マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

土偶

2022-09-09 | book

10年位前から盛り上がっている縄文ブームはまだ続いているようです。

各地で関連の展覧会が開かれ、多くの人が訪れているそうです。

土偶のガチャポンもあるそうです。

ちょっとやってみたい!けど、残念ながらこの辺りにはありません。

 

『土偶のリアル』(発見・発掘から 蒐集・国宝誕生まで)という本を読みました。

15000年前という大昔からおよそ2400年前までという、途方もなく長い縄文期に作られた人型の土器を土偶と呼ぶそうです。

創られた時期、場所、そのスタイルは様々で次第に変化し、一方、明らかな共通点や、時には模倣もあって、

興味が尽きない土偶です。

特に多いのは東北地方で、長い期間ほぼ切れ目なく作成されていたようです。

縄文草創期と言われる最古の土偶(顔無し)の一つは滋賀県で発見されていて、もう一つは

そこから約60キロ南東の三重県の松坂で発見されています。

この本では、土偶が作られていた時代に生きた人々へと思いを馳せ、土偶の謎を見つめています。

そして、時がたち、土の中から土偶が発見された時の物語が書かれています。

ほとんどは縄文遺跡の発掘の中で見つかっていますが、

家庭菜園のジャガイモ畑で主婦が見つけた、ということもあったそうです。

また、「蓑虫山人」(折り畳み式のテントのようなものを背負って旅をした)という幕末から明治にかけて生きた放浪の画家が、

青森に行った時に、亀ヶ岡遺跡に出遭い、発掘品に魅せられ、自らも発掘して、

発掘品の記録をとり、精密な写生をして、貴重な資料を残しているそうです。

興味深い人物です。

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『土偶のリアル』発見・発掘から 蒐集・国宝誕生まで

誉田亜紀子 著

武藤康弘・監修  スソアキコ・絵

2017年 山川出版

(図書館には、縄文土器、土偶、弥生土器、埴輪などのビジュアル本もたくさん並んでいました。)

 

 

 

 

 

 

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希望

2022-08-18 | book

ベン・シャーン「ピーターと狼」(1898~1969)(テンペラ、1944)

 

いつの時代もそうだった、のでしょうか?

戦争や紛争やテロが絶えなくて、

難民が流浪している。

各地で大規模な自然災害の頻発、

世界中にコロナウイルスが蔓延して、安心できる場所がない。

日本の政治の中枢は、外国のカルトに侵食され、腐敗しきっている。

庶民の暮らしは苦しくなるばかり・・・

・・・こんな時代だからこそ「希望」を守りたい!

 

ベン・シャーン「松葉杖の女」(テンペラ、1940~1942)

 

『 ベン・シャーン  クロスメディア・アーティスト 』

ー写真、絵画、グラフィック・アートー 

2012,美術出版社

 

 

 

 

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『椿井文書(つばいもんじょ)』日本最大級の偽文書

2022-07-31 | book

『中世の地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将のリスト、家系図・・・。

これらは貴重な資料であり、学校教材や市町村史にも活用されてきた。しかし、

もしそれが後世の偽文書だったとしたら?しかも、たった一人の人物によって創られたものだとしたら・・・』

(表紙見返しより)

****************************

驚きましたが、

一方で、ああこのようにして、神社や寺の由緒書きや系図なども作られるのだなと納得しました。

著者は研究者なので、

あくまで「椿井正隆」が作った偽文書の実態、検証、そしてそれらの大量の偽文書は今、何を語るのか、

著者がそれらの偽文書とどのように対峙し取り組んできたか、

そして今後の歴史学の課題について考察するのが、この本の主題なので、

「椿井正隆」の生涯がどのようなものであったかはよく分かりませんが、

マメに歩き回り、頭が良くて、几帳面で、人との交流もうまく、

字も絵も描けて、時流に敏感な人物だったことは間違いないようです。

例えば、ある時、とある大百姓が、先祖は由緒ある武士であった、との思い(空想)を反映した系図を注文したなら、

普通は適当に系図をでっち上げれば終わり、となるのですが、

椿井正隆は、古文書を創造し、それを○○で探し出したとして、それを☓☓年に自分が写したものだ、書いて署名して印を押す、

そして○○の周辺のいろいろな場所の伝説や遺物に関連する古文書をさらに創り出して、あちこちの例えば神社や寺にその写しとする文書を配置する。

しかも、紙や字体も変えているので、もし疑い深い人が調べても、調べれば調べるほど本当のことのように思えてくる・・・という手の込んだやり方をしているのです。

主に京都と大阪の間で活動しましたが、地域の地誌がその文書を元に書かれたり、

石碑が作られたりしている所もあるようです。

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『椿井文書ー日本最大級の偽文書』

馬場隆宏 著

中公新書  2020年

 

