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死んで花実が咲くものか(日本式責任の負わせ方 割腹)

2014-08-05 | Weblog

<理研>笹井芳樹副センター長が研究棟で自殺 現場に遺書

8月5日付毎日新聞 

 STAP細胞論文の責任著者の一人である理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市中央区)の笹井芳樹副センター長(52)が5日朝、CDBと隣接する先端医療センター内で首つり自殺を図り、兵庫県警が午前11時3分、搬送先の病院で死亡を確認した。遺書が残されていたという。STAP細胞を巡っては、理研が4月以降、論文通り再現できるか検証実験を進めており、8月中に中間報告を出す予定だった。

【STAP問題で】笹井氏、謝罪のコメント(抜粋)

 県警によると、先端医療センターの研究棟はCDBと通路でつながっており、笹井氏は研究棟の4階と5階の間にある踊り場で、手すりにくくりつけたひも状のもので首をつっているのが見つかった。午前8時40分ごろに発見され、110番通報があった。笹井氏は半袖シャツにスラックス姿。踊り場には革靴と遺書の入ったカバンが置かれていたという。

 笹井副センター長は1986年に京都大医学部を卒業。京大教授を経て理研に入り、2013年から現職。胚性幹細胞(ES細胞)研究の第一人者として世界的に有名だった。

 STAP細胞論文では、責任著者の一人として、筆頭著者の小保方晴子・研究ユニットリーダー(30)を指導し、今年1月の記者会見に同席。論文が不正と認定された後の4月には東京都内で会見し、指導の不備を謝罪したが、STAP細胞の存在そのものには自信を見せていた。理研が進めている検証実験には小保方氏も参加している。


理研の笹井芳樹さん自殺と政治責任;

こんな馬鹿な事件で、笹井さんのように大変優れた人が判断ミスで自ら命を絶ってしまうなんて、本人や周辺のみならず、日本社会全体に対して大きな損害であることは言うまでもありません。

恐らくは、事実関係をすべてご存知の上で、取り返しのつかないことだと己を責め続けた結果、自ら死を選んだのでしょう。辛かったのか、責任を取りたかったのか、真相は明らかではありませんが… はっきり言って、笹井さんがサークルクラッシャーのような女性に取り込まれて舞い上がって組織を巻き込んでやらかしたのだという話だったとしても、筋道を立てて説明し、再発の防止に協力して、後進の育成や公正な評価に資する活動に笹井さん自らが身を投じていれば、あれは悪夢だったのだと忘れることもできたのでしょう。挫折のない人が順調にレールの上を走ってくるほどに、ちょっとした事情で思い悩み、相談する相手も周囲になく、自分を追い詰めてしまうのはよく目にすることです。勿体無いとしか言いようが無い。

そういうときに、物事を客観的に判断し、然るべき対応を促す政治判断というのはとても重要だったと思うのです。確かに小保方晴子を引き上げた責任は笹井さんにあり、また微妙な捏造論文を科学誌に掲載させてしまうような後押しをしたにせよ、その事情を評価し事後処理を行う責任を持つのは紛うことなき行政と理研トップ、ひいては全体の方針を決定付ける文部科学省の大臣が責務を負っていたと思うわけです。

一口に研究組織のガバナンスの問題と言うのは簡単でしょうが、STAP細胞の再現実験に小保方を参加させるの、論文不正がどうだのといった、戦線が拡大してしまった理由と言うのも、人生を捧げている研究者の皆さんや、研究費を事実上負担している日本国民納税者が納得のいく厳正なる対処を進めることこそが唯一の解決方法だったのに、それを採らなかったことだと思うからです。留保つきでもいいから、いったん小保方晴子の研究者としての資格を停止する判断をしていれば笹井さんだけが責任を感じることなく死なずに済んだだろうに、という点で、原因究明や小保方処分に逡巡したすべての関係者に責任があるんだろうと考えるわけですね。

「小保方をうっかり処分すると、他の問題にも飛び火するかもしれない」という躊躇が、結局メディアの関心を呼び起こして関係者の自殺にまで結びついてしまうわけですね。誠に残念なことですし、一時期はノーベル賞候補を京都大学山中教授と争ったとまでされる俊英笹井さんの無念を考えると、もっと早く手を打っておけばと強く感じるわけですよ。もちろん、情愛交じりのメールを公衆の目に晒したNHKのドキュメンタリーも、その後痛い腹状態で出てきた経費の不正使用疑惑も、すべては「3月4月ごろに論文の取り下げを行い、関係者の処分を迅速に行っていれば、これ以上のダメージもなく問題を処理できていたであろう」という点で、やはり理研執行部や監督官庁である文科省と、何よりも下村博文文科相のリーダーシップが発揮されていれば回避できたことだろうなあと感じるわけであります。

あくまで結果論ではありますが、いま思えば、この辺のすったもんだでいたずらに時間稼ぎをされてしまい、然るべき処分が遅れて問題の幕引きができなかったというのは大きいと思うわけですよ。

慎重にやった結果が、疑いが疑いを呼んで収拾がつかなくなるというスキャンダルのダメージコントロール問題は、今回のガバナンス不全の対応と併せていろんなものを浮き彫りにしたと思います。(文:山本 一郎、イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役)