暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

【目眩く儚い日々はこんな】第拾弐夜

2009年10月04日 21時51分11秒 | 小説系
     霊(たま)の十日間2

 本、本、本。
 森の木のように本が並んでいた。
 その真ん中に、一人の男が腰掛けていた。腰掛けまで本である。
 しかも著者はそのどれもが「石動鉋(いするぎかんな)」となっている。
 健介の父は作家のようだった。著作で部屋が埋まりそうなほどである。
「よく来たね健介。父さんにすべてまかせておきなさい」
 呆然として部屋に入る健介。
 ドアはひとりでに閉まった。
 ……やばい。
 そう思った時にはもう遅かった。
 石動鉋の瞳がこちらを向く。
「猫の幽体か」
 体が石になったように動かない。
『やぁ、猫の幽体がいったい何の用だい』と。
 石動鉋の思念波が飛んで来た。
 こちらも同じ波長の思念波で答える。
『ご心配なく。あなたの邪魔をするつもりはありませんよ』
『だったらいいんだけどね』
 と。金縛りは解けた。存外、話のわかる男のようである。
「健介。疫幽(えきゆら)さんのところには猫でも居るのかい」
「な、なんで知っているんですか、お父さん」
 驚いた様子で健介は言った。
「ははは。父さんはなんでも知っているよ。だから心配しなくていいんだ。悩んでいることがあるんだろう? 話してみなさい」
 健介は安心した様子で語り出した。
「ぼ、僕……今日、ハナちゃんと木に登って遊んでたんです。それで、『あの枝まで行って先にタッチしたほうの勝ちだからね』って競争したんです。僕はすぐに着いて、まだずっと下のほうで戸惑っているハナちゃんに、『ハナちゃんも早く来なよ!』って急(せ)かしてしまったんです。ハナちゃんは、途中まで来たところで細い枝に体重をかけたせいで枝が折れて、体勢を崩して頭から落ちて行ったんです」
 そして、その落ちる瞬間。
 儚は、たまたま下で寝ていた霊(たま)にぶつかった。
 というより。
 二人の様子を上から眺めようとして睡眠状態になったその瞬間に、儚が落ちて来たんである。
 まるで隕石と隕石が衝突するように。
 霊の魂と儚の魂が衝突した。
 その結果。
 儚の魂が欠けて、その破片が霊の魂に癒着したのだ。
 この時、霊に儚の魂のかけらがくっつかなければ。
 魂だけの霊(れい)となった儚に、霊(たま)の姿は見えなかっただろう。
 ただ普通に幽霊になっていたなら、彼女には疫幽の「人間」しか見えなかった。「猫」である霊(たま)が見えたのは、疫幽儚という人間の魂のかけらが霊の中に宿っていたからなのだ。
 つまり、今そうやって見ているきみは、不完全な疫幽儚の魂なのである。
 …………
 私が――疫幽儚の魂。
 少し、記憶の旅からはずれた。
 疫幽家の人間だけでなく、猫の霊――血の繋がりのない者――が見えたのは、私(はかな)の魂の破片が霊に宿っているからだったのだ。
 本来なら、血の繋がった家族しか見えなかった。
 自分が疫幽儚の魂であることもわからず、私の体――
 ――そうだ。
 私が疫幽儚なのなら。
 今、疫幽の家にいるあの儚は何なのか。
 体は儚だし、自分を儚だと自覚している、あの少女は一体……
 その答えも霊(たま)は知っているのだろう……。
 私、疫幽儚は再び霊の記憶に意識を集中した。




     つづく

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