 

 

 

 

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2冊の本『消えた家族』『フォン・ノイマンの哲学』

2022-07-23 | book

いつも行く図書館の本の入り口付近の展示は毎回工夫が凝らされていて、

テーマに沿った本が、誰もが手に取りやすいような場所に平らに並べて置いてあります。

また児童書のおすすめ本が、大人にも目につく場所に展示してあります。

新しい本とだいぶくたびれた古い本とが混ざっているのもとてもいいと思います。

思わぬ本をそこで見つけることがあります。

今回のテーマは「夏」でした。

そこにこんな本がありました。

お父さんは散髪屋さん、趣味の写真で、家族を撮って、丁寧にアルバムに貼っていました。

空襲を恐れて、郊外に住む兄の所へ大切なものが送られていました。その中に何冊かのアルバムがありました。

この本はその残された写真に沿って作られた本です。

8月6日の朝、瓦礫と炎の中、お兄ちゃんは妹をおぶって逃げました。

兄は辿り着いたところで血を吐いて亡くなりました。

お母さんは家族みんなの死を知ると、井戸に飛び込んで命をたちました。

小学5~6年向きと書いてありますが、むしろ中学・高校生、大人に読んでほしい本です。

核兵器がいかに非人道的なものか写真が伝えています。

(各ページの短い文に英訳がついています。)

『ヒロシマ 消えたかぞく』 写真・鈴木六郎 指田 和/著 

ポプラ社 2019年

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私にとって本は、現実世界からの逃避の側面と、

今生きている世界をもっと知りたい、真実を知りたい、というもう一つの側面があります。

本を1冊読み終わるごとに、しばらく頭のなかがぼーっとしてしまいます。

残念ながら、というか幸いなことに、というか、しばらくするとほとんど忘れてしまうので、

また新しい本のページをめくるのです。

ところが、大量の数学や科学や言語学や機械工学などの理論書を記憶し、

理解し証明し新しい理論を構築して論文を書きまくる天才がいるそうです。

この本は天才中の天才と言われる「フォン・ノイマン」の生涯とその思想を振り返り、

ノイマンの哲学に迫るのが目的である、と著者は前書きで書いています。

ノイマンはコンピュータ(ハードとソフト、プログラム内蔵の概念)をはじめ、核ミサイルなど、

現在最先端の兵器の基礎を築いた人物です。

合衆国の国家機密(戦争省など)の様々な仕事をこなしながら、

同時に未来のコンピューター、ロボット、ブラックホールに関する基礎研究を進めていたという超人です。

この本にはノイマン以外にもたくさんの天才たちが登場します。

多くは裕福な家に生まれ、幼児の時から特別の教育を受けています。

初めから、特殊なエリートの世界を歩いています。

彼らの頭の中は凡人には想像もできない世界のようです。

 

世界を恐怖に陥れることも科学の進歩の側面、あるいは計算の結果であって、

それを突き詰めるべきである、と考える天才たち。

著者は、「ノイマンには目的の為ならどんな非人道兵器でも許されると考える『非人道主義』が根底にある・・・」

と書き、それを虚無主義と表現しています。

核兵器の開発の仕事していた仲間の一人は、ノイマンに「自分たちには何の責任も無い」と言われて気が楽になったそうです。

今も、イスラエルや中国やインドなど・・・世界のどこかでそのような天才が生まれているかもしれないと思うとゾッとします。

 

