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小説『利益相反』

2023年06月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

利益相反(りえきそうはん)とは、
信任を得て職務を行う地位にある人物が
立場上追求すべき利益・目的と、
その人物が他にも有している立場や個人としての利益とが、
競合ないしは相反している状態をいう。
このような場合、
地位が要求する義務を果たすのは難しくなる。
一定の利益相反行為は違法なものとして扱われ、
法令上、規制対象となる。
そうでなくても、倫理上の問題となる場合があり得る。

という利益相反だが、
昔、ある団体に対する攻撃案件を
弁護士に依頼したところ、
その弁護士が、その団体の顧問弁護士をしていることから、
「それは利益相反になるので」と断られたことがあり、
その用語を初めて知った。

そういう関心のある事柄なので、読んだ次第。

不動産会社グリーンヒルA社が舞台。
社長の樋山健介は、25歳の時に創業し、
年商1500億円の上場企業にまで成長させたオーナー社長。
冒頭、社内クーデターに遇って、
社長を解任されそうになり、
それを顧問弁護士の矢内や
腹心の部下、常務取締役の掛川と共に阻止する。

次に、監査役だった税理士が病死したため、
その代役に矢内を立てたことから、問題が起こる。
監査法人からトンネル会社の不正を明かされ、
それを知った矢内がそれを指摘せざるを得なくなり、
弁護士と監査役の立場から葛藤が起こる。
話は樋山、矢内、掛川の三者の立場で語られ、
それぞれ追い詰められていく・・・

作者の牛島信氏は、東京大学法学部を卒業し、
検事の経験を経た後、
現役の国際弁護士として活躍中の人。
企業小説を沢山手がけている。

「利益相反」という題名に惹かれて読んだが、
後には不完全燃焼感が残る。
というのは、社長の樋口が
上場企業という社会的存在をわきまえないエゴイストとして描かれているからだ。
なにしろ、監査法人に指摘されたダミー会社の件を改善せずに、
自身の金銭的欲求を満たし、
その結果、監査法人の辞任を呼び込み、
上場廃止をくらって、
株主の利益を損なうことさえ平気でするのだ。
腹心の部下の掛川も、会社を救う、という意気込みの割には、
悩みが矮小で、自殺までするのは納得できない。
弁護士の矢内がその職責をまっとうして
樋口を追い詰めるかと思うと、
こちらも簡単に自殺してしまう。(両者とも未遂)
その上、矢内が樋口の落とし胤という話が起こり、
それが社会的制裁の種になって心配する、というのも、
そんな不確定なことで、会社が攻撃されることはない。
まして、樋口に子種がないことは
小説の中で明らかになっており、
人の話を易々と信ずる樋口もどうかしている。
さっさとDNA鑑定をすればいい話だ。

というわけで、
題材の割には、
切り込み方、処理の仕方を間違えたとしか思えない作品だった。
人物の描き方も文章もベテランの割にはヘタクソだ。
巨大企業のオーナーとしての人生への悔恨、
上司の意志に逆らえない取締役の葛藤、
法律に束縛された弁護士の立場、
企業の意志は取締役会議が決め、その当否は問題ではない、
など、少し踏みこむようで、踏みこまない。

というわけで、あまりお勧めできる本ではないが、
こういう題材の本もあります、ということで、紹介。

法律改正により、
監査法人の力がものすごく強くなったことは、参考になった。

 



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