社説:憲法と徴兵制 やはり解釈変更は危うい
7/3 安全保障関連法案に関する国会の審議が、徴兵制をめぐる議論にまで発展している。
衆院平和安全法制特別委員会で野党が同法案に関連し「将来的に徴兵制が導入されることにはならないか」とただした。政府側は「ありえない」と否定している。
だが、よく考えれば、野党の懸念には十分な理由がある。
簡単に説明しよう。
憲法は「徴兵制を禁止する」とは明記していない。
その上で、これまで政府は「意に反する苦役に服させられない」と規定した憲法18条などを論拠に、本人の意思に反して兵役を強制するのは憲法上許されない、と判断してきた。
「徴兵制は違憲」という結論は、こうした「憲法解釈」に基づいている。
この憲法解釈は、歴代政権が引き継いできた。
憲法には明記されていないが確定的な解釈で禁じられてきた-という点は、集団的自衛権の行使と同じだ。
しかし、安倍晋三内閣は1年前の閣議決定で「集団的自衛権は行使できる」と憲法解釈を変更した。
これが許されるのなら、そのうち政府が徴兵制についても解釈を変え、「合憲」と言い出すのではないか-。そんな疑念である。
憲法解釈を安易に変更する最大の問題点はここにある。
憲法には何から何まで書いてあるわけではない。
そこで、長年の解釈の積み重ねで「できること」と「できないこと」を確定してきた。それが全て揺らいでしまうのは危うい。
徴兵制をめぐっては、自民党の石破茂地方創生担当相が、過去に国会で「意に反した奴隷的な苦役だとは思わない」と発言し、憲法18条を根拠とする徴兵制の禁止に疑問を呈したことがある。
現代の軍事行動は専門性が高く、徴兵制は適さないとの指摘がある。
一方で、少子化が進み、自衛隊の任務に危険が増して入隊者が減れば、徴兵制が必要になるという観測も現実味が増している。
国民に直接関わる徴兵制というテーマを通して、今回の憲法解釈変更と安保法案の持つ意味を、もう一度深く考えてみたい。
更新:2015/7/5 日刊ゲンダイ
誰が望んだか不明…「18歳選挙権」は徴兵制導入の地ならしか
選挙権の年齢を18歳以上に引き下げる「公職選挙法改正案」が成立し、誕生日を迎えた高校3年生も有権者に含まれることになった。来年夏の参院選から適用される。
不思議なのはだれがこの法改正を強く望んだのか、さっぱり見えてこないことだ。少なくとも、国民が声を上げたわけではない。
2年前の10月に内閣府が実施した「民法の成年年齢に関する世論調査」によると、「18、19歳で契約を一人ですることができる」に賛成した人は2割に満たなかった。「18、19歳に父母の親権を及ばなくする」についても賛成は3割弱。2007年に成立した国民投票法は、国民投票できる年齢を18歳以上とした。それでも大多数の日本人は、「18、19歳にさまざまな権利や義務を与えるべきだ」と考えてはいないのだ。
それなのに選挙権だけは、「若い人の意見を取り入れていかなければならない」(自民党の谷垣幹事長)と引き下げられた。自民党憲法改正推進本部長の船田元・衆院議員は「世界176カ国が18歳かそれ以下に選挙権を与えている。18歳化はナショナルスタンダード」と強調する。だが、このナショナルスタンダードには別の側面があるようだ。
政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「20歳以下に選挙権を与えている国の多くは、その年齢から兵役を義務付けています。世界のスタンダードは選挙権が18歳からというところではなく、兵役とセットだということ。投票行動で政治に意見する権利を持つ者は、国を守る義務も負うわけです。もちろん、選挙法改正が徴兵制導入に直結するとは考えにくい。ただ、高校を卒業したばかりの18歳の若者を戦地に送る際の障壁のひとつがなくなることは確かでしょう」
近い将来、自衛隊員が足りなくなり、徴兵制を導入せざるを得なくなった時でも、法改正をしておけば、「選挙権も持たない若者をなぜ」と批判されることはない。ダブルスタンダードの解消を理由に、18歳以上を成人とする民法改正が成立すれば、ハードルはさらに下がるだろう。
安保政策通を自任する石破地方創生相は「徴兵制は苦役ではないから憲法違反にならない」と公言している。
軍靴の足音が近づいているようだ。
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