暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

6年前に書いたショートショート、書き直してみた。その1

2012年07月01日 16時16分32秒 | 小説系
ショートショート
【山川】

原作:加辻後 石矢
加筆・修正:無酩


   1

 先週の土曜日、つまり8月12日のことだった。

 珍しく、弟が川に行くというので私もついていくことにした。
 別になにか嫌な予感を感じたり、不審に思ったわけではない。
 弟が何をしようと企んでいるのか。
 それが確信をもって伝わってくるほど、瞳がそれを物語っていただけである。
 ――まったく。兄貴には敵わないなあ。
 私が弟の企みを読みとったように、弟もこちらの意図を察したようだ。
 それでも予定通りに進めたいらしく、彼は無言で自転車にまたがった。

 遠かった。
 一時間以上もかけて山の坂道を登った。
 道がほぼ川に沿って走っているので、途中、何度もキャンプ中の人々を見かけた。皆、楽しそうな雰囲気である。
 それを見るたびに弟は舌打ちする。それは彼らが楽しそうにしているからではない。弟はただひとけのない場所を求めていたのである。目的地はこれまでに何度か行ったことがあり、人はいないはずだと弟は確信していた。
 はたして目的地には人がいた。パンツ一丁の少年とその仲間たちである。
 私たちはひき返した。
 人のいないポイントを求めてさまよった。
 私たちは人を避けた。
 別に、見られてまずい取引をするわけでも腹がたるんでいるわけでもなかった。
 ただ溺れたときに誰の助けも得られずそのまますんなり死んで逝けるからというつまらぬ理由からだった。
 そんな些細なことのために、私たちはちまなこになって無人の場所をさがした。
 家で首を吊ったほうがずいぶんと簡単だったろう。
 しかし私も弟も、夏なら川か海で水死体になるべきだ、という妙な価値観があった。
 水死体に憧れていたのである。
 部屋で死ぬのに比べて電気代もかからず大変エコである。
 しばらくしてようやく人のいないポイントを見つけた。
 夏の太陽は私たちに容赦がなかった。汗だくになった。息も上がっている。
 しかしながら、休んでいる暇はない。
 私と弟は、人がきて自殺に失敗するかもしれないというネガティブな考えに怯えていた。だから一刻も早く溺れなければならないという強迫観念に支配されていた。
 はたと気づく。
 二人で協力すれば、一人を水死体に変えるのは簡単だろう。
 そこで私は、じゃんけんをして勝ったほうが負けたほうの協力を得て先に死ねる、というルールを提案した。
 すこし間があって、承諾のうなずきを返す弟。
 さいしょはぐー、というかけ声とともに、文字通り命運をわかつじゃんけんが始まった。

(2へつづく)


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