ジョアン・ジルベルトが今年も来日公演を行い、これで2004年に続いて3回目となった。
25年前、札幌でジョアン・ジルベルトのアルバムを僕が密かに聞いて心を温めていた頃、もう彼は過去の人でライブを見ることはないだろうし、まして来日するなんてあり得ないと思っていたから、その25年も後に、大きな東京国際フォーラムを連日満員にするなんてほんとに夢のようである。
ただ、チケットには「最後の奇跡」と書いてある。もうこれで終わりなんだろうか?
19時開演時間となっていたが、例によって実際に始まったのは20時頃。毎年そうなので割とパンクチュアルだ。
1曲目 Nao Vou pra Casa。1999年のJoao Voz e Violaoに収録された曲。最初の声を聞いたとき、本当にこれが最後の公演になってしまうのかなと思った。声の末尾がはっきりしない。最後までもつだろうか・・・。
2曲目 Ligia。 1976年のThe Best of Two Worldsに収録されているジョビンの名曲。ジョアンは晩年になってもジョビンの曲が本当に好きなんだな。
3曲目 Isto Aqui o Que E? ジョアンの近年のライブで必ず欠かさないアリー・バローゾの曲。だんだん調子が出てきたぞ。
4曲目 うーんこの曲聞いたことがある。もしかして去年もやったかな。でもたぶんこれまでジョアンのアルバムに録音されたことはない。
5曲目 Pra Que Discutir com Madame? 1985年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ盤に登場して以来、ジョアンのライブの定番になっている曲。最後のところでギターのコードを間違ってしまう。そこでジョアンは観客の拍手が終わったあと間違えた箇所をもう一度やり直した。だんだんリラックスしてきたかな。
6曲目 Preconceito これも1985年のモントルーライブで初めて登場した曲。1941年の曲だそうな。ジョアンはこのあたりの時代のブラジル音楽を本当に好んでいて、ここ20年間その発掘作業(思い出し作業)を続けている。
7曲目 Felicidade 映画「黒いオルフェ」で繰り返し用いられるジョビンの名曲。音域が広い曲なので、ジョアンは時に高い音が苦しいようすをすることもあるが、今日はなんだか好調みたいだ。
8曲目 Este seu Olhar 1961年の3作目Joao Gilbertoの末尾を飾るジョビンの本当に甘い曲。
9曲目 Doralice 1960年の2作目O Amor, o Sorriso e a Florの2曲目に登場するドリヴァル・カイーミの作。もとの録音は本当に爽やかだけど、今日の演奏も往年を彷彿とさせる。
10曲目 この曲はたぶんジョアンの歌では初めて聞く。ジョビンの曲のような気がするけど、うーん思い出せない。
11曲目 Disse Alguem(All of me) フランク・シナトラの歌で知られる曲のブラジル版。ジョアンは1981年にジルベルト・ジル、カエターノ、マリア・ベターニアを招いたアルバムBrasilでこの曲を吹き込んだ。ライブではこれまであんまりやってこなかったのでは?
12曲目 Da Cor do Pecado 1994年のライブ盤に登場して以来、1999年のJoao voz e violaoにも収録されたBororoの作品。ボロローというのは面白い名前だけどどんな人なんだろう。
13曲目 Tim Tim Por Tim Tim 1977年のAmorosoで初めて録音されたHaroldo Barbosaの曲。これももとは1940年代とかの曲なんでしょうけど、ジョアンの手ですごくモダンに変装している。
14曲目 Retrato em Branco e Preto 1976年のThe Best of Two Worldsに収録されたジョビンとシコ・ブアルキ共作曲。悲しみを通り越して世界が歪んでしまったようなシュールなコード進行がすばらしい。カエターノはジョアンの最高傑作と言っているらしい。高校生の頃の僕もそう思っていた。
15曲目 Samba de Uma Nota So 言わずと知れたワンノートサンバ。1960年のo Amor, o Sorriso e a Florの冒頭を飾るジョビンの超名曲。一音で押し切ろうというミニマリズムの世界。
16曲目 Estate 1977年のAmorosoに録音されているイタリア語の曲。Bruno MartinoとBruno Brighettiという二人が作曲した。穏やかな音の進行のなかで、暑い夏に恋が燃え上がるという内容を歌う、秘めた熱さの曲。ジョアンは60年代にイタリアに行ったときにこの曲を耳にして、以来十数年暖め続けてようやく録音したという。ジョアンもこのころにはすっかりのってきて、声もなめらかだ。
17曲目 Bahia com H これもBrasilで、ジルベルト・ジル、カエターノ、マリア・ベターニアと楽しそうに競演していたのが思い出される。バイーアを讃えるこの曲をバイーア出身の4人が歌った。
18曲目 Caminhos Cruzados 1977年のAmorosoに収録されているジョビンとネウトン・メンドンサの作品。
19曲目 o Samba da Terra 1961年の3作目Joao Gilbertoの冒頭を飾るドリヴァル・カイーミの曲。61年のアルバムではリズミカルなギターの刻みがとても気持ちいいが、今日は少しおとなしい刻みだ。高いところでちょっと声がかれてしまった。
20曲目 Wave 1977年のAmorosoに収録されているジョビンの名曲。率直に言ってこの曲などはAmorosoのように背景にきれいなストリングスがあればすごく引き立つのに、なぜここ10年以上ジョアンはギター以外は全く伴奏をつけないことにしたのだろう。昔はオーケストラもドラムも決して嫌いではなかったと思うんだけど。
21曲目 o Pato 1961年のo Amor, o Sorriso, e a Florに収録されて以来、85年のモントルーライブでもやったし、一昨年からの東京公演でも必ず毎年やっている曲。邦題は鵞鳥のサンバ。本当に40年以上歌い続けている。ギターも歌も展開も速い曲なので、トレーニングを兼ねているのかも。
22曲目 Corcovado 1961年のo Amor, o Sorriso, e a Florに収録されたジョビンの名曲中の名曲。ブラジルの観光振興にも大いに役立っているはず。リオに行ってコルコヴァードのキリスト像を見上げると、必ずこの曲が心の中で流れ、ロマンティックな気持ちになる。
23曲目 Chega de Saudade 1958年にエリゼッチ・カルドーゾが歌ったジョビンの曲で、このレコードでジョアンが弾いたギターが評判になり、ジョアンのデビューにつながったという意味でまさにボサノヴァ最初の曲。曲も歌詞も悲しく始まり後半は明るく展開するというブラジルの楽観主義がよく現れた曲。ジョアンは毎回ライブの最後の方でこの曲を演奏する。今日も用意した曲目の最後だった。
さて、この後長いアンコールがありますが、今日はもう遅いのでこの辺でいったん休憩します。