アメリカが、効果を知りながら、ノイマンらが作り上げた2種類(ウラン・プルトニウム)の原爆を広島と長崎に落としたことは、

どんな理由があっても、決して許されないことだと思います。

それにしても、と著者は語気を強めて書いています。なぜ日本はもっと早く降伏しなかったのか、と。

日本の軍部や政治家たちは戦後の自分の逃げ道を確保するために時間が必要だったのでしょう。

そのために、戦地はもちろん、空襲で多くの人が焼け死に、沖縄で人々が自決し、ヒロシマやナガサキで数えきれない死が生まれたのです。

『フォン・ノイマンの哲学/人間のフリをした悪魔』

高橋 昌一郎/著

講談社現代新書 2021年

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科学技術の開発はいつも歓迎されています。そして、社会の発展に結びつくと思われています。

でも本当にそうかなと、今つくづく思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さき」と「あと」

2022-06-13 | book

『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

高野秀行×清水克行(対談)著

集英社2015年

第2章「未来に向かってバックせよ」に

こんなことが書いてありました。

 

昔は、過去のことを「さき」と言い、

未来のことを「あと」と言った。

前は見えるけれど、後ろは見えない。

過去は見えるけれど、未来は見えない。

だから、未来の方向は?と問えば、今は「前」を指さすけれど、

中世までは見えない方「後ろ・背中側」だった。

 

未来へは、うしろ向きに歩く、走る、という感覚だったらしいです。

世界各地の人々が共通して持っていた感覚なのだそうです。

日本では16世紀ごろ、「サキ」という言葉に「未来」、

「アト」という言葉に「過去」の意味が加わって行ったそうです。

今も「前(さき)に、こんなことがあった・・・」のように「前(さき)」を過去のこととして使うこともあります。

先日、と言えば過去のことだし、後回し、と言えば未来の事、というふうに、「前・後」は文脈によって反対の意味になるのです。

おもしろいなー。

 

室町時代くらいまでは、世界(アジア、アフリカ)の辺境に暮らす人々と、

共通の感覚が多くあったのではないか、と、様々な観点から、

比較し、想像し、日本の過去へと、分け入る。

戦争、武器、独裁者、ならず者、

常識が、価値観がくつがえる・・・

*以前に「清水克行」の本『室町は今日もハードボイルド』をここに紹介しました。

またノンフィクション作家「高野秀行」の本『幻のアフリカ納豆を追え!』についても2年前に書きましたが、

この本は、その二人による、楽しい対談集です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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何もかも不思議

2022-04-20 | book

木々の新芽が広がり始めました。

イチジクの葉は、初めからイチジクの葉の形。

柿の葉も、茶の葉も、栗の木の葉も、柔らかな若葉が日毎に大きくなっています。

イチジクのように特徴は無くて、一見「そっくり!」と思っても、

よく見れば、葉脈や縁の様子や、感触や、香りなどが少しずつ違っていることがわかってきます。

そしてまた、1本の木に茂っている葉を何枚かちぎって比べて見れば、全部違う、

虫食いがあったり、ちょっと縮れていたり、色の斑があったり、大きかったり小さかったり・・・

 

もちろん虫たちも、同じ種類の虫でも、よーく見れば全部違うのだと思います。

見た目だけでなく、大胆なのも居れば、几帳面なのも、弱虫も、繊細なやつ、優しい奴もいて、

同じ遺伝子でも、双子の個性が違うように、1匹ずつ違うのだと思います。

はみ出し者や落ちこぼれ・・・

その個性こそが進化の原動力なのかも・・・

均一化されると、そこで、止まってしまう・・・

と、これは、今読んでいる本から学び、思ったことです。

ノミやハチやゴキブリやバッタを研究する中で、著者自身が考え続けている事をそのまま書いています。

「進化」とは、「個と社会」?「生きる」とは?

「あとがき」で著者は、現代の「哲学なき科学」を強く憂いています。

知識の羅列、強引な解説を分からせようとする学校の在り方を批判し、

博物学の基本に戻るべきだと書いています。

とても面白い本です!

