どの方角からも認めにくい立地にあり、その場にきてやっと気付く。
路地の先で、客らしき数人が立ち話をしているあたりが入口のようだ。
11時30分の時間厳守の開店を告げる、チョーク文字の黒板が入り口脇のベンチに立てかけられた。
6年の準備期間を経て、創業から4年の「あすかの食卓」は夫婦で営まれている。
奥様がシェフで、それ以外はすべてご主人が担当されていた。
その日は、私たちを含む4組10人の予約客がワンフロアで時をともにした。
個々のペースで料理が供されるのではなく、全員が足並み揃えて食事が進行する。
このシステムは私にとって異例だった。
料理ごとに、ご主人の穏やかな声で詳しい説明があり好印象をうける。
使用食材の種類が多すぎて、耳慣れない物は覚えきれないが、色形や味と香りから名前を手繰り寄せられるものあり、物忘れが気になる昨今ゆえチョッピリ安心したりして。
オレンジジュースとグレナデンシロップにワインを注いでステアしたワインカクテル。
フルーティーで飲みやすい食前酒から始まった。
次の豆乳スープは具だくさんのあっさり味。
大根、ごぼう、ひよこ豆、玄米、カブの葉、などなど。。。
続いて、イタリア直輸入の生ハム、鴨肉などの前菜もまじえ途方もないてんこ盛りサラダがテーブルを占領した。
・・・ぅわぁ~の一言に続く、すごい、キレイ、うれしい、あと諸々の思いが胸中でぶつかり合う。
紫人参もそうだが、27種がひしめき合う一皿、こんなの初めて。
食べても食べても底は見えてこないが、3時間を要するコースと初っ端に聞き及んでいるから、何ら心配はしなかった。
たっぷりの時間が解決してくれるものと信じて・・・。
柿のドレッシングが程よく絡み、美味しく最後までゆっくりといただいた。
既に1時間が経過していた。
そして、ひとつ目のメインはグラタン、エスカルゴとパンがワンプレートで。
ムール貝、エビ、じゃがいも、玉ねぎ、かぶ、ブロッコリーなどが見え隠れ。
トロ~リなのにサラッとした味で、胃への負担は軽い。
パンはそのままでも十二分に美味しいが、エスカルゴのバジルオイルを付けると美味さが倍増する。
食事開始から2時間が過ぎたころ、ふたつ目のメインができあがったようだ。
想像を絶するまさかの和膳。
このタイミングで、この内容とはねぇ。
しめ鯖、仄かな甘みのワタリガニと枝豆の炊き込みごはん、炊き合わせ等9種。
切り干し大根に黒コショウが意外に相性よく美味。
前半、後半ともに1食として立派に成り立つメニューだ。
量的には私の胃袋の許容範囲を明らかに越えている。
ところが、不思議なくらい抵抗なく完食。
シェフのオリジナルで薄味に徹しバラエティに富む味付けと、油分控えめも喜ばしい。
洋メニューの切りが付いた頃、幾多の経験から、時間的、量的にもデザートへ移行するものと早合点した胃袋は、次なる作業に取り掛かっていたようだ。
しっかりと出来上がった別腹が大役を果たしてくれたことは否めない。
かと言って、肉や揚げ物揃いなら多分お手上げだったろうげど。
いよいよ終盤。
私の誕生祝いを伝えていたので、デザートのチーズケーキにこんなサプライズが。
ロウソクなんて、ずいぶんと久しい。
事情を知った回りの方々からも祝福を受け、嬉しいやら気恥ずかしいやら。
ヘーゼルナッツとバニラのフレーバーコーヒーと共にいただく。
フレーバーコーヒーの習慣がなく単独では頼りなさを感じたが、ご主人の説明通り濃厚なチーズケーキとの相性はよかった。
ミルクと砂糖を意図して添えないわけは、ブラックで飲んでみてわかる。
ところが、和食で別腹を使い果たした後だけに手こずってしまう羽目に。。。
席を立ったのは、食事開始から3時間を経過したころだった。
そこでさらに驚くべき言葉をご主人の口から聞くことになる。
時間を急く方がいらしてハイペースだったが、本来はもっとゆっくりしていただけます、だって。
人一倍時間を要する私でさえ、心ゆくまで味わい尽くせた。
それ以上の時間を有するとなれば、未知の空間の思いがけない何かをつい期待してしまう。
明日香とくれば言わずもがな、腹ごなしの散策は甘樫丘。
舞い落ちる花びらを全身に受ける。
それでもまだまだ枝はふくよかに桜色で、落ち着いた趣きだ。
あすかを食し、明日香を眺め、原点を見つめ直すには良き日となった。
w(°O°)w
別腹まで使いきってしまったら、その日の晩御飯は食べられなかったんと違います?(^^;)
でも、3時間が普通に過ぎゆくのですから感服します。
その時は、もう夜はいらないと思いましたが、野菜中心の身体に優しい内容ゆえ、程よく消化も進み、軽く夕食をいただきました(^Q^)