霊(たま)の十日間3
「それで、そのハナちゃんという女の子は、死んでしまったんだね?」
健介の話に理解を示す、石動鉋(いするぎかんな)。
「……はい。そうです、お父さん」
「それで、死体はどうしたんだい」
「えーっと……最初はとにかく家族の人に知らせなきゃと思って疫幽さん家まで運びました」
「それで?」
「ハナちゃんのお母さんが出て来て。……おばさん、ショックで気絶してしまったんです。それでようやく、僕も冷静になって考えたんです。このままじゃまずい。おばあさんなんて高齢だから、ショック死してしまうかもしれない……。だから、やっぱり死んだことはなかったことにして、ハナちゃんを生き返らせようって、思ったんです。
ねぇ、お父さんなら、その方法もわかるでしょう……?」
「ふーむ。彼女の魂が成仏していなければあるいは可能かもしれない。魂と肉体さえ無事なら、ね。ただし、本来ならしてはいけないことだ。それに……」
「それに?」
「人体蘇生にはそれなりの生贄(いけにえ)が必要なんだよ」
「いけにえ……?」
健介は、カードゲームで高レベルモンスターを召喚する際にモンスターを生贄にするルールを思い浮かべただろう。
生贄にしたモンスターは、墓地に送らねばならない。
「ふふふ。まぁ、生贄についての詳しい話はあとでしよう。まずは死体だ。
死体はどこにあるんだい?」
「秘密基地に隠してあります」
「よし。じゃあ早速取りに行こう」
石動鉋は腰掛けにしていた本から立ち上がる。
『きみも来るといい』と、思念波が届いた。
『言われなくてもついていきます』と返した。
夜。もうすっかり外は暗い。
晴れていて、ほとんど円状の月が輝いていた。
もうすぐ満月になるだろう。
――疫幽儚を生き返らせる。
そのために、石動鉋と健介は、秘密基地の洞穴に向かった。
二人は車に乗って走り出した。
この辺りで車を所持しているのはおそらく、石動家くらいのものだろう。
それにしても。
一度死んだ人間を生き返らせるなど。
そんなことが本当に可能なのだろうか。
少なくとも霊は、人体蘇生の方法など知らない。
そして恐るべきは石動鉋。
幽体である霊(たま)が近くにいることに即座に気づき、魂の波長を瞬時に読み取って、思念波を送ってきた。
あそこまで霊的能力を使いこなしている人間など、見たことがない。
と。
こちらの考えが読み取れたのか。
フ、と。
石動鉋は笑った。
暗くなった秘密基地へのルートは、もはや道ではなかった。
「け、健介。父さんはここで誰か来ないか見張っておくから、健介はハナちゃんを連れて来てくれ!」
「わかりました」
懐中電灯を片手にすいすいとよじ登ってゆく健介。
「まったく、子供というのはすごいものだな」
独り言を言って、父、石動鉋(いするぎかんな)は苦笑する。すっかり歳をくってしまった自分への嘲笑だろうか。
『ビンゴ』
…………やはりこちらの考えは筒抜けのようである。
こんなことをするのは初めてだが。
思索に使う波長と周波数を変えてみた。
『おぉ。いきなり読めなくなったよ。すごい技術だね。猫にこんなことができるだなんて、驚きだよ』
送受信の波長は変わらないので会話は可能だった。
『あなたこそ凄い。本当に人間を蘇生させるつもりらしいし』
『ははは。正直自信はないんだよね。でも実験になるから楽しみなんだ』
実験だなんて……。しかしそれでも。
疫幽儚が蘇るのであれば、僕はどうでもいい。
『実験ではなく儀式だと言ってもらいたいものだけど、蘇生の可能性があるのならお願いします』
『別に。お願いされなくてもやるさ』
フフフ、と。石動鉋は奇(あや)しく笑った。
つづく
「それで、そのハナちゃんという女の子は、死んでしまったんだね?」
健介の話に理解を示す、石動鉋(いするぎかんな)。
「……はい。そうです、お父さん」
「それで、死体はどうしたんだい」
「えーっと……最初はとにかく家族の人に知らせなきゃと思って疫幽さん家まで運びました」
「それで?」
「ハナちゃんのお母さんが出て来て。……おばさん、ショックで気絶してしまったんです。それでようやく、僕も冷静になって考えたんです。このままじゃまずい。おばあさんなんて高齢だから、ショック死してしまうかもしれない……。だから、やっぱり死んだことはなかったことにして、ハナちゃんを生き返らせようって、思ったんです。
ねぇ、お父さんなら、その方法もわかるでしょう……?」
「ふーむ。彼女の魂が成仏していなければあるいは可能かもしれない。魂と肉体さえ無事なら、ね。ただし、本来ならしてはいけないことだ。それに……」
「それに?」
「人体蘇生にはそれなりの生贄(いけにえ)が必要なんだよ」
「いけにえ……?」
健介は、カードゲームで高レベルモンスターを召喚する際にモンスターを生贄にするルールを思い浮かべただろう。
生贄にしたモンスターは、墓地に送らねばならない。
「ふふふ。まぁ、生贄についての詳しい話はあとでしよう。まずは死体だ。
死体はどこにあるんだい?」
「秘密基地に隠してあります」
「よし。じゃあ早速取りに行こう」
石動鉋は腰掛けにしていた本から立ち上がる。
『きみも来るといい』と、思念波が届いた。
『言われなくてもついていきます』と返した。
夜。もうすっかり外は暗い。
晴れていて、ほとんど円状の月が輝いていた。
もうすぐ満月になるだろう。
――疫幽儚を生き返らせる。
そのために、石動鉋と健介は、秘密基地の洞穴に向かった。
二人は車に乗って走り出した。
この辺りで車を所持しているのはおそらく、石動家くらいのものだろう。
それにしても。
一度死んだ人間を生き返らせるなど。
そんなことが本当に可能なのだろうか。
少なくとも霊は、人体蘇生の方法など知らない。
そして恐るべきは石動鉋。
幽体である霊(たま)が近くにいることに即座に気づき、魂の波長を瞬時に読み取って、思念波を送ってきた。
あそこまで霊的能力を使いこなしている人間など、見たことがない。
と。
こちらの考えが読み取れたのか。
フ、と。
石動鉋は笑った。
暗くなった秘密基地へのルートは、もはや道ではなかった。
「け、健介。父さんはここで誰か来ないか見張っておくから、健介はハナちゃんを連れて来てくれ!」
「わかりました」
懐中電灯を片手にすいすいとよじ登ってゆく健介。
「まったく、子供というのはすごいものだな」
独り言を言って、父、石動鉋(いするぎかんな)は苦笑する。すっかり歳をくってしまった自分への嘲笑だろうか。
『ビンゴ』
…………やはりこちらの考えは筒抜けのようである。
こんなことをするのは初めてだが。
思索に使う波長と周波数を変えてみた。
『おぉ。いきなり読めなくなったよ。すごい技術だね。猫にこんなことができるだなんて、驚きだよ』
送受信の波長は変わらないので会話は可能だった。
『あなたこそ凄い。本当に人間を蘇生させるつもりらしいし』
『ははは。正直自信はないんだよね。でも実験になるから楽しみなんだ』
実験だなんて……。しかしそれでも。
疫幽儚が蘇るのであれば、僕はどうでもいい。
『実験ではなく儀式だと言ってもらいたいものだけど、蘇生の可能性があるのならお願いします』
『別に。お願いされなくてもやるさ』
フフフ、と。石動鉋は奇(あや)しく笑った。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます