にはとてもハードルが高く、
さらに、取次店を通さなければ雑誌が置けなくなるそうです。

本屋さんは取次店次第、
首根っこを抑えられている、
本屋さんが無くなってしまった理由がよく分かりました。

フランスやドイツには個人書店を守る法律があるそうです。
(詳細は書かれていません。)

『13坪の本屋の奇跡』「闘い、そしてつながる」隆生館書店の70年
  2019   からころ
  木村元彦・著 
  降矢なな・カバー絵









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『古文書返却の旅』

2021-01-18 | book

この本はフィクションではなく、
副題の通り、歴史の一齣に過ぎないのですが、
ダイナミックでロマンティックな一齣です。


『古文書返却の旅・戦後史学史の一齣』
網野善彦(1928-2004) 著
中公新書・1999

戦後すぐに、各地の漁村に残る古文書を集めた文書館を作ろうという計画(水産庁)がたちあげられ、
当時としては破格の予算が付いたそうです。
若き日の網野善彦(まだ古文書も読めなかった、何も知らなかった、と書いている)らも加わり、
日本各地に散って倉などに眠る古文書を集めたそうです。
預かった古文書や、あるいは寄贈された古文書が、
各地からリンゴ箱に詰められ、続々と集まったそうです。(おそらく100万点を超す文書、と著者は書いている。)
しかし、虫食いや湿気で板のように張り付いている文書を竹べらなどで丁寧に剥がし、
あるいは、紐のようになった紙を集めて並べて、解読し、書き写し、目録を作るなどの
作業は気が遠くなるほど大変で、時間がかかるものでした。
やがて返却の約束の時が過ぎ、「どうなっているのか」という問い合わせが相次ぎます。
焦って、整理を進めて返却を急ぎますが、予算は打ち切られ、
膨大な古文書が、複数の大学の倉庫や、個人の家や納屋にまで積み上げられたまま残されました。
さらにすべての計画を構想し、取り仕切っていた主宰者が病気で亡くなってしまいます。

残された研究者たちの中の一人、網野善彦は、何としても、きちんと返却しなければと、
他の仕事の傍ら、文書の整理をこつこつと始めます。
それらの文書を丁寧に読む中で、
自分の思考がいかに観念的であったか気が付いていった、と書いています。
そしてついに、教職を辞し、解読に専念し、マイクロフイルムに記録し、きちんと製本し直した古文書を携え、
網野は、返却とお詫びの旅に出ます。その時、既に20年の月日が経っていました。
辛い旅を予想していた網野は、各地で、叱責どころか、きちんと返してくれたことに安堵し、
さらに、他にも文書があると言って、新たに探して渡してくれたりする人たちに出会います。
寄贈を申し出てくれる人もあり、お詫びと返却の旅は、
多くの善意の心に触れる旅でもあり、新たな知見の旅でした。
網野の誠実な心と行動が、次の舞台へと網野を導いていったのです。

かつて、海岸沿いに(日本海、瀬戸内海、太平洋)活躍していた人々の実相が
古文書やふすまの下張りの中から浮かび上がってきました。
今では小さな漁船が係留されている港に、かつては都市が形成されていたことが分かったり、
ありとあらゆる経済活動(漁業、海賊、金融、海運業・・・など)を行っていただろう
田畑を持たない所謂「水吞百姓」(各地で様々な呼び名がある)の姿も次第に浮かび上がっていきました。
従来の百姓のイメージは覆り、
百姓=農民ではない、ことを網野は明らかにします。

全てを返却し終わった時、当初の計画が立ち上げられてから、45年の月日が過ぎていました。

ふすまの下張りに、文字の練習や日記など私的な記録があり、
正式な文書とは違う、驚くべき事実が明らかになったりすることがあります。
著者らが興奮してそれらに取り組む様子が目に浮かびます。

紙屑にしか見えないような古い文書を大切に保管する人々がいること。
そしてそこから、生き生きとした当時の人々の暮らしを読み取る、網野らの仕事も、全部すごいです。




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『狸の腹鼓』

2021-01-15 | book
「宇江敏勝」は熊野の山奥の生活などを書いた随筆の他に、
小説も書いています。
『宇江敏勝・民族伝奇小説集』と題して、
なんと、73歳から83歳まで毎年1冊刊行、
去年の11月にこの『狸の腹鼓』の10冊目が出て、全10巻が完結しました。
著者自身が見聞きした事、あるいは著者自身の体験をもとに創作した「短編集」です。
最後の一篇は恋物語で、自伝的なものではないかと感じました。
宇江利勝は、どこへ行っても、何をしても、原点がぶれない人だと思いました。
宇江利勝の母親は字が読めなかったそうです。(山奥の義務教育免除地で生まれ育ったため)
その母に、いつか読んでもらいたいと、いつも、カタカナ語は使わず平易な言葉で書いていたそうです。
残念ながらその願いはかなわなかったそうですが。
この本も、瑞々しい読みやすい文章なのでどんどん読めます。
でも、あんまり早く読み終わるのはもったいない、
ゆっくり、山の風景の中に入り込んで、炭の焼ける匂いや、獣の気配や、虫の動きや、
川の流れや、風の音に耳を澄ませながら、読みたい本です。



(目次です)

『狸の腹鼓』

宇江敏勝 著   2020年  新宿書房
<既刊>
①山人伝 ②幽鬼伝 ③鹿笛 ④鬼の哭く山 ⑤黄金色の夜
⑥流れ施餓鬼 ⑦熊野木遣節 ⑧呪い釘 ⑨牛鬼の滝











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