『ミミズは切られて痛がるか』(生き物の気持ちになった生物学)

奥井一満(1933年-2004年

作者はもう亡くなっています。残念です。

光文社文庫1997(13年前に書いた本が文庫化されたもの)

 

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山田風太郎の本

2022-03-07 | book

昨夜は寝床で「山田風太郎」のエッセイ集を読んだ。

本棚から出してきた古い文庫本の中の1冊だ。

素晴らしくうまい文章なので、生い立ち、酒の話、文豪たちの話、

麻雀のことなどのたわいもない話でも、以前読んだことがあるエッセイでも、

眠い頭にするーっと入って来て、胸にすとんと落ちる。

最後の2つの章が印象深い。

 

一つは、『啄木記念館にて』

「石川啄木」の短歌とその生涯は、今も多くの人の心にまで届く力を持っている。

啄木と同じ中学の1学年上に、「及川小四郎」という人がいたそうだ。

学内でのストライキなどで、行動を共にした人物らしい。

啄木は、故郷を追われ、転々とし、

もがいてもがいて、あげく肺結核に罹患し、心身ともに苦しみながら26歳で血を吐いて亡くなる。

一方、及川は着々と出世して、啄木が亡くなる頃には駆逐艦の艦長、その後もどんどん駆け上り、ついに海軍大臣になった。

そして、なんと、日独伊の3国同盟の承認の書類に、自分の一存でポン!と印を押したのが、及川だったそうだ。

紛れもなき戦犯。何百万人もの人を死に追いやった責任者の一人だ。

しかし今、その名を知る人はほとんどいない。

 

もう一つは永井荷風について書いた章。『戦中の「断腸亭日乗」』

この章で山田風太郎は、永井荷風の日記「断腸亭日乗」と、

他の作家や新聞記事と〈同日に書かれたもの〉を並べて書いている。

永井荷風が、いかにその当時、異色で特別な人であったかが浮かび上がってくる。

いよいよ激しくなる戦争、現地からの戦況報告に対して、

荷風の日記には、喜んだり、熱くなったり、あるいは悲壮感に捉われたり、という態度が全くない。

もちろん、悟ったりしているわけではない。

冷静に社会や身の回りを見て思ったことを書いているだけ、

山田風太郎は言う。

荷風が日本人離れ、人間離れしていると思ったけれど、それは違っていた、

社会が狂っていて「・・・荷風は、ひとり正気であった・・・」のだと。

『風眼抄』 山田風太郎/著    中公文庫/1990

この小さな本は戦争について書いた本ではないけれど、

戦争の正体の、一つの面を浮かび上がらせている。

 

山田風太郎の随筆集(文庫)をもう1冊

『あと千回の晩飯』 朝日新聞社/2000年

アル中ハイマーの一日、少年時代の読書、昭和の番付、など

 

 

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『室町は今日もハードボイルド』

2022-03-05 | book

楽しい本で、一気に読んでしまいました。

日本の中世の魅力を、1冊の本の中に詰め込んで生き生きと描いています。

日本が、鎖国や様々な制度でがんじがらめの国になる前、

日本列島に住んでいる人々はどんな感じだったか、

山賊や海賊の話、 村人が一番大切にしたものは何だったのか、

荘園とは?  罪と罰について、正義とは、戦争について、

また、多様な信仰、そしてその信仰はどのように変わっていったのか、などなど、

いろいろ驚くことが書かれていました。

目次はこんな感じ

歴史の本というよりか、コラムを連ねたような、あるいはエッセイのような感じで、

歴史の本が苦手な人でも、自分の身近な事柄に引き寄せて読むことが出来、

そこからイメージを広げていくことが出来るのではないかと思います。

 

広さ、桝の大きさ、距離などのメジャーが、様々あった、でもそれは、デタラメだったわけではなく、理由があったこと、

年号は絶えず変わっていた(鎌倉時代には48回も変わっている)けれど、

干支(甲乙丙・・・と子丑寅・・・)の組み合わせで不便はなかったなど、

へえーそうだったのか、といろいろ教えられました。

 

中世は大昔の別世界のように思ったり、

意外に近しく思えたり、でも間違いなく

そんな中世の時代があって、長い江戸時代があって、今の時代になっているわけで、

だから、また変わることがあるかもしれない・・・!

