いつも行く図書館の本の入り口付近の展示は毎回工夫が凝らされていて、
テーマに沿った本が、誰もが手に取りやすいような場所に平らに並べて置いてあります。
また児童書のおすすめ本が、大人にも目につく場所に展示してあります。
新しい本とだいぶくたびれた古い本とが混ざっているのもとてもいいと思います。
思わぬ本をそこで見つけることがあります。
今回のテーマは「夏」でした。
そこにこんな本がありました。
お父さんは散髪屋さん、趣味の写真で、家族を撮って、丁寧にアルバムに貼っていました。
空襲を恐れて、郊外に住む兄の所へ大切なものが送られていました。その中に何冊かのアルバムがありました。
この本はその残された写真に沿って作られた本です。
8月6日の朝、瓦礫と炎の中、お兄ちゃんは妹をおぶって逃げました。
兄は辿り着いたところで血を吐いて亡くなりました。
お母さんは家族みんなの死を知ると、井戸に飛び込んで命をたちました。
小学5~6年向きと書いてありますが、むしろ中学・高校生、大人に読んでほしい本です。
核兵器がいかに非人道的なものか写真が伝えています。
(各ページの短い文に英訳がついています。)
『ヒロシマ 消えたかぞく』 写真・鈴木六郎 指田 和/著
ポプラ社 2019年
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私にとって本は、現実世界からの逃避の側面と、
今生きている世界をもっと知りたい、真実を知りたい、というもう一つの側面があります。
本を1冊読み終わるごとに、しばらく頭のなかがぼーっとしてしまいます。
残念ながら、というか幸いなことに、というか、しばらくするとほとんど忘れてしまうので、
また新しい本のページをめくるのです。
ところが、大量の数学や科学や言語学や機械工学などの理論書を記憶し、
理解し証明し新しい理論を構築して論文を書きまくる天才がいるそうです。
この本は天才中の天才と言われる「フォン・ノイマン」の生涯とその思想を振り返り、
ノイマンの哲学に迫るのが目的である、と著者は前書きで書いています。
ノイマンはコンピュータ(ハードとソフト、プログラム内蔵の概念)をはじめ、核ミサイルなど、
現在最先端の兵器の基礎を築いた人物です。
合衆国の国家機密(戦争省など)の様々な仕事をこなしながら、
同時に未来のコンピューター、ロボット、ブラックホールに関する基礎研究を進めていたという超人です。
この本にはノイマン以外にもたくさんの天才たちが登場します。
多くは裕福な家に生まれ、幼児の時から特別の教育を受けています。
初めから、特殊なエリートの世界を歩いています。
彼らの頭の中は凡人には想像もできない世界のようです。
世界を恐怖に陥れることも科学の進歩の側面、あるいは計算の結果であって、
それを突き詰めるべきである、と考える天才たち。
著者は、「ノイマンには目的の為ならどんな非人道兵器でも許されると考える『非人道主義』が根底にある・・・」
と書き、それを虚無主義と表現しています。
核兵器の開発の仕事していた仲間の一人は、ノイマンに「自分たちには何の責任も無い」と言われて気が楽になったそうです。
今も、イスラエルや中国やインドなど・・・世界のどこかでそのような天才が生まれているかもしれないと思うとゾッとします。
アメリカが、効果を知りながら、ノイマンらが作り上げた2種類(ウラン・プルトニウム)の原爆を広島と長崎に落としたことは、
どんな理由があっても、決して許されないことだと思います。
それにしても、と著者は語気を強めて書いています。なぜ日本はもっと早く降伏しなかったのか、と。
日本の軍部や政治家たちは戦後の自分の逃げ道を確保するために時間が必要だったのでしょう。
そのために、戦地はもちろん、空襲で多くの人が焼け死に、沖縄で人々が自決し、ヒロシマやナガサキで数えきれない死が生まれたのです。
『フォン・ノイマンの哲学/人間のフリをした悪魔』
高橋 昌一郎/著
講談社現代新書 2021年
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科学技術の開発はいつも歓迎されています。そして、社会の発展に結びつくと思われています。
でも本当にそうかなと、今つくづく思います。