雨、5度、85%
佐藤正午の7年ぶりの本「冬に子供が生まれる」を読みました。7年前、帰国後最初に読んだ日本の小説は確か佐藤正午の「月の満ち欠け」でした。岩波文庫に現代作家、しかも現存の作家の作品があることに驚いて手に取りました。後で知ったことですが新しい岩波書店の社長の英断だったそうです。
宗田くんのスマホに一通のメッセージが届きます。「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」このシーンから始まる話です。一日足らずで一気に読み上げました。UFOを見た子供たち3人と一人の女の子の小学から40歳近くになるまでの入り組んだ人生、常識からは外れるけれどあり得るかもしれないと思わせる佐藤正午独特な世界です。読み進めて行くと誰の目から見た話なのかと?訝りました。どこかに目があるのに誰の目だか分からずにいました。宗田くんたちの中学校の教諭の目線が途中で明らかにされます。最後はその70歳近い教諭がこの物語をパンデミックの間も書き進めていたと、教諭に佐藤正午自身を被せます。
結末がない話です。読み終えた人は、それぞれに自分がこうあって欲しいと思うように仕上げられています。ああでもない、こうでもない、ご自由に。それが余韻を作ります。人の心の中の暗い部分を垣間見るような話でした。でも、後味は悪くない。
一気に読めたのは、福岡は毎日雨、それとこの本を開くとわかるのですが、仮名遣いが読みやすくできています。漢字が圧倒的に少ない本でした。
雨の日に家で古い映画を見るのもよし、新刊の本を読むのもよし、雨は人の心に何かを呼び起こすように思います。