 

『室町は今日もハードボイルド』

日本中世のアナーキーな世界

清水克行 著

新潮社  2021

(カメラのレンズに傷がついたのか、カビなのか、

いつも同じところにシミが出来るようになってしまった・・・)

 

 

 

 

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「アスベストス」他

2022-02-08 | book

検索していて、気になった本をまとめて予約していましたが、

先日全部図書館で借りてきました。

重い本を何冊も借りてしまいました。

そのうちの1冊は「ノモレ」

南米の先住民の一人に密着取材したルポルタージュです。

昔、その男ロメウの先祖らは、奴隷として、黒人や白人の下層貧民らと一緒にこき使われていた所から逃亡し、

アマゾン川の上流へ、より深いジャングルへと逃げている時、ある場所で二手に分かれ、そこで「いつかきっと再会を」と約束して生き延びたそうです。

現在は川の傍で、先住民としての生活の場所をある程度確保し、学校や病院などへも行くようになり、半自給生活を送っていますが、

「息子たちよ仲間を探してくれ・・・」と祖父らから頼まれた言葉を決して忘れることはありませんでした。

「ノモレ」とは「仲間」という意味です。

ある日、川の上流で裸族のうわさを聞き、

そしてついに・・・

『ノモレ』

国分拓 著  2018年 新潮社

 

2冊目は「アスベストス」

著者自身、ずっと電気工事士として現場で仕事をしていたために、アスベストの被害者です。

穏やかな筆致で、文字数も少ないのでどんどん読めてしまいますが、

いつものように読み飛ばしてはならない気がしてしまいます。

アスベストの害が明らかになってからも、きちんとした禁止措置を行わず、責任を問わず、

長く放置して、アスベストの処理方法について法律も行政も後手後手で、

ただ、患者が苦しんで亡くなるのを待っているとしか思えない国のやり方は、

水俣病などのへの対応と全く同じです。そしてまた福島の被災者に対しても全く同じ。

 

この本は、4つの短編からなっています。

そのうちの一つは、古いマンションをリフォームしようとして、天井板に「アスラックス」の文字を見つけ、気になって調べる夫婦の話。

最後の短編は、抽選で5階建てのマンションの5階が当たり「エレベーターはないけどええ風が入る・・・」と喜んだ家族は、

30数年後、近くの「クボタ」工場から排出されるアスベストの粉塵のために、家族で一番元気だった次男が、

夢の実現を前にして、無念の言葉を残し、中皮腫で苦しんで亡くなるのです。

 

現在もたぶんあちこちにアスベストが使われたままになっていると思われます。

アスベストを吸い込んでもすぐに症状が現れないために「静かな時限爆弾」と言われますが、

そのために、多くの人がすぐそばにアスベストがあっても、別に何とも思わない状況が今も続いています。

自然の中に無尽蔵にあって、とても便利な物質、と思えるものが、実は、生物(人間に)恐ろしい作用をもたらします。

考えてみれば、放射能もそうだし、水銀や鉛や銅や、石油も、使い方を誤れば、生物の命を奪います。

人はいつかもっと賢くなるのでしょうか?

『アスベストス』

佐伯一麦 著    2021年12月  文芸春秋社

図書館では、なるべく滞在時間を短くしたいので、

今は大抵、予約して、本が揃ったら借りに行くようにしています。

次回は、もう少し気楽な本を予約することにしようかなと思いますが、

この本「アスベストス」は、多くの人に読んでもらいたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『雪を読む・北越雪譜に沿いながら』

2022-01-20 | book

1月18日は満月だったそうです。

寝床の中で、雪原を煌々と月が照らしている風景を思い浮かべていました。

そしてまた、降りしきる雪で、月も星も見えない夜を想像していました。

でも、雪が珍しい所で育ち暮らしている私の想像は、ひどく貧弱に違いありません。

この本の著者は、日本列島のほぼ半分は雪が降るのに、

雪を知らない人たちが、政治や文化を論じていると書いています。

多くの辞書に、雪国なら誰もが知っている事項についての記載がない、と怒りをこめて書いています。

 

雪が多い年は、一年中の豊かな水が約束されます。

雪が少ないと、田畑の土が深くまで凍てついて、種蒔きが遅れてこまるそうです。

雪国の苦労、酷しさと同時に、雪国の喜びと、雪の面白さ、

雪の恩恵をこの本は伝えています。

小さな本ですが、雪国で育った著者の、雪と雪国への愛に溢れた本です。

2年前位の図書館の整理の際の廃棄本で、

たまたま手に入れました。

『雪を読む/北越雪譜に沿いながら』

高田宏(1932~2015)著

1997年  大巧社 シリーズ「日本を知る」 

 

 

 

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